第124話
7月4日。
世界にモンスターが出現してから85日目。
この日、探索者ライセンス制度が正式にスタートした。
台風が到来する前に日本全国47都道府県全てにタワー系の建物が設置され、自然災害による被害拡大は免れた。
同時に、台頭し始めた新たなアイドル歌手やアーティストを複数起用した復興を印象付ける番組が編成され、放送や配信が行われた。
だがしかし、ダンジョン探索サポートセンター支部の職員不足は深刻であった。
その理由は、ダンジョン監視システムに必要な監視カメラの設置やダンジョンの確認によるマンパワー不足のためだ。そのため探索者ライセンスが欲しい者は、稼働している最寄りのダンジョン探索サポートセンターまで出向く必要があった。
一時は、府県を2~3統合し設置数を減らす案も政府内で検討されたが、地方特有の方言や土地への愛着が強い民族性を考慮し、47都道府県となった。しかし、北海道はその範囲が広いために、札幌以外に釧路にも設置された。
当初、資金繰りに苦慮していた政府であったが、ダンジョン活動をする新人族が増加したことでSPの収入も増加した。しかし、それだけでは当然資金は足りなかった。
そこで考え出されたのが、スケルトンハウスの利用においてレベル20に至った者は基本的に使用禁止としたことだ。そして、マナコインの使用枚数が規定枚数に達していない者には、1回の利用でダンジョンコア討伐によるSPの4割を払うことで利用できる事とした。
少なくない批判も起こったが、スケルトンハウスの増設と復興のための名目を前面に押し出したことで、騒動には至らなかった。
なお、迷宮核の宝箱の取り扱いは全て政府のモノとされた。そのため、誤って箱に触れたという者はひと月の間魔石鉱山送りとされた。
また復興への募金が増えたこともあって、予想よりも大幅に設置期間の短縮が図れたのだ。
しかし、人材不足はそう簡単に解決できる問題でもなかった。こればかりは、時間が必要なのでどうしようもない。
現在、戸籍や年金など多くの情報が失われ住所自体変わった者が多いのだから、新たに一から作り直したほうが早い。
また外国籍の者については、帰国希望者には8月末日まで帰国支援をするが、9月からは魔石鉱山送りとなる予定であり、その期間は未定と発表された。さらに外国籍旅行者の受け入れも国内が安定するまでしない事も発表された。
これは、深刻なマンパワー不足となった国が不足分を補うためであり、日本に住みたい外国籍者に日本国籍を取得させるための政策だ。
魔石鉱山と謳っているがその実態は、政府が新たに作り出すダンジョンの討伐である。勿論魔石の回収はするが、スケルトンハウスの大型化の検証とスケルトンハウスが成長した場合の討伐難易度の実験とSP獲得である。
参加者は10億SP納めれば準国民として扱われる。さらに日本国籍取得後、中学卒業レベルの教養と一般常識、及び日本語での日常会話ができれば、5年後に準が消え正式に日本国民となるとした。
日本政府は、来年2月に国民投票で政策の是非を決めることを発表した。参政権の対象となる者は、新たにマイナンバー登録した新人族かつ売買システムで購入したスマホを所持する者とした。つまり年齢は一切関係ない。売買システムを利用できスマホを購入できる思考力と財力があれば、良しとしたのだ。
この案が採用された理由は、売買システムで購入できるスマホは1人1台しか購入できない仕様となっており、破損などで新たに購入しても同じ情報を有している事が分かったことにある。
政府の用意した投票サイトにアクセスすると、個体識別番号が自動的に割り当てられる仕組みとなっていて、2重投票などの不正はできない。これは、現代科学技術と新人族の能力が合わさって構築されたシステムである。
なお、携帯電話会社は通信費用の大幅な値下げと人員整理を行ったくらいである。売買システムで購入できるスマホは、元となる携帯電話を所持していない者には項目自体が表示されないのだ。
一見暴挙の様な内容であるが、新人族化しない者はマナ中毒で亡くなる可能性が高いと考えられている事も一因である。
これは魔素の感知が可能になったことで、ダンジョンから微量の魔素が絶えず漏れている事が確認されたことにある。
この情報が世界中に衝撃を齎したのは言うまでもない。
ダンジョンは、世界中いたるところに無数に発生しているのだ。非常に緩やかではあるが魔素の濃度が増加しているのは確実である。旧人類が死亡する濃度まで魔素が上昇するには10年後・20年後・100年後と科学者によりバラバラであるが、旧人類でいるデメリットが多いのは確かなのだ。
旧人類のデメリット
・身体能力が低く生命力が弱いため病気等に対する抵抗力も低い。
・モンスターに対して完全に無力であること。
・売買システムが使用できないこと。
他にもデメリットが出てくるかも知れないが、いつまで旧人類のまま安全に生きていられるのか誰にも分からないのだ。だからこそ政府は、新人族化しない者を新たな時代の選択に関与させる気はない。
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