第43話 招待状①

 マリアが魔法銃の扱いに慣れるまではそれほど時間はかからなかった。元々弓矢で慣らした目は、獲物が銃に代わっても正しく機能した。アイアンサイトの使い方を教えてからは目に見えて命中率が高まった。


 魔法銃は弓矢よりも遠くの物を正確に狙うことができた。これによりマリアは十分な遠距離火力を手に入れたのであった。


 ご機嫌な様子でマリアが腰につけたホルダーに魔法銃を入れた。


「今日はそろそろ帰ろっか?」


 少し疲れた様子で三人は頷くと帰路へとついた。魔石を売りに冒険者ギルドを訪れると、ギルドマスターのアランに呼び止められた。アランはダナイに一枚の手紙を渡した。


「ライザーク辺境伯からダナイに招待状が来ている。どうも先日の一件でダナイに会いたがっているようだ」


 手紙を受け取ったダナイは嫌そうな顔をした。正直、とても面倒くさい。お偉いさんに会いに行かなければならないかと思うと、早くも憂鬱だった。


「了解しました」

「そんな顔するな。……まあ、分からんこともないがな。失礼な態度さえ取らなければ大丈夫さ、きっと」


 アランの言葉にますます嫌な気分になったダナイだった。



 家に帰ると、リリアがいつ領都ライザークに向かうつもりなのかと聞いてきた。


「リリアは嫌じゃないのか?」

「そんなわけないわよ。とっても名誉なことじゃない。一介の冒険者が辺境伯様に会えるだなんて、そうそうないことなのよ? これはある意味、辺境伯様に認められたと言っても過言ではないわ」


 特に何の気負いもなくさも当然とばかりに話すリリア。もしかして、リリアはどこかの有力な権力者の娘だったりとかするのだろうか。だとしたら、もしリリアと一緒に暮らしていることがバレたら大変なことになるんじゃないだろうか。


 聞きたいが、聞いたら今の関係が崩れるのではないかと思って聞くことはできなかった。心の隅にモヤッとしたものを残しながら、話を続けた。


「アベル達はどうなんだ? 行っても大丈夫か?」


 二人は微妙な顔をした。気持ちはダナイと同じようである。


「大丈夫かどうかと言われたら、留守番しておきたいと言うのが正直なとこだけど、辺境伯様の誘いを断ることはできないからね。行くよ」


 マリアもアベルの意見に同調して頷いた。ええ子やな、と思いながら「すまねぇな」と謝っておいた。


 こうして招待状の誘いを受けて、領都ライザークへと向かうことになった。ゴードンにそのことを話すと「そうだろう、そうだろう」としきりに喜んでいた。自分の愛弟子が評価されたことが嬉しかったのだろう。こちらのことは気にせずに行きなさい、と笑顔で送りだしてくれた。


 ダナイとしては止めて欲しかったのは言うまでもなかった。冒険者ギルドでも、錬金術ギルドでも、魔道具ギルドでも同じような反応だったので、さすがに諦めるしかなかった。


 領都ライザークまでは馬車で移動することになる。イーゴリの街から北に向かって三日ほど進むと目指す場所が見えてくる。四人は乗合馬車のチケットを買うと、馬車が来るのを待った。


「アベルは領都に行ったことはあるのか?」

「もちろんだよ。護衛依頼で何度も行ったことがあるよ。Cランク冒険者に昇格するには護衛依頼をいくつかこなす必要があるからね。あ、ダナイは特殊な昇格をしたから護衛依頼を受けたことがないのか」


 護衛依頼と聞いて、ダナイの顔が引きつった。護衛依頼があると言うことは道中魔物が出るということである。それだけではない。運が悪ければ野盗なんかに遭遇する恐れもあるのかも知れない。


「ああ、護衛依頼は受けたことはないな。難しい依頼なのか?」


 うーん、とアベルは腕を組んだ。


「今のところ難しかったことはないかなぁ。魔物が何回か襲撃してきたことはあったけど、他にも護衛がいたからね。この手の依頼は複数のパーティーが合同で引き受けることが多いんだよ」


 なるほど、単独依頼じゃないのか。それなら大丈夫そうか? だがやはり、肝心なところは聞いておくべきだろう。


「野盗なんがに襲撃されることはないのか?」

「うーん、この辺りでは野盗が出るだなんて話を聞いたことがないから、その心配はないんじゃないかな? 別の場所だけど野盗に襲われることもあるみたいだよ」


 アベルがどこかで聞いた話をしてくれた。しかしそこに恐れなどは感じられなかった。感覚がおかしいのは俺だけなのだろうかと腕を組んだ。さっきから話に耳を傾けていたリリアがダナイの髪をモフモフしながら言った。


「大丈夫よ。もし野盗が現れたら私達に任せてあなたは隠れておきなさい」

「そう言うわけにもなぁ……」

「そんな経験ないんでしょう?」

「まぁな」


 何だかバツが悪くてそっぽを向いた。他のメンバーは特に何も感じるところはないようだった。なんだか情けない気持ちに包まれた。そのときが来たときに躊躇して後れを取らないように、覚悟だけは決めておいた方が良さそうだと理解はした。

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