第28話 限界
妻エリの反応は、目に見えていた。
いつだって、この人は自分が1番な事をミタカは大学時代から知っている。
離婚の話を持ち出せば、さやかへの自分の気持ちを疑われ、エリのプライドが崩れる事は、分かりきっていた。
でも、ミタカの妻エリからの不妊治療の強制は限界だった。
不妊治療の薬は、朝昼晩の3回で15錠は飲む。
最初は、エリを不安にさせないために言えなかったが、眩暈が酷くて、まともに仕事にならなかった。1日が終わるのがやっとだ。
保険適用外の治療費も生活費を圧迫している。さやかの母のトヨコからエリがこっそり治療費をもらっているのもミタカは、数年前から知っている。
ミタカは、実母を精神科に入院させる程の重度のうつ病にした父親のように勝手な離婚だけはしたくなかった。
それをミタカに決断させたのは、妻のエリが自分を愛していない事を知っていたが、次は自分だけては足りず子供まで欲しいと言い続ける。
ああ、自分と夫婦2人での未来も描けないのか、この人は。
ミタカは、虚しさでいっぱいだった。
きっと、エリは子供が産まれても、その子供に、自分に、次の欲求を求めるだろう。
まるで、腹はふくれているのに、永遠に飢えを訴える餓鬼だ。
実母が、精神科から退院し1人でアパートを借りてパートをして何とか暮らしている。
ミタカにとって、実父も義母のトヨコもどうでもいいのだ。苦労した幼少時代を送り、自分を大切に育ててくれた母親の支えになりたい。
今はミタカの気持ちは、その気持ちしか占めていない。
エリと離婚し、慰謝料、生活費を払いながらでも、有難い事にミタカは正社員だ。母親の生活も見ることは出来る。
「離婚したい」
ミタカがエリに伝えると、ミタカの予想通り、エリは信じられない顔をして瞳を見開いた。
大学時代、最初に大学中で派手で彼氏が途切れないミーハーで有名なエリからの誘いを断った時とまったく同じだ。
もう、ウンザリダ。
この女のこの顔を見るのは、限界だ。
実家を出たさに18年も結婚したエリとの離婚に揺れていたミタカは、離婚を決めたのはこの顔だった。
お互い、エゴだったんだよ、この結婚は。
ミタカが、エリに最期に思った気持ちだ。
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