第93話/大輪のランナウェイ

今日は朝早く起き、郵便受けに新聞を取りに行き、机の上で芸能欄があるページを開く。

新聞に私が写っている。それもカラーで、原作人気と主役の高橋君人気のお陰だ。


高橋賢人、単独初主演ドラマ!

漫画大賞受賞「彼女はちょっと変わっている」に出演決定!

ヒロインはオーディションで決まった6月にメジャーデビューするアイドル松本梨乃!


ヒロイン役の梨乃の名前も大きく書かれている。期待の新人とも書かれ私も誇らしい。

そして、鮎川早月役に藍田みのりと書かれ、私の名前と写真が載っているだけで涙が出そうだ。やっとここまで来た。


テレビを点けると普通のニュースが流れており、早く芸能ニュースのコーナーにならないかなとソワソワする。

台所で朝食を作っているお母さんは私の行動に怪訝な目をしているけど気にしない。ドラマのことを伝えてないから仕方なかった。



芸能ニュースが始まるまで新聞を読み込むと口角が上がりずっとニヤけてしまう。

CLOVERの名前も書いてあるし、ちゃんと私達のインタビュー記事も掲載してある。

携帯で私のSNSを開くとファンから大量のコメントが来ており最高だ。


特にみのりのファンからの文章は熱量が高く読むのが楽しい。


みのりちゃんー!凄いー!

みのりのー!2人をドラマで見れるの⁉︎

原作漫画、読んでるよ!マジで嬉しい!

凄いよ!躍進じゃん!

ドラマ、絶対に見るね!嬉しいー!

あゆはる…まさか、あゆはるをみのりので見れるなんて死んでもいい!!!


私と梨乃の晴れ舞台。メジャーデビューが晴れ舞台になると思っていたのにドラマのお陰で早まり最高のスタートを切れた。

これでよりCLOVERは注目される。メジャーデビューするだけじゃ、ファンしか曲を聞いてもらえない確率が高かった。


ドラマで私と梨乃を知った人はCLOVERを調べ、きっと曲も聞いてくれるはず。

ほら、ドラマ効果がすでに出ており、私と梨乃のSNSやYouTubeチャンネルの登録者数が何倍も増えている。再生回数も伸びており最高に楽しいことだらけだ。


テレビに顔を向けると次は芸能ニュースが流れる番になっていた。私はドキドキしながら台所にいるお母さんをテレビの前に呼ぶ。

今、朝食を作るのに忙しいのにってブツブツ文句を言いながらも来てくれたお母さんに報告があるからと真剣な表情で伝える。


私の表情から何かを感じ取ったお母さんはソファーに腰を下ろし「何?」と言ってきた。

私は今から流れてくる芸能ニュースを見てと伝え、テレビ画面を指差す。

お母さんはまた怪訝そうな顔をしテレビ画面を見つめ…「えっ?」と驚いた声を出した。


娘がテレビ画面に映り、4月から始まるドラマに出るとアナウンサーの人が話している。

お母さんは口に手を当て、あまりの衝撃に言葉を失っていた。目をキョロキョロと動かし必死に現状を理解し整理しようとしている。


「今度、ドラマに出る…」


「凄いじゃない!えっ、ドラマだよね?びっくりした…」


成績と学歴でしか人の価値を判断しないお母さんが目を丸くし、驚き、喜んでいる。

やっぱり人間はエゴイストだ。売れてないアイドルの娘は価値がなく、人気アイドルの男の子のドラマに出演する娘は価値がある。


親戚も似た人が多いから…ほら、電話が掛かってきた。お母さんは電話に出ると嬉しそうに娘がドラマに出ることを話している。

偏差値の高い高校に行っていた時は褒めてくれた親戚は売れてないアイドルになった途端蔑んだ目をした。私と母が可哀想だと。


私の人生だから好きなように生きる決定権があるのに人間に価値を付けようとする。

私はそんな親戚や母親に嫌悪感をずっと抱いてきた。私の味方はお父さんと美沙だけ。

お父さんが起きてきたら早く報告したいし、美沙に報告したい。


美沙はどんな反応するかな?

喜んでくれるといいな。美沙は私を応援してくれる唯一の友達だ。


美沙に電話をしようと一度自室に戻るため立ち上がる。お母さんは今も電話で親戚の人に娘の自慢をしている。

これで大学もお母さんの理想の大学に入ったら私は完璧に自慢の娘になり鼻高々だね。


だけど、私はお母さんのために頑張っているわけじゃない。私の夢のために頑張っている。

人間は本当…愚かでエゴイストだ。私の携帯には高校時代の友達から何件もLINEが来ており、手のひら返しに反吐が出る。


楽しい大学生ライフを過ごし、大学に進まず売れてないアイドルになった私に今まで連絡なんてして来なかったのにね。

だからこそ、友達は美沙さえいればいい。美沙だけが唯一の理解者で一番大事な友達。


早く美沙に会いたい。

美沙にやったよ!と言いたい。

美沙の声が聞きたくて、急いで階段を登る。

今も増えていく通知の数は私の世界が変わった証拠であり、努力が実った結果。


だけど、ここからが勝負でありスタート!

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