第163話/カメレオンの世界
奥原百香.side
仕事が終わり、今日は先生がずっと拗ねており私は家に帰れずにいる。今日はCLOVERのライブの日で、仕事が終わったのに突然の修正が入り…ライブに行けなくなったのだ。
先生はいつもライブに行く為、必死に仕事を頑張っている。でも、こればっかりは仕方のないことで修正が優先だ。
でも、タイミングが悪かった。普通のライブだったら諦めがついたのに今日に限って…
松本梨乃ちゃんが藍田みのりちゃんにキスをした。頬にだけど。
別に今の若い子は頬にキスなんて特別なものでもないし勢いやノリでしかない。
でも、先生にとってはみのりのは特別。だからこそ、拗ねており落ち込んでいる。
先生も家庭があるし、私も早くお風呂に入りたい。でも、落ち込む先生を置いて帰るわけにはいかずお菓子を食べながら先生が立ち直るのを待つ。多分、長期戦になりそうだ。
私は暇つぶしにCLOVERのキスの件について調べることにした。先生がそれほどハマる理由を知りたかったし、最近やっと「ラブ・シュガー」を読み終わり気になったのだ。
CLOVERのライブの感想のSNSは盛り上がりが凄く、みのりの結婚!とか書いてあり、熱い感想が沢山書かれていた。
あゆはる最高!とも書かれており、あゆはるファンの熱も高く、漫画に良い影響があるといいなと思いながらスクロールする。
私は芸能人とか興味がなく、アイドルもほとんど知らない。でも、先生のお陰で少しだけ詳しくなり(主にCLOVER)カップル売りと言うものを知った。
きっと、みのりのの関係性はカップル売りに近いものがある。ただ、仲が良いだけかもしれないからハッキリとは分からないけど、藍田みのりちゃんファンと松本梨乃ちゃんファンはとてつもない熱い想いを持っている。
これがカップル売りの沼かと納得する。可愛い×可愛いは確かに良い相乗効果を生み出すし、目の保養にもなる。
ドキドキとか特別な感情は湧かないけど、先生がハマる理由が分かった。
でも、先生が今日行けなくてよかった。今日のライブに行っていたら数日は使い物にならないし、ずっとみのりのについて語られる。
でも、そろそろ拗ねるのをやめ落ち込むのもやめてほしい。私はお腹が空いたのだ。
「先生、そろそろ帰りましょう」
「やだー!」
今も床で駄々を捏ねる先生に私は愛の鞭としてお尻を叩く。先生は年上だし、尊敬する大好きな先生だけど今の先生は3歳児だ。
「痛い…」
「先生は今、何歳ですか?」
「26歳…」
「結婚もしているし、漫画家として成功した大人ですよね?」
「はい…」
私の言葉に落ち込んでいく先生は可愛い生き物でしかない。年上で尊敬する先生だけど、可愛い先生であり、だからこそ守りたい。
「先生が藍田さんのこと好きなのも知ってますし、みのりのが好きなのも知ってます。でも、大人としてちゃんとして下さい。アイドルのキスはパフォーマンスなんです。アイドル好きの先生なら分かりますよね?」
「うん…」
「パフォーマンスならまたいつか見れますよ。それに、アイドルのカプ的なものにのめり込みすぎると大事な漫画に支障が出ます。私は先生の漫画が大好きなんです。ラインを越えないで下さい」
「ごめんなさい…」
これはアイドルのとって仕事であり、れっきとしたパフォーマンスだ。本当に付き合っている人はいない。
ファンに大好きなメンバー同士の擬似恋愛を見せて熱狂させる手口。でも、これは別にやっていること自体は悪いことではない。
あくまで仕事の一部で、ファンに恋愛ドラマを見せている感じだ。次の展開を期待させ、興奮させ、話にのめり込ませる。
先生は私が一言言うとちゃんと現実に戻ってきてくれる。だけど、沼に落ちのめり込む人もいるだろう。
沼に落ちた人達は大丈夫だろうか?ドラマは見ている人をハマらせるギミックが入っており、だからこそのめり込み酔いしれる。
あくまでドラマなんだと理解していないと先生みたいに馬鹿になる。お陰でまた落ち込む先生を見ながらため息を吐いた。
理想や妄想はこの世で一番楽しい時間だ。だから、私は漫画を読む時間が大好きだ。先生の作る世界が大好きでいつも酔いしれたい。
そして、楽しい時間を楽しみたいから現実を頑張ろうと思える。そう…現実と夢の世界を一緒にしてはいけない。
夢を追うのはいい。
夢を押し付けるのは迷惑行為でしかない。
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