3話 ゾンビの襲撃


「ジャングル探検隊!」

「冒険っぽさ超アップだぜ!」


 ルーナとリリアンは庭に出ていた。

 2人が立っている周囲は、まだ植物の浸食が少ない。草が生い茂っている、という感じ。目線の先は木や蔦植物や、色々な緑が生い茂っている。

 2人はすでに、拠点の掃除を完了させた。思っていたより時間がかかって、現在はもう夕方である。

 2人はそれぞれ右手に短剣を握った。

 そして見つめ合い、頷き合う。


「なんかすごく臭いねリリちゃん!」

「ふえっ!? あたし臭い!? 臭い!? どうしよう!」


 リリアンが慌ててキョロキョロした。

 ルーナは左手でリリアンの頬に触る。


「リリちゃんじゃなくて、周囲」


 ルーナの言葉で、リリアンは冷静さを取り戻す。


「本当だ、臭い! うんこみたい! 腐ったうんこみたい!」


 リリアンは楽しそうに言った。

 と、いきなり2人の周囲の地面が盛り上がった。

 2人は焦ったけれど、短剣を構えてお互いの背中を合わせる。


「ぐおおおおおおおおお!」


 盛り上がった地面から、腐った人間の死体が現れた。

 男に女、大人に子供、老人も。全部で10匹。


「ゾンビだぁ!」


 ルーナは瞳をキラキラさせて言った。


「すっげぇ! 本物のゾンビだ!」


 リリアンも目を輝かせてゾンビを見ていた。

 ゾンビは下位の魔物なので、それほど強くない。だがいつも複数で行動するので、群れの規模によっては中位の魔物に相当する場合もある。


 悪臭を放ち、人間を食べる。知性は低く、食欲でのみ行動する。話し合いは不可能。

 魔物図鑑の内容を、2人が同時に思い出していた。

 ちなみに弱点は火だ。

 ゾンビたちは低く唸りながら、2人を囲んだ。


「どうしようリリちゃん! ゾンビすごいけど、もう殺していい!?」

「ああん! あたしゾンビ飼いたい!」

「ダメ! ゾンビはバカだからご主人様を理解しないよ!」

「ぐぅ……仕方ない! せめて安らかに眠れ! 行け! 野獣ルーナ!」

「がおー!」


 ルーナは短剣を仕舞って、【暗黒剣】を創造。

 ゾンビに向かって飛び出して、一閃。

 同時に2匹のゾンビを斬り倒した。


「ねぇ今の! 私がリリちゃんのペットっぽくない!?」

「本当!? あたしがご主人様!? えへへ、嬉しいなぁ」


 照れているリリアンに対して、3匹のゾンビが飛びかかった。

 リリアンは【輝きの盾】を自分の前に設置。ゾンビたちは盾にぶつかって動きが止まる。

 ルーナは更に連続してゾンビを斬り伏せる。


「あたしご主人様なら、ルーナに負けないようにとっておきの攻撃魔法見せてやるぞ! 【天使降臨】!」


 リリアンが右手の短剣を天に掲げる。

 そうすると、3匹のゾンビが一瞬でバラバラになった。

 ゾンビをバラバラにしたのは、光の天使。頭に輪っかがあって、背中に翼がある。手には剣を持っている。それら全てが光なので、かなり明るい。


 ちなみに、モデルはルーナだ。

 かなり強そうな魔法だが、所詮は基本属性。通用するのは中位の魔物までだ。それに持続時間も短い。


「リリちゃん攻撃魔法、構築したんだね! 元は異国の魔法戦士の魔法だよね! 伝説の人、英雄並の超強い天使を3体同時に出したんだよね」


 残りのゾンビを全部倒したルーナが言った。

 英雄というのは制度だ。選ばれた強者たちが、人類の敵が現れたら命を懸けて挑む。その代わり特権がある、という制度。

 冒険者と違って戦闘能力特化の人たちだ。


「えへ。ルーナ驚かせようと思って、コッソリ作ったぜ。ちなみにその魔法戦士のは固有属性だけどな」


 リリアンが頬を染めながら言った。

 魔法で仲間を一時的に増やす感じなので、使い勝手がよく、多くの魔法使いがその真似をした。リリアンも迷わず選んだ。


「でもあたし3匹でルーナ7匹だから、やっぱり基本属性の魔法は物理に勝てないな」


 言いながら、リリアンは天使を消した。

 ちなみに、リリアンがこの魔法を構築できたのは最近のことだ。

 魔法には7つの性質がある。

 攻撃、支援、回復、生成、付与、変化、時限の7つだ。

 属性の特性を活かしながら、術者が自分で1つの性質につき1つの魔法を構築するのだ。

