八話 お別れ

 ようやく森を抜けた。

 想像していたよりはるかに長く時間がかかってしまった、と倫は軽く息を吐いた。来るときはこれほど深い森ではなかった気がしたが、目標に向かって無我夢中で走り続けていたのだから、正確な距離も測れていない。

 救護班の一人がこちらに気づくと、一目で生存者であるとわかる少年へ向かって駆け寄ってきた。


「その子は生存者の?」

「そうだ、保護してくれ」

「わかりました。ところで、通信機による連絡がとれなくなっていましたが、故障ですか?他に何か問題が起きたとか?」


傍らでリアンが通信機の起動を試みた。


「あれ、動いた。倫のは?」

「……起動した。一時的なものだったか」

「そうですか、とにかく無事で何よりです。今のところ、新たなイデアの発生報告はありません。司令部からは生存者の捜索をするようにとの指示が出ています」

「分かった。通信機で改めて指示を仰ぐ。じゃあ、後は頼む」


 そう言って、倫は少年を前に出すように、軽く背中を押した。


「はい、この子はこちらで保護しますね」

「え、え?」


 少年はまだ二人と別れたくない様子で、倫とリアンの顔を交互に見た。


「二人は一緒に来てくれないの?」

「ああ、僕たちはまだやることがある」

「グッバイ少年」


 そう言ってリアンは手を振った。


「さあ、行きましょう」


 救護班員に手を取られ、テントの下へ導かれる。振り返ると、二人はまだそこにいた。通信機の具合を確かめているらしく、リアンの方は誰かと連絡を取っているようだ。

 ここでこのまま別れてしまえば、もう二度と会うことができないような気がする。

 だから、と少年は声を上げた。


「あの!」


 倫が少年の方へ目を向ける。その目を真っ直ぐに見ながら、少年は伝える。


「ぼくの名前はエステラ!また……会おうね、倫おにいさん!」


 自身の名を呼ばれたことに驚き、倫は目を見張った。そして、その言葉にかすかに微笑み、少年に手を振った。


「またな、エステラ」


 その返事を聞いて、少年は満足したように笑い、去っていく倫の背中を見送った。

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