第35話/私の地雷原

松本梨乃.side


私の性格が日に日に悪くなっていく。みのりと谷口さんの仲に嫉妬しても意味がないと分かっているのに妬みが消えない。

美香達と別れた後、みのりの家に泊まっていいか聞きたかったのに、みのりは谷口さんの元へ行ってしまった。


後ろを振り向き、みのりがいないか確認する。そして、いるはずのないみのりを探して…ため息だけ吐く。


「はぁ…カップル多すぎだよー」


今度は美香が周りを見ながら愚痴り、ため息を吐く。今日は無礼講のようにカップルがイチャついており…


「あー!あそこのカップル、キスしてる!」


「えっ!どこ?どこ?」


美香が大きな声を出しながら指をさす。隣にいる由香里は美香の指をさす方向を見ながら美香同様騒いでいる。


そして、私も美香が指をさす方向を見て…嫌悪感が募る。私は人前でキスをする人達が嫌いだ。場をわきまえてない。


「バカみたい…」


「おー、梨乃ちゃんクールだね」


「だって、みんながいる場所でやるもんじゃないじゃん」


「だからいいんだよー」


由香里が私と正反対の意見を言う。だからいいって何?意味が分からない。


「りっちゃんは彼氏と外でキスしたことないの?」


美香が突然、私が答えずらいことを聞いてくる。でも、嘘をつけないから答えるしかなかった。どうせ、すぐにボロが出る。


「彼氏いたことないから…」


「えー!」


「美香、声が大きいって…」


「でもでも!えー、びっくり!」


美香が私の返答に大きな声を出しながら驚いている。驚くのは分かるけど、恥ずかしいからやめてほしい。


「めちゃくちゃ意外…」


由香里までも驚いた顔をされ、意外と言われても恋をしたことがないから仕方ない。

それに、私はまだ19歳だ。まだ10代だし…


きっと、私と同じようにお付き合いをしたことがない人は沢山いる。

ただ、私がアイドルだからだろう。アイドルをやっている人は活発な人が多いから。


「りっちゃん、告白はある⁉︎」


美香の興奮は収まらず、新たな質問をしてきた。由香里も意気揚々として私を逃すつもりはなさそうだ。

仕方なく私は「あるけど…断った」と正直に言った。この手の話は質問側は楽しいだろうけど答える側はしんどい。


「えー!何で!勿体ない!」


「美香は好きでもない人から告白されても付き合うの?」


「顔次第かな〜。カッコよかったら付き合うかも。後は身長の高さとか」


外見だけで付き合うなんて私には考えられない。初めてを体験する人かもしれないし、やっぱり心から好きになった人がいい。だけど、由香里は「ノリもあるよね」と言う。


「ノリで付き合うの…?」


「その場のノリだよ。テンションが盛り上がってとか、周りに囃し立てられたからとか。一度付き合って、性格とか合わなかったら別れたらいいし」


由香里の言葉が私にとって異次元すぎて頭が追いつかない。その場のノリでなんて絶対にあり得ないし好きでもない人とエッチなんて…絶対に嫌だ。絶対に好きな人がいい。


「りっちゃんはどんな人がタイプなの?」


「優しい人かな」


美香がやっと私でも安心して答えらる質問をしてくれた。でも、私の答えに不満顔だ。


「曖昧すぎるよー。顔のタイプとかないの?身長が高い人とか」


「外見のタイプはないよ。優しい人がいい」


「りっちゃんって初心なんだね。そっか、優しい人…うーん、みーちゃんみたいな人?」


突然、美香にみのりの名前を出された私は焦り、黙ってしまった。でも、2人は私が何で黙ってしまったのか分かっておらず、由香里が「私もみーちゃんみたいな人がいいな」と思いがけないことを言う。


「みーちゃんって優しいよね。叱られることは多いけど基本怒らないし」


「分かるー。美香もみーちゃんみたいな人がいい。包容力って言うのかな?みーちゃんって大人って感じがするの」


2人の会話に胸がチクチクと痛む。そんな私に気づいていない2人は女の子と付き合うならみのりがいいと簡単に言う。

腹が立つ。軽々しくみのりと付き合いたいって言うなんて…私は本気なのに。

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