第24話 ドラゴン退治①
作戦の間、イーゴリの街をカラにするわけにもいかず、街に残る冒険者も多かった。その中でも経験豊富で、それなりの精鋭達が集まった討伐隊は順調にドラゴンの根城へと進んでいた。
アランが討伐に参加することについては多くの冒険者が押しとどめた。副ギルドマスターのミランダもしきりに思いとどまるように説得していたが「ギルド長としての責任を果たしたい」というアランの意志は固く、了承するしかなかった。
ダナイは密かに、危険な任務でも戦闘に立気概を見せるアランを「上に立つ者はかくあるべし」と尊敬の眼差しで見ていた。
「ダナイ、やけに丁寧に薬草を抜いているわね」
道中ダナイが根っこから薬草を抜いていることに気がついたリリアは、何故そんなことをするのかと尋ねた。それを聞いたアベル達も興味があるのか、耳を澄ませていた。
「薬草はな、根っこの方が効果が高いんだよ」
「え、そうなの? 初めて聞いたわ、そんな話」
やはり常識ではなかったか、と内心苦笑するとどう誤魔化そうかと思案した。最近自分でも妙なことを口走っている自覚があるので、これ以上変な目を向けられたくなかった。
「俺の故郷では普通だったぞ? 適当に引っこ抜いて、よくばあちゃんに怒られたものさ」
ハッハッハ、と笑った。またばあちゃんかよ、と疑いの目を向けるリリア。自分では上手く誤魔化したつもりでいたが、リリアの疑いの目はどんどん強くなっていた。
討伐任務初日、予定地まで無事にたどり着いた討伐隊一行はキャンプの準備に入った。地面の邪魔な草を刈り、テントを張る作業をしている中で、ダナイは必要な場所を確保すると、投げるだけで出来上がる折りたたみ式テントを張った。
これは加工する時に魔力を流し、柔軟性を持つようになった魔鉱を支柱として使った一品である。加えていた力を解放すれば元に戻る性質を利用していた。
「何か、狡くない?」
リリアは怪訝な顔をした。隣でテントを作っていたアベルとマリアも頷いている。
「まあまあ、そう言うなって。帰ったら同じ物を作ってやるからさ」
何故か責められるという理不尽さを感じながらも約束した。それを見ていた周りの冒険者も、俺も俺も、と頼んできた。どうしてこうなった、と批難の眼差しでリリアを見た。リリアはサッと目を逸らした。こんなことになるとは思ってもみなかったようだ。
「そ、それじゃテントも張り終わったし、かまどを作りましょうか」
話題を変えようとリリアが動き出したところで待ったをかけた。
「かまど作りなら俺に任せてくれ。ダナイ忍法、土遁、かまど作りの術!」
ドドン! と目の前に立派なかまどが一瞬で出来上がった。その様子にアベルとマリア、リリア達も絶句した。
「ダナイ、前から思っていたんだけど、あなたの魔法、と言うか忍術? おかしくない?」
「な、何言ってやがるんだ。俺の故郷じゃ普通だぞ、普通」
「……怪しい」
リリアは完全に疑いの目をダナイに向けた。それに気がついたダナイは疑いの目を逸らすべく、他の冒険者のところに行ってかまど作りを手伝っていた。ダナイの作ったかまどはみんなから賞賛された。
街を出発してから三日目。討伐隊は無事にドラゴンの根城へとたどり着いた。今は偵察隊が先行し、情報収集に当たっている。ドラゴンはもうすぐそこにいるのだ。討伐隊の緊張も高まっていた。わずかな葉音にもビクリと反応する始末。隠れているこちら側からすると、このまま長期戦になるのは避けたいところだった。
偵察隊が戻ってきた。どうやらドラゴンは穴の中で呑気に眠っているらしい。それもそのはず。この辺りには自分に敵うものなどいないと信じて疑っていないからだ。
計画通りにドラゴンを穴から誘い出し、ダナイの用意した閃光玉で視力を奪い、その隙に翼を攻撃する方針で決まった。
一番危険な囮役のAランク冒険者達が慎重に巣穴へと近づいた。その中の一人である魔法使いが、炎の魔法を巣穴の中へと打ち込んだ。
ドラゴンは鱗や皮膚が硬いのはもちろんのこと、魔法耐性も非常に高かった。直撃したはずなのにそれほど気にもせず、巣穴の中から這い出してきた。五メートルはあろうかという巨体に、辺りが騒がしくなる。
不気味な赤い姿から、火耐性が高いと言われているレッドドラゴンだろうとアランは推測し、注意するように叫んだ。
拡声器によって大きくなったダナイの声がドラゴンの巨体に一時騒然となったその場に響き渡る。
「閃光玉を投げる! 直接見ないように気をつけろ! サン……ニイ……イチ……」
ダナイのカウントが終わると同時に眩い光が辺りを一瞬包み込んだ。
直後、ドラゴンの大きな咆哮が響き渡った。何をされたのか分からないドラゴンは暴れ始めたが、近くの岩山に凄まじい音を立てながら体を打ち付けているところを見ると、目は見えていないようだ。
「今だ、攻撃開始! 翼を狙え!」
アランの号令で弓矢と魔法がドラゴンに降り注いだ。それにより翼の翼膜は大きく破れ、片側の翼の一部を欠損させることができた。
これでもう飛ぶことはできないぞ、とみんなは息巻いていたが、ダナイはドラゴンが翼ではなく、魔法で空を飛んでいることを知っていた。
翼は単に空中で姿勢を取りやすくするためのものであり、本来はなくても飛べる。しかし、ドラゴン自体も自分の翼で空を飛んでいると思っているため、ドラゴンの思いを形にしたものである「空飛ぶ魔法」は発動しないとダナイは睨んでいた。
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