ルーナちゃんは冒険したいっ! ~百合の花と変態魔女を添えて~
葉月双
一章
1話 月の女神と百合の花
ルーナ・パーカーは庭で蛇を捕まえた。
よく晴れた日の午後。初夏なのでそこそこ気温が高い。
「蛇を捕まえるコツは、噛まれないように首を掴むの」
ルーナはニコニコと笑いながら言った。
ルーナは明日、12歳になる少女だ。
髪の色はブロンドで、ゆるふわウェーブ。ゆるっとしているが華やかさもある髪型。
身長は140センチ。体重は約35キロ。まぁまぁ鍛えているので、引き締まっている。
瞳の色は若葉を思わせる綺麗なグリーン。
ルーナはタタッと走って、庭の掃除をしているメイドに近寄る。
パーカー家は貴族なので、庭も屋敷も広い。金銭的にも余裕があるので、多くのメイドを雇っている。
まぁ、貴族という枠の中なら割と普通な感じだ。もっと裕福な貴族もいる。
「がおー!」
ルーナは蛇を掴んだ右手を伸ばして、メイドの顔の方に蛇を持って行った。
青髪ツインテールのメイドが、引っくり返りそうなぐらい驚いた。
「お、お、お嬢様!」でもすぐ怒ったような声を出す。「また蛇なんて捕まえて!! パーカー家のご令嬢という自覚をですね……」
「ふふーん。冒険者にとって、蛇はご馳走なんだから!」
ルーナはクルッと回ってからメイドの元を去る。
(ああ、お嬢様、なんて美しい。クルクル回る姿はまさに天使!! 右手に蛇さえ持っていなければ!!)
なんてことをメイドは考えた。
ルーナは手頃なサイズの石を拾って、そのまま地面に座り込む。
そして蛇の頭を地面に押しつけ、石で打ってぶっ殺した。蛇が苦しまないよう、一撃で。
「冒険者の世界は弱肉強食」ルーナが言う。「いつか私も、魔物や動物に食べられるかも。でも、私はそういう世界に行くの。絶対に冒険者になるもんね」
貴族が冒険者を目指すのは珍しい。大抵は、冒険者のスポンサーだ。
なぜなら、冒険は危険で汚い。話を聞くのが楽しいのであって、わざわざ将来を約束された貴族が命を懸ける必要はない。
でもルーナは違う。
「そして私たちの名前を歴史に刻んじゃうもんね!!」
冒険者に必要なスキルは何だろうか?
誰よりも鋭い剣技?
鋼の肉体?
あるいは魔法だろうか?
いや違う、とルーナは思う。
(冒険者に本当に必要なのは、サバイバルスキル!)
ルーナはポケットに忍ばせておいたナイフで、蛇の頭を落とす。
それから腹を縦に裂いて、皮を剥がした。
内臓を抜いて、蛇肉のできあがり。まぁこのあとキッチンで焼くのだけど。
ついでに、内臓や皮を埋めなくてはいけない。このまま放置する方が自然かもしれないが、匂うし見栄えも良くない。
ルーナはキッチンに向かい、自分で蛇肉を焼いて食べた。
明日は12歳の誕生日。
最初の冒険が始まる日。
そういう約束をしているのだ。親友のリリアンと、紫の魔女と。
(正確には冒険の練習なんだけど、楽しみ過ぎて落ち着かないよー)
明日が待ち遠しい。
◇
午前0時の少し前。
ルーナはベッドで目を瞑っていたのだが、パチッと目を覚ました。
そしてすぐさま、ピンクの可愛いパジャマを脱ぎ捨てる。
クローゼットの奥に隠していた冒険セットを取り出して、着替える。
頑丈な布の服に、フードの付いたマント。堅いブーツ。可愛くはないけれど、カッコいい。少なくとも、ルーナはカッコいいと思っている。
リュックを背負って、だけど1度下ろして中身を確認。
メタルマッチよし、鉄製の水筒よし、短剣よし、と冒険に必要なアイテムを1つ1つ取り出してチェック。
それが終わるとまたリュックに仕舞って、大きく頷く。
リュックを背負い、窓を開ける。
ルーナの部屋は2階なのだが、夜中に窓から抜け出した回数はかなり多い。
「あ、忘れるところだった」
ルーナは引き出しに仕舞っていた手紙を、テーブルの目立つ場所に置いた。いわゆる書き置きである。
しばらく帰ってこないので、念のためだ。
「まぁどっちにしても、お尻百叩きは間違いないけど、私のお尻は頑丈!!」
ルーナの両親はすでに亡くなっている。今は18歳の姉が家督を継ぎ、ルーナの面倒をみている。
姉は過保護で、すぐに怒る。とルーナは思っているのだが、世間一般的に見ると寛大な方である。
ルーナがわんぱくを越えた超お転婆娘なだけ。
ベッドの足にロープを結んで、ロープの逆側を窓から落とす。
ルーナは手袋をしてから、ロープを伝って地面へ。
