第8話 PKバリアー! 3秒間は私に触れませーん! おいおい…発動しないじゃないか!
この学校に転入して1週間。
ヒリヒリしたり、ほのぼのしたり、何かとプレッシャーの掛かる毎日を送っている私だが、とうとうこの特殊な学校らしい授業が行われることとなった。
科目名は
それ聞いて思った。この学校名の
そこでは能力別にグループ分けされて、担当講師から能力のコントロール方法を学ぶ授業を受けた。初心者の私がいるとわかっているからか、講師の先生は大まかに説明してくれた。
「サイコキネシス(PK・念動力)とは、精神エネルギーを物質に働きかけ、様々な物理現象を起こす超能力のこと。代表的な能力は、飛行・衝撃波・バリアー・電撃・発火・テレポート・光偏向・組成変異・治療など。大武さんの能力はまだ発現したてだから要観察だけど、恐らくPKバリアーだと思う」
「バリアー…」
なんか小学生の鬼ごっこの時に使うような能力だな。鬼に追いつかれたら「バリアー!」ってズル技使って逃げる奴いたよね…
「周りのエネルギーを操って、衝撃波をコントロールする。イメージとしては能力使用者の周りに大きなシャボン玉があって、それで外的攻撃を弾くんだ。銃弾、爆発、熱、放射能、音波、レーザー、ガス、真空など、内側に影響を与えるような外的作用の全てに効果がある」
「なにそれ怖い」
めちゃくちゃ頑丈な盾じゃないですか。
「能力を使いこなせるようになれば、外部に向かって攻撃を繰り出せるようにもなるよ」
「いや、誰と戦えばいいんですか」
なに、そんな使い道のなさそうな能力…
ここ日本なのにどこでそんな能力使えばいいのさ。
「まぁ能力の可能性は無限大だ。使いこなせるように練習あるのみだよ」
まぁそうなんだけどね。
使いようによっては人を傷つける可能性もあるみたいなので、能力をうまくコントロール出来るようにならなきゃ。
腕鳴らしに軽い練習をすることになり、講師の先生からボールを投げるからそれを能力で弾いてみてと言われた。
だけど私はわからなかった。
あの日、あの暴走車を止めた時どうやって能力を出現させたっけと。
「へぶっ」
「あっ」
能力を使うことも、避けることもしなかった私の顔面にボールがぶつかり、私は間抜けな声を出して無様な姿を晒したのであった。
講師の先生に励まされながら何回か挑戦したけど、サイコキネシス能力の出し方がわからない。講師の先生が「腹の奥から出す感じ!」と超感覚的なこと叫んでくるけどわからんものはわからんのだ。
「ぐうっ」
そしてボールが私のお腹に吸い込まれていく。クラスメイトは周りで慣れたふうに能力を操って訓練しているのに、私はボールでボコボコにされている。なんだこれ。
結局、その授業が終了しても私が能力を操ることは出来なかった。無駄にボコボコになっただけ。
私は肩を落として教室に戻っていたのだが、そんな私を教室に入れてやらないとばかりに、クラスメイト達が通せんぼした。
「あんた本当に能力者なわけ?」
「全然使えてないじゃん」
「同じクラスなのが恥ずかしいわ」
「ミソッカスもいいところじゃねーか…」
ものすっごい軽蔑した眼差しを向けられた。あっすごい今ぐさーんと来たよ! 私のハートがブレイクした!
そんな事言われてもわからんのだから仕方ないじゃん! なんでそんな冷たい言葉を浴びせるのさ!
