第196話/ストレイシープ

オーディションを受けて2日後、メンバー達でアルバムに向けて打ち合わせをしている会議室に電話が鳴り、一時退室していたよっちゃんが「みのりー!やったよー!」と言いながら会議室に入ってきた。


みんな、私も含めてよっちゃんのハイテンションぶりに唖然とし、よっちゃんは私達の唖然ぶりに気づかずテンションが高いままでガッツポーズをしている。


「よっちゃん…どうしたの?」


美香がよっちゃんのハイテンションに対し、ローテンションの口調で聞く。


「みのりのドラマ出演が決まりました!」


「えっ!オーディション受かったの?」


「受かったよー!みのり、おめでとう!」


私はよっちゃんの言葉に大きな声を出す。受かりたい気持ちは強かったけど、奇跡は二度も起きないよねと不安も大きかった。


「みーちゃん、おめでとう!」


「美香、ありがとう!」


「みーちゃん、凄ーい!」


「由香里、ありがとうー!」


「みのり…おめでとう」


「梨乃、ありがとう!」


みんなにおめでとうと言われ、嬉しくて私もテンションが高くなってきた。


「みーちゃんのドラマはどんな内容なの?」


「恋愛ものだよ」


「わぁ、楽しみ〜」


美香に質問され、私は一応恋愛ものと答えた。本当に恋愛ものであるから嘘ではないし、直球でGLって言いづらかった。


「ドラマには原作あるの?」


「うん。ラブ・シュガーって漫画本」


「えっ!!!」


由香里に質問され、私は漫画のタイトルを言うとずっと静かだった梨乃が驚いた表情をしながら大きな声を出す。


「梨乃?」


「あっ…ごめん」


「ラブ・シュガーって言うんだ。よっちゃん、会社に原作の漫画ないの?」


「あるけど…」


梨乃の様子が何か変だ。でも、美香は原作の漫画が気になっているようで…

そんな美香によっちゃんは困った顔をする。ラブ・シュガーは女性誌の漫画だから高校生の美香に教えるのを躊躇するのだろう。


「美香…あのね。ラブ・シュガーは女性誌の漫画で、、」


「女性誌って何?」


「成人漫画ってこと」


「えっ、エッチな話なの⁉︎」


「ちゃんと恋愛ものだよ。ただ、少し大人のシーンもある」


「えー!みーちゃんが…」


美香が口を開けたまま驚いている。由香里も美香と同じように驚いており止まっている。


「よっちゃん、原作見せて!どんな内容かチェックする!」


急に動き出した由香里。美香も由香里の声に反応し「早く!早く!」と騒ぎ立てる。


「分かったって…ちょっと待ってて」


本を取りに行ったよっちゃんがいなくなり、私は2人の鼻息の荒さで気まずくなり、よっちゃんと2人の時に合否の結果を知れたらよかったのにな…と苦笑いする。


「みーちゃん、漫画にキスシーンはあるよね?」


「うん…」


由香里が机を叩きながら私に質問をする。私はよっちゃんが帰って来るまで2人に質問攻めをされるみたいだ。


「エッチなシーンは!」


「まぁ…あるけど、どこまでドラマでやるか分からないし」


「あるの⁉︎ドラマは何時枠⁉︎」


「深夜」


美香がエッチなシーンや時間枠を興奮しながら聞いてきた。そして、私が深夜と答えると「深夜!!!」と立ち上がった。


「もう決定じゃん!絶対にエッチなシーンあるよ!深夜枠は過激な作品が多いんだから絶対にあるよ」


「そうなの?」


「そうだよ!」


美香が畳み掛けるように宣言する。普段、ドラマを見ないから知らなかった。


「みんな、お待たせ」


「よっちゃん!早く!」


「分かったって。はい、どうぞ」


由香里がよっちゃんを急かせなが机をまた叩く。どれだけ興奮をしているのだろう…これは高校生特有なのかな?


本を受け取った由香里と美香は最初から読むのかなって思ったらいきなり真ん中のページを開き「えー!!!」と大きな声を出す。

どうも開いたページが絵里と天のキスシーンらしく目を丸くしている。


「えっ…女の子同士でキスしてる」


「ラブ・シュガーはGLだからね」


美香の言葉によっちゃんがあっけらかんといった言葉で返事をする。私としてはよっちゃんぐらいの感じが有難いけど美香と由香里の興奮のボルテージが余計に上がった。


「GL!!!!!!」


由香里の大きな声が会議室に響き渡る。そう言えば、由香里は私が友達(美沙)とキスしたことがあると言った時もこんな風に興奮していた。


「よっちゃん!会議は何時まで!」


「えっ…あと2時間ぐらい」


「えー…会議は明日にしようよ」


「用事でもあるの?」


「本を買いに行きたい」


由香里が突然会議の時間を聞いたらと思ったら、本を買いに行きたいから明日にしようって言うなんて由香里は私が思っている以上にGLが好きみたいだ。


「私も早く買いに行きたいー!!!」


「会議が終わってからでいいでしょ」


「えー、内容が気になって集中できないよ…」


美香が珍しく駄々を捏ねている。仕事ではちゃんとプロ意識が高い美香なのに今日は高校生の美香が前面に出ている。


「じゃ、今から休憩にするよ」


「いいの?」


「その代わり、1時間だけよ」


「やったー!」


よっちゃんが美香に負け、今から休憩することになった。由香里も喜び、早速美香と共に漫画を読み始めた。

私はコーヒーを飲み、一息つく。質問攻めにされ流石に疲れた。


それにしても2人がGL漫画にここまで反応するなんて思わなかった。梨乃はいつも通りで変わらずホッとした。

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