第96話/Love is ハピネス
松本梨乃.side
親にはドラマのことを話していた。よっちゃんに両親以外に漏らさないことを条件として話しても良いと言われていたからだ。
朝から私のお父さんとお母さんはコンビニに色んな新聞を買いに行き、朝のニュース番組を見ながら録画して喜んでいる。
私は当事者なのに他人事のようにテレビ画面に映る自分を見ていた。制服姿の私がインタビューを受けているなって。
もうすぐドラマの撮影が始まる。みのりが一緒だから頑張るけど、アイドルとして頑張りたい私は全くやる気が起きない。
私はアイドルになりたくて、必死に幾つものオーディションを受けアイドルになった。
演技をしたいからではないと今もぐちぐちと思うのはプロ失格だと分かっているけど、演技に興味がないから仕方ない。例え、親が喜んでも私は喜べなかった。
私の家には何度も親戚から電話がかかってきており親は嬉しそうに対応している。
私は出掛ける時間になり、立ち上がり椅子にかけてあったコートを手に取り着ているとお母さんに今日の夕飯はご馳走を作るねと宣言された。まるでお祝い事をするみたいに…
私がドラマに出ることはお祝い事なの?それなら、メジャーデビューが決まった時にご馳走を作ってほしかった。
両親にとってアイドルとしてのメジャーデビューとアイドルとしてドラマに出演する違いがあるらしく悔しい。
きっと両親にとっては売れるか分からないメジャーデビューと人気アイドルが主演のドラマに出る娘みたいな感じなのだろう。
私にとってはメジャーデビューの方がとても嬉しくて待ち望んだものだったのに。
親に行ってきますと言い、いつも通り家を出て駅まで向かう。駅に着き、改札口を通ると近くにいた女子高生が私に対して指を差す。
えっ?と思っているとコソコソと隣にいる女の子と話し視線がしつこく私に付いてくる。
ジロジロと見られ、嫌な気持ちになったけどどうすることもできずそのまま歩いた。
そんな時、後ろからドラマにでる子だよね!って聞こえてきた。ヒロインの子だよ!とまた聞こえてきて私は早足でホームに向かう。
私はいつも通りの格好で家から出てきた。帽子も被らず、マスクもせず…だって一度も声を掛けられたことがないし、気づかれたことがなかったから。
これがテレビの影響力。駅の中にあるコンビニを見つけ私は急いでマスクを買った。
マスクを付け、下を向く。バレないとは思うけど前を向くのが嫌になった。
事務所に着くまで下ばかり見て、中学時代を思い出す。虐められ自信を失い、前を向くのが怖くなったあの時代に戻りたくないのに。
「梨乃、おはよう〜」
「よっちゃん…」
「どうしたの?顔の表情が暗いけど」
「別に…」
やっぱりオーディションなんて受けなきゃよかったという思いが沸々と湧き上がる。
私がやりたいのはアイドルで演技じゃない…
「梨乃、見てみて!」
よっちゃんが意気揚々と私に出来上がったドラマのポスターを見せてきた。
私とみのりが写っており、このポスターを事務所の一番目立つ箇所に貼る予定らしい。
制服姿のみのりが可愛くてカッコいい…私がこのポスターを見て思う感情だ。後はどうでもいい。どうでも…
「おぉー!凄ーい」
「えっ、みのり?」
いきなり後ろから肩を掴まれ、みのりの声だと気づいた私の心臓の心拍が上がる。
みのりが私の背中越しにポスターに指を差し、嬉しそうな声を出している。
みのりの匂いが私の感情を昂らせる。私の顔の横でよっちゃんに「私もこのポスター欲しい!」と言うみのりに胸がドキドキする。
さっきまで嫌な気持ちで下ばかり向いていた。でも、今は緊張で下を向いている。
みのりを好きになってから、普通にみのりに触れられるだけで意識してしまう。腕を組むことや手を繋ぐことは少しだけ慣れたけど近い距離で触れられると体の熱が上がる。
「梨乃の制服姿可愛いー」
「そんなことないよ…」
「めちゃくちゃ可愛いのに」
「ありがとう…」
全てにおいて嫌だった仕事がみのりの一言でやって良かったと報われる。
みのりに頑張ろうねと言われ、私はうんと言い頷いた。私が頑張る理由はみのりのため。
でもね、ドラマに出ることによって良い事もあり、まだドラマの制作発表しかしていないのに、SNSで「あゆはる」ならぬ「みのりの」フィーバーが少しだけ起きているらしい。
ここからは私とみのりの時間の始まりだ。私達は沢山な人に求められている。
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