第20話 魔鉱の剣②

 剣を打つことができるサイズの魔鉱板を取り出すと、火床のスイッチを入れた。煌々と光を放ち火床の温度が上がっていく。そこに魔鉱板を差し込むと色が変わるのを待った。


 ダナイが金槌を振るう度に火花が星のようにキラキラと散っていく。それを気にすることなく何度も金槌を魔鉱板に叩きつけていく。重い一撃によってどんどん魔鉱板は伸ばされてゆく。


 魔鉱は魔力を流しながら加工すると、堅さと柔軟さを併せ持つ金属になることをダナイは知っていた。今も金槌に魔力を送り込みながら叩いている。使っている金槌はもちろん魔鉱製であり、鉄製のものよりも遥かに魔力が流れ易くなっていた。


 剣の形が整ったところで仕上げの作業へと入った。使う砥石はもちろんゴードン自慢の砥石だ。何でもダンジョンから出土した物だそうで、この砥石ならばオリハルコンと呼ばれる魔法金属でも研ぐことができると言っていた。


 魔力を込めながら魔鉱の剣を研ぎ続けた。集中力が必要な作業だったので、何日もかけることになったのだが、その間にダナイ自身の武器にするべく、一つのハンマーも作り上げていた。


 片側は平ら、反対側は鈍く尖らせてあるそのハンマーは打撃力と貫通力の両方を兼ね備えた魔鉱製の一品だった。これならドラゴンの頭でも打ち砕けるな、とゴードンは不気味なことを言っていたが「ドラゴンなんてそうそう出やしませんよ」とダナイは笑って返した。


 後日、剣を受け取りにアベルがやって来た。ダナイが丹精込めて作成したその剣は、ゴードンが見ても素晴らしい一品だった。ゴードンは「これは素晴らしいぞ」と興奮してしきりに頷いて、眺めて、頬ずりしていた。


「い、いいんですか? こんなに良い物をもらって」


 それはアベルの目から見ても一目でその凄さが分かるほどの剣だった。幾度となくアベルの剣を研ぐ機会があったダナイは、アベルの癖を見抜いており、それにピタリと一致した剣を作り上げていた。


 剣を抜き、軽く数回振ったアベルは驚きを隠せなかった。


「凄い、何年も使ってきたみたいに手に馴染んでる」

「気に入ってもらえたみたいだな。今日は俺も冒険者ギルドに行こうと思っているんだ。体が鈍っているだろうから、二人と一緒に行ってもいいだろうか?」

「もちろんですよ。ダナイさんがいれば百人力ですよ!」


 アベルは嬉しそうに言った。マリアも反対することはなかったので、ゴードンに断りを入れると三人で仲良く冒険者ギルドへと向かった。


「おう、久しぶりだな」

「ご無沙汰してしまって申し訳ありません、アランさん」

「ハハハ、気にするな。鍛冶屋ゴードンに弟子入りしたそうだな。あの店で買った包丁をいたく気に入っていてな。毎日上手い料理を食べさせてもらっているよ」


 ダナイの元気な様子を見て安心したのか、ギルドマスターのアランは愉快そうに笑った。ひとしきり挨拶を済ませると、三人はイーゴリの街の外へと向かった。


 この時間では良い依頼がなかったので、試し切りも兼ねてその辺りの魔物を狩ることにしたのだった。道中、小石を拾いながら移動していると、ゴブリン達と遭遇した。


 アベルは素早く斬りかかると、あっという間にゴブリン達は光の粒へと変わっていった。その見事な腕前に、この短期間で随分と腕を上げていることが分かった。


「凄い切れ味だ。全く抵抗を感じなかった……」


 アベルが呆然と魔鉱の剣を見ていた。その後はダナイとマリアも加わり、次々とゴブリンやグラスウルフを倒していった。小物ばかりだったが、かなりの数を倒したところで街に帰ることにした。


「ねえ、ダナイさん、お風呂の魔道具とか作れないの?」

「風呂の魔道具?」

「そうよ。ほら、護衛の任務とかで野宿するときにお風呂に入りたいなーと思ってさ。いつでも入れるお風呂の魔道具があったら便利だと思わない?」


 お風呂に入るのが何よりの贅沢だと思っているダナイにとって、何日も野宿をすることになっても清潔感を保ちたい、という気持ちは良く分かった。そこで「何かしらの方法を考えておこう」と軽く請け負った。


 ダナイには『ワールドマニュアル(門外不出)』がある。きっとそこに良い案があるはずだ、とたかをくくっていた。

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