第37話 パーティー結成①

 鍛冶の仕事に打ち込むとリリアをおいてけぼりにしてしまう。かと言って、リリアを一人で冒険者ギルドの依頼に行かせるのは心配だ。自分勝手なことを言っている自覚はあったが、これと言って良い代案は浮かばなかった。


 そんなある日のこと、鍛冶屋の休みの日にリリアと共に冒険者ギルドを訪れたときのことだった。


「おう、ダナイ。丁度良かった。ちょっとこっちへ来てくれ」


 そう声をかけてきたのはギルドマスターのアランだった。リリアと目を合わせると二人して首を傾けた。一体どうしたのか。二人とも呼び出されるようなことをした心覚えはなかった。


「いやあ、急に呼び出して済まない。すぐにミランダが来るから、少し待っていてくれ」


 こうしてアランと取り留めのない雑談をしていると、資料を持って副ギルドマスターのミランダがやって来た。相変わらずダナイを見る目は鋭かった。エルフとドワーフが犬猿の仲であることをリリアから聞いてからは「それもやむなし」と思うようになっていた。


「ダナイ、コイツを見てくれ。これをどう思う?」

「はぁ……」


 困惑しながら差し出された紙に目を通すと、目を大きく見開いた。そのただならぬ様子に気がついたリリアはダナイが持っている紙に目を通した。


「まあ! ダナイ、あなた一体どんな槍を作ったのよ」


 そこにはライザーク辺境伯の嫡男であるクラースから、名工ダナイが作った魔鉱の槍がどれだけ素晴らしいかを暑苦しいほどに熱い言葉で書かれてあった。最後に「そちらに時間が出来たら、ぜひ会いに来て欲しい」と書いてあった。


 普通は逆であろうことはさすがのダナイでも分かった。普通ならばお偉いさんが自分の都合で呼びつけるだろう。それが逆なのだ。尋常ではなく気に入られていることが、その文面からも分かった。


 冷や汗を流しながら次の言葉を待っているとアランは苦笑交じりに会話を再開した。


「それで先日、クラース様がこのギルドを訪れたときに、ダナイが冒険者もやっていることを知ってしまってな」


 チラリとアランが横のミランダを見ると、ミランダが先を引き継いだ。


「クラース様が仰るには「危険なので辞めさせるように」とのことでしたが、それをアランが断りまして、ちょっとした騒動になったのですよ」


 名工として認められ、心配されるのは嬉しいことだが、私生活まで関与されるのはちょっと、と思っていた。そのため、アランのこの提案はとてもありがたかった。

 アランは腕を組み、目を閉じてため息をついた。その時の光景を思い出しているようだった。


「ダナイにはこれからも冒険者として貢献してもらいたい。ドラゴンスレイヤーの称号も持っているんだ。そうそう遅れを取ることもあるまい。しかし、な」


 そこで言葉を切った。何が言いたいのか未だに分からないダナイとリリアはお互いに目を合わせた。


「クラース様は「それならせめて、ちゃんとしたパーティーを組ませるように」と仰りまして。こちらとしてもその辺りが妥協点だろうと思いまして、承諾致しました」

「そういうわけだ。それで、出来れば誰かとパーティーを組んで、俺の胃痛を緩和してもらいたいのだが」

「心中お察し致します。今度良く効く胃薬を持参して参ります」


 さてどうしたものか。自分の中ではすでに誰にするかは決まっていたのだが、リリアがそれを受けてくれるかどうか。あの二人は仲が悪そうだもんな。


「パーティーを組むなら、アベルとマリアが妥当でしょうね。どちらも知らない仲じゃないからね」

「良いのか、リリア? マリアとは仲が悪そうだったけど」


 リリアの思わぬ言葉にビックリした。一方のそれを聞いたリリアは少しムッとした表情をして口を尖らせてた。それを見たミランダの目がパチクリと見開いた。明らかにリリアのダナイに対する態度に驚いている様子である。


「別にマリアのことが好きだと言うわけじゃないんでしょう?」

「ああ、もちろんさ。元気の良い娘としか思ってないよ。それにマリアにはアベルがいるからな」

「それなら問題ないわ」


 この会話を聞いたアランとミランダは開いた口が塞がらない様子だった。

 そんな二人を見て、ちょっとバツが悪い状態になったダナイとリリアは「アベルとマリアをパーティーメンバーに加える」とアランに宣言した。


 あとは二人が受けてくれるかどうかだが、万が一、二人が断っても、ギルドマスターの権限で無理にでも加える、と力強く請け負ってくれた。密かに職権乱用ではないかと思ったが、他に候補者がいないので黙認した。

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