Extra Story

EX04 モニモニ! ソフィソフィ!


(モニカのMは、ドMのM!! あ、それ! モニカのMは! ルンルン! ドMのM! ヒャッハー!!)


 モニカはご機嫌でカートを押していた。

 カートにはルーナとリリアンのおやつが載っている。各種お菓子と紅茶だ。

 ここはパーカー家の長い廊下。


(ふへへ、ふへへ、お嬢様たちが、今日はこのわたくしメスブタの言うことを何でも聞いてくれるそうです!! 何でも!! 日頃のお礼だそうですが、わたくしメスブタ、何かしましたっけ!?)


 まったく身に覚えがないのだが、それでも厚意は素直に受け取るモニカ。

 そもそも、こんなチャンスを逃す手はない。


(ルーナお嬢様のパンツ食べさせてくださいませぇ!! って言ったらさすがに、そう、さすがにドン引きされますね。もうちょっとナチュラルで引かれないお願いをしなくては)


 モニカは心の中ではニヤニヤしていたが、実際の表情は動いていない。

 モニカはパーカー家に勤めて10年のベテランだ。頼れるメイド長補佐という立場もあり、外面は割と良かった。


(ああ、リリアン様のおしっこ飲ませて……いやいやいや、これもドン引きですね! ああ、このチャンスを活かしつつ、だけれど変に思われない落とし所が難しい!! なんせわたくしメスブタ、真性のガチMですからね!! ふへへ!)


 パーカー姉妹とリリアンをドSに育てている最中である。


「あら、ブラウン補佐。お嬢様たちのおやつですか?」


 廊下を逆から歩いてきたメイドが言った。

 このメイドは屋敷の掃除が主な仕事で、メイド歴は4年の19歳。あまり目立たないタイプ。

 名前はソフィア・ライト。青い髪の毛をツインテールにしている。

 ちなみに、ソフィアはルーナが室内にいるときは屋敷の中を、ルーナが外で遊ぶ時間はなぜか外を掃除している。


「はい。あなたはお庭の掃除ですか?(キリッとしなきゃね、キリッと! ふへへ。真面目なメイド長補佐のわたくしメスブタが実はドMだと知ったら、ソフィアはどんな顔するのでしょうねー? ああんっ、想像したらヤッバイです!)」


「今日は庭の掃除はやらなくてもいいかなと(だってルーナお嬢様、リリアン様とずっと室内だもん。はぁ、美しい2人を見たい……お嬢様お付きのブラウン補佐羨ましい……クソが。わたしと代われクソが)」


「いえ、掃除は毎日やってくださいね? それとも体調が悪いのでしょうか?(ああんっ! 早くお嬢様たちのところに行きたいのにっ! そんな仕事サボるみたいなこと言われたら、対応せざるを得ないじゃないですかぁ!! わたくしメスブタ、真面目で通してるんですから! だって超真面目なわたくしメスブタだからこそ、クリス様にお仕置きをおねだりできるわけで! 怪しくない範囲でおねだりしてるわけで!!)」


「すみません補佐。少し憂鬱だっただけです(だってだって、今日はあんまり美しい者を見てないんだもん! クリス様でもルーナお嬢様でもリリアン様でもいいからっ!! 見たい! 見たい見たい! できれば生まれたままの姿を見たいっ! ああっ! お付きのメイドになりたい! そしたら着替えとか手伝えるのにっ! パーカー姉妹の美しい裸体が見れるのに! 美しい者大好き! 美しいは正義! 美しいは可愛い! 可愛いも正義! よく分からなくなってきたけど、とにかくルーナお嬢様とリリアン様の戯れる姿が見たいっ! 美しく、それでいて可愛く、だけれど可憐な2人が見たいっ! ああ、でもカエルとか投げつけるのはやめて欲しい! カエルは美しくないし控えめに言ってクソ!)」


 ソフィアもまた、表情の変化はほとんどない。

 パーカー家で働き始めたメイドは、1年目はニヤニヤしている。だが2年目になると、そんな自分の変態顔、もといニヤニヤを抑える術を学ぶ。

 誰に教えられるわけではないが、みんなキリッとしているので自分もそうしなければ、と考えるのだ。


「まぁ、誰にだってそんな日はありますね(ないですけどねっ! あるわけないでしょうに! パーカー姉妹がいれば毎日が天国!)」


「補佐にもあるんですか?(へぇ。真面目一筋だから、思い悩んだりしないのかと思った)」


「もちろんです。しかしメスブタわたくしはそんな時、パーカー姉妹を想います。そうすると、不思議と力が湧いてきます(あーんなお仕置きや! こーんなお仕置きを想像すると! トロットロになりますね! ついでに今日を生きる気力も湧くってもんですっ! ふへへ!)」