 まぁ、7つ全部構築する必要はないけれど。


「まぁ、私の剣は魔法だけど」ルーナが【暗黒剣】を消す。「私の動きは剣術だもんね、普通に」


 そう、ルーナは普通の剣でも同じように動けるのだ。

 もちろん、リリアンも剣は扱える。でもヘタレなので近接攻撃は苦手だ。


「ま、食料探ししようぜ!」とリリアン。

「おーう!」とルーナが再び短剣を構える。


 植物を切るのに、いちいち【暗黒剣】を出していては魔力が保たない。


「ってちょっと待ってリリちゃん。臭いよ!」

「く、臭くてゴメンよぉぉぉ! 見捨てないでルーナ! 綺麗にするから、あたし綺麗にするからぁぁ!」


「そう? じゃあこの死体埋めるのよろしくね」ルーナが笑顔で言った。「食料は任せてね!」


「あ、あれ?」


 リリアンは10匹のゾンビの死体を見て、ルーナを見た。ルーナは満面の笑みだった。


(ああん! ルーナのドS! あたしだけに掃除させる気だぁぁ!)


「冗談だよリリちゃん。一緒にこいつら埋めよう?(ふふっ、リリちゃん本当可愛いなぁ)」


 2人は道具を仕舞っている倉庫から、使えそうなシャベルを持って来た。

 そして一生懸命に穴を掘る。正直、移動するなら放置でもいいのだが、ルーナたちはこの城に留まる。

 つまり、臭いがヤバいので早急に埋めたいのだ。

 しかし2人が考えていた以上に、時間と労力がかかった。


「やばいぞルーナ! 重労働だ! 夜になっちゃう!」

「うーん、4匹埋めたし、とりあえず先に食料確保しよう! で、明日の午前中にでも残り埋めよう!」


 一時中断して、2人は食料の確保にジャングルを探検した。 

 その結果、大きなトカゲを2匹と、食べられる草花、白くて大きな芋虫をたくさんゲットした。


 トカゲはシメて厨房のまな板の上に置いた。芋虫は逃げないように片手鍋に閉じ込める。そして各種食べられる植物はトカゲの隣に。

 すでに外は薄暗い。2人はまず、城の燭台にメタルマッチで火を点けて回った。こうしておくことで、夜でも城の中はそこそこ明るくなる。


 まぁ、蝋燭の在庫は倉庫に割とあったので、容赦なく使っても大丈夫だ。

 ルーナとリリアンは、それぞれ手燭を1つずつ持って、それにも火を点ける。移動する時に、一応持って歩くのだ。

 2人はある程度、火を点け終わり厨房を目指して廊下を進んだ。


「ねぇねぇリリちゃん、蝋燭の蝋で身体に絵を描くアートがあるんだって! モニカが言ってたってゆーか、実際モニカで試したことあるんだぁ」


「へぇ。面白そうだな! でも熱いんじゃない?」

「そう。だからキャンバス役の人は我慢強くないとダメなの」

「モニカって我慢強そうだもんなぁ。あたし無理かも」

「試してみる? 手出して」

「や、優しくして……(うにゅぅ、怖いぞ……)」


 リリアンは立ち止まり、頬を染めて、おずおずと手を差し出した。


「ほーら、ポタポタ(リリちゃん可愛い。意地悪したくなっちゃう)」


 ルーナが手燭を斜めにして、蝋をリリアンの手の甲に落とした。


「あんっ! 熱い! あたし無理だルーナ!」

「そっか。仕方ないね。じゃあ今度2人でモニカに絵を描こう(リリちゃん反応が可愛いよぉぉぉぉぉ!! もっと垂らしたくなっちゃう! 我慢するけど!)」

「それなら面白そう!」


 モニカが聞いたら天に舞い上がりながら喜びのダンスを踊るのだが、モニカは2人の冒険を覗いていない。



「なんて羨ましいの! モニカってお宅のメイドよね!? なんて羨ましいの!? わたしも2人に蝋とか垂らされて『熱い? ねぇ熱い?』ってゴミを見る目で見られたいわぁぁぁ!!」


 魔女は自然に右手を股間に伸ばした。

 その手をクリスが掴む。


「あたくしの前で何するつもりですの? てか、服を着なさい、はしたない」

「……妄想は自由よ!」


「まったくあなたはどんな変態ですの? モニカは芸術家ですのよ? 蝋燭アートはあたくしも何度かやってますわ。キャンバスじゃなくて描く方ですけれど。なんでも性的なことに結びつけないでくださいませ。ロリコンなだけでも罪ですのに」


 モニカの洗脳は強固だった。

 

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