ほとんど音もなく、ルーナは自室から庭へと出た。何度もやっているので、慣れたものだ。
時には今日のために、荷物を背負って下降する訓練をしたこともある。
ちなみに、登る方が大変だった。
ルーナは首から提げた懐中時計を確認。ピッタリ0時。ルーナは12歳になった。
月明かりと星明かりの下、ルーナは屋敷を囲う塀まで移動。
「やっほー、ルーナ。誕生日おめでとう。今日も綺麗だな(ルーナ可愛い。ルーナ天使。ルーナ大好き)」
塀の上に座った少女、リリアン・アップルビーが言った。
「ありがとうリリちゃん。時間通りだね。それと、確かに綺麗だね(お月様、まん丸くて綺麗。満月ではないけど、一歩手前的な?)」
ルーナは挨拶しながら、月を見上げた。
「楽しみすぎて、15分前にはここにいたぜ? キラキラした金色が視界に入った時はドキドキが止まらなかったぞ(ルーナの髪、本当にキラキラ綺麗だ! クンクンしたいし、キスしたい!)」
リリアンは12歳と3ヶ月の少女。
髪は赤毛でショートレイヤー。
前髪は長めにとって、長い部分と短い部分の段差を付けたレイヤースタイル。すごく軽やかな印象。
ちなみに身長は142センチ。ルーナと同じぐらい鍛えているので、引き締まっている。
瞳の色は海のようなブルー。
服装はルーナとほぼ同じ。布の服に革のマント。頑丈なブーツ。
ちなみにリリアンは平民の子で、身寄りもない。今は孤児院で生活している。一応リリアンも書き置きを残して出ている。
「重いけどよろしく(リリちゃんったら、月にドキドキするなんて乙女だなぁ。でも嫉妬しちゃう)」
ルーナがリュックを投げて、リリアンがキャッチ。
身軽になったルーナは、助走を付けてからジャンプ。塀の上に手をかけ、よじ登る。これも訓練したので余裕。
リリアンがルーナのリュックを先に落とす。塀から落ちた程度で壊れるような物は入っていない。
2人は顔を見合わせて微笑み、「せーの!」と言って一緒に飛び降りた。
リリアンは地面に置いていた自分のリュックを背負う。ルーナもさっき落としたリュックを背負った。
「ルーナ今日も可愛いぞ(さぁ、急いで魔女のとこに行こーぜ)」
「ありがと、リリちゃんも可愛いよ(私が月に嫉妬したのバレちゃったかな?)」
「え?」とリリアンが頬を染めた。
(きゃーー!! もしかしてあたし、また思ったこと言っちゃった系!?)
「それと、私が可愛いのは」言いながら、ルーナが手袋を外す。「リリちゃんがいつも褒めてくれるから、かな?」
ルーナは微笑み、左手を差し出す。手を繋ぎましょ、という意思表示。
リリアンはボンッと赤くなって、だけど迷わず手を繋いだ。
(リリちゃん本当、可愛いなぁ)
ルーナは心の中でニヤニヤした。
「さ、さぁ、魔女さんのところに行こうぜ!」
リリアンが歩き始めたので、手を繋いでいるルーナも一緒に歩いた。
「魔女さんの今日の要求は何だろうね?」とルーナ。
「さぁ、何だろね? でもどうせ、今回もチョロいと思うぞ。いつもチョロチョロだし?」
2人を冒険に送り出してくれるのが魔女だ。
魔女とは9歳の時に出会って、仲良くなった。
「前はさ」思い出しながらルーナが言う。「魔法を教えてもらう代わりに、ほっぺにちゅーしたね」
「ほっぺにちゅーとか、魔女さんって案外ガキっぽい」
魔女に近づいてはいけない、特に若い女の子は、と街の人たちはいつも話している。
だけれど、そんな風に禁止されたら会いたくなっちゃうよねー! というノリでルーナとリリアンは魔女と友達になったのだ。
「火属性か水属性なら、冒険が楽になったのにねー」
「仕方ないだろ。あたしは光で、ルーナは闇だし? 2人で頑張って使えるようにしたじゃん。魔物出ても倒せるぐらいに!」
魔法は一般的に、便利なだけで戦闘には向かない。魔法が強力なのは、魔王とか勇者とか賢者とか、そういうごく一部の人間だけ。
あとは魔法兵と呼ばれる外国の傭兵ぐらい。
ルーナもリリアンも普通の少女なので、魔法の威力も一般的だった。
「リリちゃん、今日は冒険レベル1だから、戦闘はないよ? 私も魔物には会いたかったけどね」
「別に出てもいいのになー。あたしらなら、魔物なんて瞬殺できる気がする!」
魔女との約束で、緩い冒険から徐々にレベルを上げていくことになっている。
今回はそう、南の方の無人島で5日過ごすという冒険だ。
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