第217話/迷惑な理想論

同性同士のキスは異性同士のキスとは違う。そんなの私も分かっているけど、初めての反響に違和感を感じている。

私の想像を超えることが多すぎて、頭がついていけないのかもしれない。


打ち合わせが終わり、私はメンバーと別れ雑誌の撮影のためよっちゃんと車で移動する。最近、4人での仕事より個人仕事が多く、1人で車に乗ることが増えた。

少し前までは隣には必ず梨乃がいたのに、車内の中は私とよっちゃんだけ。


暇を持て余した私はスタジオに着くまで携帯でエゴサーチをする。私の名前で検索をすると愛と一緒に撮った写真やMVの画像が沢山貼り付けられていた。そして、私の評価的なことが沢山書かれており…


・藍田みのりちゃん、城翠高校出身なの⁉︎

・同性が好きそうな顔立ちだね

・城翠高校って偏差値73だよね?凄くない!

・高校生の時から顔が出来上がってるね

・この制服、憧れてたなー


こんなの…私のプライベートが垂れ流し状態で全く嬉しくない。それに、また私の高校時代の写真が出回っており、今回は隣に映る美沙の顔が隠されていなかった。


美沙は一般人なのに…


モラルの無さに嫌気がさす。これでは美沙に迷惑がかかってしまうし、もしかしたら既に美沙に迷惑が掛かっているのかもしれない。


ずっと、名前が売れたい、人気者になりたい、アイドルとして成功したいと思っていた。やっと少しづつ夢が叶ってきたのに最悪な行為のせいでモヤモヤする。


「よっちゃん…」


「何〜?」


「勝手に載せられたSNSの写真って消せないのかな…」


「出来るけど、かなり難しいかな…時間もかかるし。嫌な写真でもあったの?」


「私の高校時代の写真が出回ってて、友達の美沙の顔が隠されてない…」


「あー、それは困ったね。そっか…」


きっと、このよっちゃんの反応だと削除要請するのは難しいのだろう。アンチコメントやデマの写真などの削除要請も大変だと聞く。

でも、ハッキリ言ってこんなのおかしい。


プライバシーを守る、表現の自由など勝手に呟く側は守られいるのに、言われている側は全く守られていない。

勝手にプライベートを流出させられて、私の一般人の友達に迷惑を掛けている。


「何で、他人のプライベートを勝手に流すのかな…」


「そうだよね。おかしいよね…」


私は《芸能人だから》って言葉がこの世で一番嫌いだ。芸能人だったら何をしてもいいの?ってなるし、プライバシーが守られない。

なのに、この一言で済ませられる。おかしいって分かっているはずなのに。


「みのり…美沙ちゃんに気をつけてって伝えてほしい。もし、美沙ちゃんの同じ大学の子達がみのりと美沙ちゃんの写真を見てしまった場合、美沙ちゃんにみのりのことを根掘り葉掘り聞いてくることがあると思うから」


「最悪…」


「美沙ちゃんに迷惑が掛からないといいけど、絶対にないとは断言できないし…」


現在のSNSは手のつけられない無法地帯で、ネットリテラシーなんて無いに等しい。だからこそ、ネットやSNSのトラブルが絶えない。

これが匿名の怖さ。そして、匿名ではない芸能人が餌食になりやすい。


美沙は一般人で大学生で、私の大事な友達だ。でも、そんなことどうでもいいと思っている人が多く、めちゃくちゃ腹が立つ。

美沙のことをみのりちゃんの友達かな?って書き込んでいる人もいて…


あっ、最悪だ。嫌な言葉を見つけてしまい…苛立ちが抑えきれそうにない。何で、美沙が通っている大学名まで晒されるの?

美沙は一般人で芸能人ではない。私の友達だからっておかしいでしょ!


「みのり、しばらくエゴサーチするのは控えた方がいいと思う」


「でも、美沙に迷惑掛けているから調べないと」


「気持ちは分かるけど、どうすることも出来ないし…」


「じゃ、美沙はどうなるの?美沙は一般人だよ。大学名まで晒されて、こんなのおかしいよ!」


「えっ…大学名まで晒されてるの?マジか…」


私だけだったら我慢が出来る。でも、大事な友達に迷惑が掛かるのだけは我慢できない。

たけど…私はただのアイドル。美沙を守る手段がなく、、何もできていない。


「我慢するしか無いのかな…めちゃくちゃ悔しいよ。私のせいで友達に迷惑が掛かるなんて」


「みのりの気持ちは分かるよ…私も悔しいもん」


理不尽な言動と行動に困らされる芸能人は常に弱者だ。それでも、飲み込むしか無い本音は私をとてつもなく苦しめる。

これが憧れていた世界の代償なのかって…そもそも、代償って意味が分からないし。


あいみの、あいみの、うるさいし!!!

みのりの、みのりの、うるさいから!!


愛も梨乃も私の大事な友達でメンバーなのに何で、一々、こだわるの?何でもっとフラットに見てくれないの?

ただでさえ、イラつくことばかりなのに…押し付けられる思いが重たくて重圧になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る