第149話/かき鳴らす雷鳴の感情
吉田夏樹.side
今日は朝早く出社し、意気揚々と仕事の準備をする。CLOVERのメジャーデビューシングル「Kiss Me」がやっと発売され、私も自分用にCDを買い、私のディスクに飾っている。
待ちに待った念願のメジャーデビュー。この日が来るまで長かった。
梨乃とみのりが出演するドラマも今日クランクアップし、みのりは明日から映画「さんかくパシオン」の撮影に入る。
そして、由香里がグラビアを飾った雑誌も発売され評判も上々で、美香も「さんかくパシオン」の生徒役で出演が決まった。
何より嬉しいのは「Kiss Me」のフラゲ日の売り上げが良く、新人アイドルのデビュー曲として十分な数字を叩き出している。
もし、梨乃とみのりのドラマ出演が無かったら違った未来だっただろう。これもドラマの力であり、あゆはる人気の賜物だ。
ドラマ出演や楽曲のタイアップがなかったらきっと、デビュー曲はファンしか知らず聴かれず埋もれていた。
CLOVERは運を掴み、未来を勝ち取った。芸能界は運がとても大事で、一番大事な時期に最大の運を手に入れた。
だけど、ただ2つ…杞憂がある。1つ目は高橋君との早い再共演で高橋君の一部のファンがみのりに対してアンチ的発言が多い。
こうなることは分かっていたけど、理不尽な暴言が多く流石に目に余る。
2つ目は梨乃だ。梨乃に映画のオーディションを受けさせたいけど首を縦に降ってくれないし、アイドルしかやりたくないと言う。
梨乃の頑固な考えに苦戦している。でも、今回のオーディションも勝ち取ったら梨乃は女優としての道が完璧に花開く。
だからこそ、諦めたくないし梨乃の才能をここで埋もれさせたくない。それに、今回の映画は家族愛(疎遠だった祖母と孫の夏の思い出)の物語で、梨乃がNGを出している恋愛系ではないから丁度いいのだ。
オーディションの役柄は主人公の孫の役で、主人公を演じる女優はすでに決まっている。舞台や映画に多数出ている実力派女優で、もし孫の役を掴めれば…女優として、とても大きなステップアップになるだろう。
今時な話や派手な内容ではないけど、きっとこの役は女優として躍進できる。
実力派女優との共演で演技の勉強にもなるだろうし、アイドルでは収まらない梨乃の才能が開花し、森川愛ちゃんに追いつける。
だから、何が何でも梨乃にこのオーディションを受けさせないと。受かるかなんて分からないけどチャンスを逃すなんてしない。
仕事に優越なんてないけど、梨乃に来たオーディションは賞レースを狙える映画だ。アイドル女優から脱皮できる役柄でもある。
アイドルをしながら女優をするとアイドルだからと色眼鏡で見られやすい。そんな色眼鏡を跳ね飛ばす演技力を梨乃は持っている。
梨乃さえ本気を出せば…これが一番の問題だ。どうやったら、梨乃を女優の道に誘導するかを考えないといけない。
やはり、オーディションを受けさせるのにみのりを使うしかないみたいだ。
それにしても…新人の地下アイドルだったCLOVERが1年で事務所の稼ぎ頭になり、梨乃・みのりを筆頭にみんな頑張っている。
歌番組の件で美香が一度拗ねたけど、今日はとても大事な日だ。きっと、ラストの撮影はみのりも梨乃も泣くだろう。
メンバーのことを考えるだけで疲れが吹っ飛び、みんなが愛おしくて堪らない。母性愛に近い感情が私に幸福感をくれる。
一度、机に飾っていたCDを手に取りジャケットを見つめ微笑む。最高の気分だ。
本当はもっとCDのジャケットを見ていたいけど時間がない。車の鍵を持ち、みのりと梨乃を迎えにいく準備をする。
壁に貼られているCLOVERのポスターを見ながら大好きなみんなが私が得られなかった未来を掴み、行きたかった未来へ連れて行ってくれることに胸が熱くなった。
車の中で「Kiss Me」を流し私はノリノリで車の運転をする。まずは梨乃を迎えに行き、おはようと元気よく挨拶をする。
梨乃はいつも通りの梨乃で眠そうに「おはよう」と返してくれた。今日はドラマのクランクアップなのに梨乃らしい。
でも、みのりの家に近づくと眠そうだった顔がパッと明るくなり、窓からみのりの家を今か今かと見つめる。
みのりの家の玄関の前でみのりに着いたよとLINEを送ると、すぐにみのりがドアから現れ梨乃の表情は更に嬉しそうだ。
車のドアを開け、私と梨乃に元気よく「おはようー」と挨拶をするみのりに対し、梨乃も元気よく挨拶をし笑ってしまう。
あれだけ眠そうだったのに、今はみのりを見つめ楽しそうにみのりと話している。恋する乙女はキラキラと輝くって本当だね。
なんてことを思いながら私は車を発進させた。信号で止まった際、バックミラーで後ろを確認すると2人はかなりの近距離で話しており…もしかして2人は付き合っている?と勘違いしたくなるほど近い。
私は友達とあんな距離で話したことがなく、2人を見ていると《みのりの》が好きな人が増えていくのがちょっと分かる。
本気で梨乃とみのりが付き合ったらと思いたくなる距離感で仲の良さが分かるから。
昨日、読んだ《ラブ・シュガー》を思い出す。みのりや梨乃と同い年の女の子達の恋物語。
10代の女の子の恋愛の話なのに少し過激で、濃厚なラブシーンがあり驚いた。
でも、読みながらずっとドキドキした。これが春菜が言っていた当たり前を越える感情。
やっと、私にも分かったことがある。相手にドキドキした時点で恋の始まりであり、惹かれてしまったら止められない。
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