第116話/ソーダ色の青春
黙々とステップの動きやシュートの練習をしていると時間があっという間に過ぎていく。そのせいで愛を放置しており、慌てて愛の元へ行くと床に置いていたタオルを取ってくれて「お疲れ様」と言われた。
「ごめんね、夢中でやってた」
「気にしないでって言ったでしょ。みのりがバスケの練習をしている姿を見るの楽しいから大丈夫」
時間を確認すると2時間ほど経ち、現場に戻らないといけない時間になっていた。タオルで汗を拭きながらスポーツドリンクを飲む。
集中力が途切れると、ダンスとは違う体力が消耗し疲れが一気にきた。
「そろそろ戻らなきゃね」
「えっ、もうそんな時間なんだ」
愛が時間を確認し、時間の進みに驚いている。私はタオルを首にかけ、戻る準備をしていると愛が私の飲みかけのスポーツドリンクのペットボトルを持ってくれた。
「愛、行こうか」
「うん」
私はボールを持ち、愛と体育館を後にする。まだ不思議な気持ちだ。隣には人気女優の愛がいて普通に私と話している。
愛と話していると昔からの友達感覚になるし、気楽に話せて緊張しない。
「あっ、みのり。電話交換しようよ」
「そうだね」
衣装部屋に着き、愛がポケットから携帯を取り出す。少しだけドキドキしながら愛と番号の交換をし、電話帳に森川愛の名前が刻まれたのを見て微笑む。どうしても、愛と友達になれたことが私にとって凄いことで嬉しい。
「みのりのLINEのアイコン可愛いね。これって何のキャラの動物?」
「何だろう?友達が設定してくれたから」
「そうなの?」
「うん」
私のLINEのアイコンは美沙が設定をした。アイコンとか全く興味がない私はいつも適当にしていた。
そんな私を見かねて美沙が私のアイコンを可愛い動物に変更し、美沙と同じ動物シリーズのアイコンになっている。
「ねぇ…みのりって今、彼氏いるの?」
「えっ、いないよ」
「そうなんだ。てっきり、恋人と合わせているのかなって」
「アイドルやっているから一応、恋愛禁止だよ」
「ごめんね。勝手なイメージで恋愛禁止だけどみんなこっそり恋愛しているんじゃないかと思ってたから」
「まぁ…そうだよね。でも、守っているよ」
アイドルは恋愛禁止。誰が言い始めたか知らないけどこの言葉は永遠の呪いだ。
私は恋愛に興味がないから平気だけど、この呪いのせいで脱退していったアイドルが沢山おり、後を経たず永遠に呪われている。
この呪いは強力で、呪いに逆らおうとして、バレなきゃ問題ない・きっとバレないと思いながら恋愛し、勝手に消えていくのだ。
「ねぇ、今度さ。CLOVERのライブ行っていい?」
愛が突然、恐ろしいことを言う。私はビックリして思わず立ち止まってしまった。
「危ないよ!大きなライブハウスじゃないから密になりやすいし、愛が見つかったら大変だから」
「えー、行きたい」
いくら愛が変装しても、もしものことがあるからOKはできない。それほど、愛は人気女優で知名度が高すぎる。
「ごめん。ライブは流石に無理かな」
「分かった…残念だな」
落ち込む愛に苦笑いしながら私は着替えるためジャージを脱ぐ。出来れば、シャワーを浴びたいけど学校にないから諦めるしかない。
着替え終わった私は休憩するために椅子に座った。隣に愛も座り、私達は自分の撮影の時間まで話すことにした。
愛は明るい子で、可愛さが同世代の女優の中で飛び抜けている。誰が見ても可愛いって言葉が出てくるし…だけど、どこか寂しげだ。
プライベートの話になると1人で過ごすことが多いと言われ、今まで遊びに行く時間がないほど仕事が多忙だったみたいだ。
それに愛もなぜか事務所から恋愛禁止されているらしく、友達も男友達は禁止でアイドル並みに禁止事項が多い。
そこまでしなくてもと思ったけど、きっと愛は事務所が一番力を入れている女優であり、将来を期待されているからだ。
「愛も大変だね」
「仕事は楽しいから我慢できているけど…何かを犠牲にしないといけないってストレスが溜まるよね」
「確かに」
「でもね、みのりに出会えたから今は嬉しさが勝ってるよ。仕事が楽しいもん」
「嬉しい。ありがとう」
私も愛に出会えて嬉しかった。新たなるステージに進めたから愛に出会えたし、手が届かないと思っていた女優さんと仲良くなり優越感に浸れる。
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