十二話 黙々
もぐもぐ、もくもく、もぐもぐ……
そんな擬音が文字として宙に浮かび上がりそうだった。うずたかく積まれた皿たちの間からその音は漏れてきている。
リアンは食堂にいた。
軍の本部塔を囲むように設置されている関連施設の一つに、軍関係者用の寮がある。そのすぐ隣にあるのが食堂だ。
食堂内は解放的な造りになっていて、窓が多く外の様子がよく見える。天井は吹き抜けで二階席が下からでも見えるようになっていて、かなり広い。寮と繋がっているので、ピーク時は何百もの人たちがここで食事を摂る。
特化討伐部隊員は全員漏れなく寮で住むことになるので、もちろん僕たちも毎日ここに来る。特に義務付けられているわけではないので、昼食や夕食を街で食べることもたまにあるが、食堂は関係者であれば無料で利用することができるので、大体はここへ来る。
こうした集団生活を送っていると、なんとなく「ここが自分のいつもの場所」というものができる。大抵は所属部隊の同じ人が固まっていたりして、それが目印になったりする。
僕の場合、リアンがその目印だった。朝昼夜関係なく彼女は本当によく食べる。よく食べる、なんて生温い表現だ。空になった皿が積み上がって塔を築いている。もちろん、この日も例外では無かった。
いくつもの皿。その皿の山の中にいるのが彼女だ。どう考えても異様な光景だが、見物しようという者はもういない。初めの頃はまだしも、今はもう既に日常風景となっていた。
今は真っ昼間のお昼時というわけでもなく、夕食にも早い時間帯だ。人はまばらで、ただでさえ目立つ皿のタワーは食堂の入り口からでもすぐに発見できた。
「もしかしてあいつ、帰ってからずっとここにいたのか」あの体のどこに、あれだけの量が収まっているんだ……
「かもな。相変わらず任務の後はすげえ食うな……」
僕とノンは揃って肩をすくめて、皿で埋め尽くされつつあるテーブルへ向かった。
リアンは僕らに一瞥をくれ、また箸で丼を食べる作業に戻った。ちなみに使っている箸はリアン専用マイ箸だ。赤色に薄紅の花のような模様が描かれている。文化的に玄の国は箸を使う習慣はないので、食堂には置いていないのだ。丼というのも、リアンがリクエストしてできたメニューだ。
「おーい、無視すんな。あと通信出ろよ」
ノンがリアンの隣に座った。僕はのんびりするつもりなど一切無いので、立ったまま皿をどこから片付けようかと考えている。
「……通信機持ってない。今朝の任務で使えなかった時あったから一応メンテナンスしてもらってる」
「なんだ、そういうことか。倫だけだと思ってたのに、リアンも使えなかったのか?」
「んー」食べながら返事をしている。
「いや、それより招集だ!17時までに第一作戦室だぞ、今食べてるので最後にしろ」
「えー……まぁいいか」
急かす僕に対し、さほど不服そうではないので、ある程度満足した状態のようだ。いや、これだけ食べているのだから満足してくれていないと困る。
「決まりだ。僕はこっちの皿から片付けるから、ノンはそっちを頼む」
「はいよー」
リアンの了承を得たところで、僕とノンは分担して皿を返却口へ片付け始めた。
普段も食べる量は常人と比べて異常に多いリアンだが、仕事を済ませた後はその倍ほどは食べている。僕やノンは、もう慣れたものだ。ついでに言うと食堂のシェフたちも。
僕は中等部の頃リアンと知り合ったが、彼女は昔からこうだった。僕とは違った意味で変わり者だったからか、リアンも僕もなんとなくお互いを気にかけていた。軍人になっても同じ部隊に所属することになるとは思わなかったが。
「その皿で最後だ、リアン」
「わかってるよ」
リアンが最後の皿を片付け終わって、僕たちは第一作戦室へ向かった。
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