言いたいことを言った彼らはそれで満足したのか、私を一睨みしてぞろぞろと教室の中に戻っていった。
私はぐぬぬ…と歯噛みするしか出来なかった。ぐうの音も出ないとはこの事か。
そんな私を他のクラスメイトは腫れ物に触るような目で見てくる。流石の私もグサグサ来たぞ。もうなんか泣きそうだ。
弱音を吐くことすら許されない空気。
私はぐっと堪えた。泣くのはだめだ。自分に負けちゃだめ。
深呼吸して気持ちを落ち着かせると、自分の席に戻って次の授業の準備をしたのである。
■□■
お昼を取ろうと食堂に行くと日色君を発見したので同席を許してもらい、今日の3時間目に初めて体験したPSI実技がうまく行かなかったからコツを教えてほしいと相談をしてみた。
「うーん…人によって能力の出し方の感覚は変わるからなぁ……」
だけど日色君は返事に困っている様子。能力がレアなだけあって、コントロールが得意なんじゃと思ったけど、個人差があるのなら教えにくいよね……講師が腹から! って言うからお腹に力入れたけど、なんにも変わらないし…
他の生徒らは軽い動作で力を操っていて、それを見ていたら余計に焦っての悪循環だった。
日色君は顎に手をやって考え込む仕草をしていたが、何かを思い出した様子で顔を動かした。
「……大武さんの能力が出現したのは、暴走車が歩道に突っ込んできた瞬間でしょ?」
「あ、うん……手を前に出して力でゴリ押ししようと思って。とにかく死にたくなかったから」
無意識とはいえ、あの行動をしなければ私は今頃この学校どころか、この世に存在していなかったかもしれない。それを考えると恐怖でゾッとしてしまった。
「それかもしれないね。大武さんは自分の命に危険が迫った際に無意識に能力を出現させるタイプ」
「…えぇ?」
「だからこれまで大武さんは超能力の才能を誰にも気づかれずに一般社会に溶け込んでいられた」
「そんな…ほんとに私ミソッカスじゃないですか…」
日色君の仮定に私は愕然とした。そう言われたらそれっぽく感じてしまったのだ。
私、この学校にいる意味ある?
自分の危機の時しか発動せんなら学校にいても仕方なくない?
「そんな事ないよ。いざという時に力を発動できるんだ。暴走車を止めた大武さんのおかげでたくさんの命が救われた。君は立派な超能力者だ」
「うぅ、そんな事言ってくれるのは日色君だけだよ…」
今日のお昼はクリームパスタ頼んだけど、なんかしょっぱいや……
日色君と一緒にお昼ごはんを食べた後、私は職員塔に用があったので食堂で彼と別れた。両親に手紙を送るので検閲してもらわなきゃならんのだ。
手紙を書くときにはいくつかルールが有る。
この都市の地理や機密事項を知らせないこと、超能力について情報を漏らさないこと、とか色々。因みに暗号とか外国語で漏洩させようとしても無駄だ。
手紙を検閲するのは、精神系テレパシーを持つ人。サイコメトリーっていうのかな? 物体に触れたら色々見えちゃう人。その人が検閲するから、悪巧みをすぐに見抜かれてしまうそうだ。
それで目をつけられた生徒には監視、もしくは罰則が与えられるので、覚悟がない内は逆らわないほうがいいそうだ。
若干やることが刑務所チックだけど、それもこれも超能力という異能を持つ人達を守るため。
脱走や外部からの襲撃を事前に防ぐために必要なことなのだと言われたら納得するしかないよね。
「大丈夫そうね、じゃあICカードをここにかざして」
手紙を検閲というからねっとり舐めるように手紙を読まれるのかと思ったら封筒の上からひと触りで終わった。
検閲って何だっけ状態ですよ。
少々呆気にとられたが、無事お手紙を送ることが出来て一安心である。
用事を済ませた私はいつも時間を潰している秘密基地に行こうと思いついた。
人気の少ないあの場所は刺さるような視線を感じる必要のないサンクチュアリ。こころなしか足が軽くなったのだが、目的地に到着した私はピタリと足を止めてしまった。
なぜならそこには先客がいたのだ。
群青色のネクタイに白のライン。1年S組の男子生徒と、私と同じ群青色単色カラーの普通クラスの女子生徒。
……よく見たら、この間ぶつかっておいて舌打ちしてきた男と、私と同じクラスの女子じゃないか? 女子の方は顔を真っ赤にさせて小さな紙袋を差し出しているではないか。
……なにあれ、告白?
「
女子の手は緊張で震えている。顔を真っ赤にさせて、まさに恋する乙女と言ってもいい。
彼らは私のサンクチュアリの前で甘酸っぱい青春をしていたのである。
これじゃ私は休息が取れないじゃないのよ。
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