第42話/理想と現実のバランス
レコーディング終わりに私は梨乃と手を繋ぎながら駅まで向かう。別に…私の邪な気持ちで梨乃と手を繋いでいるわけではない。
梨乃から手を繋いできたからと心で言い訳をしながら私は梨乃と手を繋いだ。
今日はレコーディング中に久しぶりに私と梨乃のツーショットをSNSに載せた。
すぐにファンから「やったー!」「待ってたよー!やっぱり、みのりの最高!」などそれぞれの想いをコメントで貰い、みのりのの需要の高さを再認識した。
私の推しメンも仲の良いメンバーがおり、よくツーショット写真をSNSに載せているけど私にはこんな感情は湧かない。
推しメンのこと大好きだし、推しメンと仲の良いメンバーも好きだけど…
なぜ、カップル要素を求めるのか私には全く分からないから理解できないのだ。
メンバー同士が仲良くしている姿を見るのは好きだけど、そんな風な感情にならない私はみのりの人気に戸惑うばかりだ。
きっと、ファンがアイドルに何を求めているのか察知する能力は人気に繋がる。
私はその能力に欠けており、何も考えず写真を撮りSNSに載せていた。
自己アピール能力。もし、梨乃と手を繋ぎながら歩いている姿をSNSに載せたらきっとファンは喜び、またみのりの人気は上がる。
でも、そう何回も写真を撮るわけにもいかないし梨乃に気を使うし…面倒くさいって気持ちがまた私の心を占領する。
「みのり、、みのり」
「えっ?あっ、何?」
「何度も呼んだのに…」
「ごめん…考え事してた」
梨乃に呼ばれていることに気づかなかった私は苦笑いしながら謝る。
集中すると私はシャットアウトする癖があり人の話を聞いていない時がある。
「カフェに行かない?」
「うん。いいよ」
「やった。じゃあね、ここに行きたいな」
「あっ、ここ…美沙のバイト先だ」
まさか、梨乃が美沙がバイトをしているカフェに行きたいと思っているなんてと思ったけど、美沙のバイト先は人気のあるカフェだから当然でもある。
「じゃ…変えたほうがいいよね。知り合いが来ると迷惑になるかもしれないし」
「大丈夫だよ。美沙は気にしないと思うし」
「そうなんだ…」
実は私は一度も美沙のバイト先に行ったことがない。理由は値段が高いからだ。
飲み物はスーパーで買った方が安いし、お金に余裕がないからこそ、どうしても好きな物だけに使いたい気持ちが強い。
「じゃ、行こうか」
「うん」
「ここからどれぐらいかな?」
「えーっとね、20分ぐらいだよ」
「梨乃。足は大丈夫?今日はヒールだから」
「大丈夫だよ。あっ、でも…ゆっくり歩いてほしいかな」
「分かった」
梨乃はどんどんお洒落になっていく。私は今日もスニーカーで楽な服装だ。
私は元々服にあまり興味がなく、防寒的役割を重要視する。それに動きやすさ。
あとは、帽子が好きで帽子に似合うコーディネートをするぐらいだ。だから、スニーカーを履くことが多く…梨乃とは違いアイドル向きじゃないことばかりする。
美沙のバイト先に着くと、人気のあるカフェは人が多く、バイトをしている美沙を探したけど美沙はいなかった。
もしかしたら、今日は休みなのかもしれない。私と梨乃はレジに向かい飲み物を選ぶ。
しばらくして受け取り、梨乃と椅子に座るとさっき見つからなかった美沙を見つける。
お店のエプロンをしており、裏にいたのか、今からバイトなのかもしれない。
美沙が働く姿を初めて見た。子供みたいな所が多々あるけど、ちゃんと仕事をしている。
美沙の新たな姿を見た私はつい美沙ばかり見ていた。梨乃と来ているのにね…
「みのり…」
「あっ、、ごめん」
「美沙ちゃん、いたね」
「うん。さっきまでいなかったからさ」
やっと、体の向きを変え私は梨乃と対面上になる。私のせいで梨乃がいじけている。
やってしまったなと反省していると「みのり?」と美沙に声を掛けられた。
「えー!みのりだ」
「美沙、声が大きいって」
「あっ、ごめん。みのりがバイト先に来るの初めてだから。へへ、嬉しいな」
「うん。やっと美沙のバイト姿を見れた」
「あっ、松本さんだー。こんにちわ」
「こんにちわ…」
梨乃と美沙が会ったのは2回目。美沙はいつも通りだけど、梨乃は人見知りが出てしまっており困った顔をしている。
美沙は梨乃の人見知りを察知し「じゃ、バイトに戻るね」と言い離れていった。
やっぱり、私の友達がいる店は避けた方がよかったかもしれない。私は平気だけど梨乃が気を使うし、美沙とは2回目だけど梨乃は初対面の人と話すのが苦手だから。
「梨乃、、ごめんね」
「えっ、何が?」
「梨乃は人見知りだから緊張するよね」
「あっ…うん」
「歩きながら飲もうか」
「いいの?」
「うん。今日は天気がいいし」
私と梨乃は飲み物を持ってお店を出た。最後に美沙のバイト姿を見ると、美沙が手を振っており私は手を振りかえした。
馬鹿だよね。また、梨乃が拗ねることをして…でも、私は鈍感だから気づけていない。
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