第114話/始まったPARTY TIME

松本梨乃.side


小春は優等生であり

大人しく…

まるで中学時代の私だ。


だからかな…少しだけ嫌悪感がある。早月に惹かれる所は共感するけどずっと脱出したくて苦しかった時期を思い出す。



初めての演技に戸惑いながらも、これは仕事だと言い聞かせ監督と話しながら佐藤小春を作り上げていく。

台本を見たかぎり原作に忠実で、無理やり小春と翔平のラブストーリーに変換されていない。ちゃんと小春は早月に惹かれていく。


みのりに真剣な表情で演技をする所を見られ緊張するけど、みのりがいるからこの場にいられる。きっと、1人だったら逃げ出しよっちゃんを困らせていた。

やっと初めてのシーンを撮り終え、ホッとする。監督に良かったよと言われ、安堵しながら私はみのりの元へ向かった。


でも、早く安心したかったのに…みのりが森川さんと話している。楽しそうに話している姿は漫画の凛と早月で友達に見える。

これは自己嫌悪でみのりと森川さんは悪くない。でも、簡単に飲み込めないほどの嫌悪感が溢れそうで苦しい。


でもね、みのりはすぐに私の心を掴む。ずるいよね、本当にずるい。


「梨乃!めちゃくちゃ良かったよー!」


みのりが私に気づき、椅子から立ち上がり嬉しそうにで演技を褒めてくれた。照れくさいけどみのりの素直なリアクションが嬉しい。


「ありがとう」


「梨乃の演技、本当に良かった。感動した」


みのりの言葉はいつも私を簡単に喜ばす。嬉しそうに笑う顔が好きで、私の心は弾み、熱くなり、キュンと音を奏でさせる。

恋は音に支配された世界だと最近知った。嬉しい音や悲しい音、嫉妬する音など様々なメロディーを毎日のように奏でる。


「私も頑張らなきゃ…」


「みのりの演技、楽しみだな」


「もうー、プレッシャーかけないでよ」


「私もみのりに見られて緊張したもん」


不安そうな顔をし、周りを見渡すみのりの表情から緊張が伝わってくる。みのりはリーダーで頭が良くて歌も上手くて、苦手なものがないイメージだから緊張し不安がっている姿がなかなか見れない。


「みのり、撮影が終わったらご飯食べに行こう。みのりの好きな物でいいよ」


「じゃ、ハンバーグ!」


みのりの出番はまだで、私の出番もしばらく空く。やっとみのりのそばに居られると思っていたのに森川さんと目が合い…下を向く。

私の態度は最低だと分かっているけど、美人で明るくて、私と正反対の森川さんが怖い。みのりを取られそうで…私には脅威だった。





森川愛.side


面白いぐらいすぐに顔に出る松本さん。こんなにも心と顔の表情が直結している子は珍しく、面白くて仕方ない。

藍田さんと話すと嫉妬に近い態度を取られ、大好きな友達を取られた子供みたいで、松本さんが藍田さんのことを大好きだと分かる。


今も目が合い、逸らされ、下を向かれた。きっと、気まずさもあると思うけど松本さんの気持ちが少しずつ分かってきた。

藍田さんは社交的で話すと面白く、だからこそ松本さんの不安が強くなる。藍田さんを誰かに取られてしまうのでないかという。


きっと、松本さんは藍田さんに依存をしている。この依存は恋の感情に近いものに見えるけどまだはっきり断言はできない。

ただ、恋と依存は表と裏だ。恋は重くなればなるほど依存していく。


恋をしたことがない私だけど、恋愛ドラマや映画を何本もやってきた女優としての意見だ。


19歳なのに恋をしたことがない私はリアルが枯渇している。ずっと作られた恋愛を演じるだけの生活。だけど、今は松本さんのお陰でワクワクしている。

藍田さんも松本さんも可愛いくて、今まで色んな俳優さんやタレントさんと共演してきたけど初めての感情を2人に持った。



これは…ふふ、なんだろうね。私の中にいる天邪鬼という怪物が騒いでいる。

怪物が楽しいねって!私に賛同を求める。良い子ばかり演じてきた私がやっと…



殻を破る時がきた。



「あの…食事、私もいいですか?2人ともっと仲良くなりたくて」


「いいですよー。ねっ、梨乃」


「えっ…うん」


笑顔の藍田さんと一気に顔の表情が暗くなった松本さん。対照的な2人が楽しくて体の血が騒ぎ、血が滾るように興奮する。

松本さんに嫌われたかもしれないけど私は松本さんが大好きだ。そして、藍田さんも大好き。対照的な2人の組み合わせが最高だ。


私はドラマや映画でキスシーンを幾度となくしてきたけど同性とはしたことがない。もし、同性とキスシーンを演じることがある時は初めては藍田さんがいい。

松本さんが眉間に皺を寄せ、不機嫌になっていく顔を見たいから。


私はある意味、可哀想な子である…

恋愛経験がないのにキスは何回もしている。


私のファーストキスは仕事だった。相手は人気俳優の人だったけど、初めてが仕事の私にとって嬉しいという感情は1ミリもない。

いつも仕事だからと感情を殺してきた。役を演じる時は役になりきるけど、終わったあと虚しさを感じている。


15歳で芸能界に入って、感じたことのなかった感情が溢れる。どうしよう、楽しくて笑顔が自然と溢れる。


私は久保田凛と一緒だ。

周りを掻き乱す悪戯っ子。

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