「なるほど。確かに! さすが補佐! わたし頑張れます!(美しく可愛い者は、常にわたしの心の中に! いや、記憶の中に存在している! なんなら、記憶にない裸体を妄想してもいい! そういうことだよね!? やるじゃん補佐! 真面目な顔してムッツリなんだから! むしろ真面目な奴ほどエロいって言うもんね! ふふふっ、掃除しながら姉妹とリリアン様の戯れを妄想しようっと!)」


「良かったです。それでは(やっとお嬢様たちのところでイケる……じゃなかった、お嬢様たちのところに行ける)」


 モニカはカートを押してルーナの部屋へと向かった。

 ソフィアは掃除しに外へと向かった。



「ルーナ! あたしもう我慢できないっ!」


 モニカがルーナの部屋のドアを開けると、リリアンがベッドでルーナを押し倒していた。


(え!? リリアン様!?)モニカは驚いた。(わたくしメスブタ、とんでもない場面に遭遇してしまったのでは!? ラッキー!! ふへへ! 交ぜてー!! わたくしメスブタも交ぜてー! 2人でわたくしメスブタを弄んでくださーい!)


「あたし、あたし、もうルーナのこと食べちゃう!!」

「待って! 待ってリリちゃん! モニカ来たよ!! モニカ来たから!!」

「関係ないぞルーナ! 今のあたしは、野性爆発リリアンだぞ!」


わたくしメスブタがいても容赦なく襲いかかるリリアン様素敵!!)


 モニカはキラキラした汚れなき瞳で2人を見ていた。


「じゃあ、お菓子いらないのリリちゃん!?」

「それはいる!」


 リリアンがルーナから離れて、そしてモニカの方を見る。


「やっとお菓子だぁ!」リリアンがベッドで飛び跳ねる。「ルーナの家のお菓子、美味しいから早く食べたかったぞ!」


「もう……。モニカが遅いから、お菓子の代わりに私が食べられちゃうとこだったよぉ」


 ルーナが可愛らしく頬を膨らませて、モニカを睨んだ。

 その姿にキュンとしたモニカは、危うく膝から崩れるところだった。


(かーわーいーすーぎーるー!)


 だがモニカは崩れなかった。メイド歴10年の強者である。ルーナが2歳の時からパーカー家にいるのだ。

 耐える術はとっくに会得している。


(あ、待ってわたくしメスブタ。これチャンスかも)


 モニカはよからぬことを企みながら、カートの上のお菓子をテーブルに移した。

 ルーナの部屋には学習机とは別に、ティータイム用のテーブルもある。

 リリアンとルーナがテーブルに移動し、椅子に座る。


「ルーナお嬢様、遅れて申し訳ありません。なんならお仕……」

「ん? いいよ、別に」

「そうそう! もう食べていいか!?」


 リリアンは目をキラキラさせて、お菓子に手を伸ばした。

 ルーナがリリアンの手をペシンッと叩く。

「リリちゃん待て」

「お、おう(ああんっ、ルーナに叩かれた。最近あたし、ルーナに叩かれると、なんだか胸がキュンとして、ちょっと気持ちいいんだぞ。これ何?)」


(ナチュラルにリリアン様を犬扱いするルーナお嬢様素敵!! わたくしメスブタにもそうして欲しい!! って、そうじゃなくて、遅れたお仕置きを頂きたい!)


 そんなことを思いながら、モニカは紅茶をティーカップに注いだ。


「みんなで一緒に食べよう?」


 ルーナはとっても可愛らしい笑顔を浮かべた。

 慈しみに満ちた天使の笑み。

 モニカの中の邪な気持ちが一瞬で浄化されてしまう。


「そうだな。モニカも一緒だ!」


 リリアンも無垢な笑顔をモニカに向けた。

 モニカはキュンとして再び膝から崩れ落ちそうになった。

 しかし、椅子に座ることでごまかした。


「ありがとうございます。それではメスブタわたくしも失礼します(お付きの特権ですね。ルーナお嬢様たちとのおやつタイム! まずはこの喜びをかみ締めましょう!)」


 モニカは普通におやつタイムを楽しんだ。

 ちなみに、この日は考えがまとまらなかったので、何でも言うことを聞いてくれる話は後日に回すことにした。

 欲望に忠実、されどドン引きはされない程度の要求が難しいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る