第26回 再び燃え上がる商業の世界への意欲

 『オバマの大統領』の表紙絵については、チームLemoneの合同誌で編集人を務めた、うめじそさんに依頼することにした。他にはない独特のタッチの絵を描く人なので、彼なら『オバマの大統領』にピッタリの表紙を描いてくれるものと思ったからだ。


 今にして思えば、イラストを頼む時の報酬のことをちゃんと考えていなくて、「今度お酒をおごらせてください」ということで依頼するという、大変失礼なことをしていた(もちろん今ではイラストレーターさんに表紙絵を頼む時は、ちゃんと見積りを取って、適正な報酬をお支払いしている)。それでも快く引き受けてくれたうめじそさんには、本当に感謝している。


 その後、うめじそさんから送られてきた『オバマの大統領』の表紙絵は、すさまじくインパクトの強いものだった。どう見てもドナルド・トランプそのものな大統領の顔がどアップで描かれており、そのトランプもどきの大統領の顔半分はターミネーターの如く機械が剥き出しになっている。一度見たら忘れられない、強烈なイラストだった。文句なしに最高の出来だった。


 ちなみに余談であるが、『オバマの大統領』の主人公の大統領は、ドナルド・トランプそっくりに描かれているわけだが、その表紙絵を描いてもらった当時はまだ大統領選の真っ最中で、トランプは単なる候補の一人でしかなかった。しかも当時の雰囲気は、「あんなネタキャラみたいなオッサンが大統領になるわけないだろ」「なったら世界の終わりだ」というものがあったから、まさか大統領となるとは自分は夢にも思っていなかった。

 後から振り返ると、うめじそさんの表紙絵はまるでトランプの当選を予言していたような形になっていたわけである。


 閑話休題。

 その年の11月の文学フリマで、『オバマの大統領』を頒布した。だいたい20冊ほどの成果だったと思う。何千何万という単位で販売する商業の世界と比べたら、実に規模は小さいものであるが、開場とともに真っ先にうちのブースにやって来た人もいたりして、こんな自分でも作品を待っていてくれている人がいるのだと思うと、なんだか嬉しい気分だった。


 この時タッグを組んだこともきっかけとなり、うめじそさんとはよく一緒に飲みに行く仲となった。また、チームLemoneの飲み会にも招かれるようになり、『天破夢幻のヴァルキュリア』の打ち切りで沈んでいた自分の心に、再び明るい光が灯り始めるようになった。

 そして、そういった飲み会の中で、後にお嫁様となる女性と巡り会うこととなったのであるが、そのあたりの話はまた別の機会に。


 ※ ※ ※


 2017年に入ってからは、ますます同人活動が活発になっていった。


 5月のコミティアでは、二つの合同誌に同時に寄稿したりした。

 一つは、チームLemoneの合同誌『美味しくめしあがれ♡』。タイトルそのままのテーマで何か作品を、とのことだったので、私は「戦国時代の忍者が、未来にタイムスリップして、カップ麺と出会う」という短編『ニンジャ・ヌードル』を書いて寄稿した。

 もう一つは、中国の楚漢戦争を題材とした歴史アンソロジー『漢楚稗史』だ。こちらには、項羽をテーマにした短編『キングス・ネバー・ダイ』を寄稿した。


 また、夏コミに向けて、とあるイラストレーターさんと組んで、傾城水滸伝をテーマにした無料誌を作成したりした。そこには短編『傾城ヴァルキリーズ』を寄稿した。


 そうやって、小さいながらも発表の機会を得ていた自分は、すっかり同人の世界に居場所を求めるようになっていた。


 そんなある日、金沢の友人からLINEメッセージが送られてきた。最近は創作活動はどうなっているか、という問いかけだった。

 私は素直に「同人活動で頑張っている」と答えた。

 それに対する友人の反応は、こうだった。


『あー、そっちの方向へ行ったか』


 あまり肯定的ではないそのメッセージに、私はハッとさせられた。

 誤解が無いように言っておくと、彼は決して、同人活動を下に見ていたわけではない。

 ただ、『ファイティング☆ウィッチ』の発売時、率先して私のことを祝ってくれた友人であるからこそ、私の本心にも気が付いていたのだと思う。

 本当にそれで満足しているのか? と。


 もちろん、また商業で本を出したい。その気持ちでいっぱいだった。同人活動は楽しくはあるけれど、稼ぎになるわけではない。私が目指しているのは、ちゃんと小説一本で食っていけるようになることだ。


 LINEのやり取りが終わった後、私は友人に内心感謝しながら、今後のことについて考え始めた。

 どんな形でもいい。商業の世界に再び返り咲かなければいけない。

 そのために残された道はただ一つ。また公募の文学賞にチャレンジして、今度こそ何らかの賞を取ることだった。


 そして、応募するための小説の案を練り始めた。


 だが――商業の世界との接触は、その年の末になり、思わぬ形で実現することとなったのである。

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