第4話/果てないステラ
今の時代、簡単に作られては消えていくアイドルグループ。一度も日の目を浴びず、解散するアイドルグループが沢山ある。
【当たれば儲けもの】
何で、こんなにもアイドルが乱雑しているのか考えた時、思い浮かんだ言葉だ。
確実なんてない。だから、宝くじを買うみたいに当たったらいいな感覚で作られる。
みんな、本気でアイドルになりたいのに当たりかハズレがある二分の一の世界。
何でこんなにも残酷なのに光り輝くのだろう。憧れて…それでも諦めきれない。
梨乃のグループ卒業宣言に涙が止まらない。大事な戦友を失うのがキツくて、ギリギリのラインで踏ん張っていた気持ちが雪崩のように崩れていく。
「みのり…ほら、涙拭こう」
「梨乃のバカ…」
梨乃がティッシュで私の目元を拭き、抱きしめてくる。「ごめんね…」なんて何度言われても私は受け入れられないのに。
「いつか、武道館でライブしてみたかったけど、あまりにも武道館が遠かったよ…凄く遠かった。悔しいな…」
「梨乃まで…泣いてるじゃん」
「泣いてないもん…」
私と梨乃はメジャーデビューをしたら、武道館でライブをしたいねって話し合っていた。
武道館の収容人数14,471人。私達が歌っているライブハウスは200人だから凄い数だ。
私達のライブは毎回満員になるわけではないし、少ない時は30人いればいい方で一万人越えのファンなんて遥か彼方だ。
それでもいつかメジャーデビューをしたら、武道館でライブをできると信じていた。
現実が厳しい。数字は目に見えるから喜びをくれたり残酷な気持ちにさせる。
私のSNSのフォロワー数は1026人。この数字はアイドルとしての価値を表す数字だ。
センターの美香は2400人ぐらいで、私と美香は何が違うのかな?年齢?キャラ?歌唱力は私が勝ってるし、見た目も遜色ない。
でも、私は美香には勝てない。誰か教えてほしい。私の何がダメなのかを。
考えると胃がギュと締め付けられ、吐き気がする。やっとなれたアイドルなのに、アイドルになった後が一番辛い。
「みのりはまだ頑張るの?」
「頑張るよ…だって、アイドルになりたくてやっとなれたから」
梨乃の肩が私の涙で濡れていく。めちゃくちゃ悔しくて、掴んだ夢が遠すぎて悲しい。
もしかしたら意固地になっているだけなのかもしれないけど、簡単に諦められる夢ならアイドルを目指していない。
「梨乃、どうやったら売れるかな…」
「まずはメジャーデビューじゃない…?」
「だよね。手売りじゃなくて、ショップで買えるCDを出したいな」
私達は抱きしめ合いながら慰めあう。夜中の12時を越え、疲れもピークのはずなのに私達はまだ眠らない。積もる話がありすぎる。
「グループを卒業して、大学生になったらカッコいい彼氏ができるかな」
「梨乃だったらすぐに出来るよ」
「だったらいいな。一度も付き合った事ないからドキドキする」
「嘘⁉︎マジで?」
「何だよー、悪いかよー」
梨乃の意外な発言に涙が止まる。梨乃はお世辞抜きで本気で可愛いし、勝手に高校時代に彼氏がいたと思っていた。
ただ…雰囲気が少しだけ暗い印象だ。でも、ダンスは一番上手いし、私は梨乃が纏う儚い感じが好きだった。
同じグループの美香は身長が低く、あざとい可愛さが売りで、由香里は胸が大きく色気があり、私は…何だろう?歌には自信があるけど披露する場所がなければ意味がない。
私はCLOVERのアイドルで、リーダーで、チームカラーは黄色で19歳で…それだけだ。
「梨乃、彼氏が出来ても私と遊んでね…」
「当たり前でしょ」
「寂しいー!」
「こら、重いー」
駄々っ子のように梨乃を強く抱きしめ駄々を捏ねる。きっと梨乃がグループを卒業したら、こうやって戯れ合うことが減る。
梨乃は充実した大学生ライフを満喫し、そのうち彼氏ができて私を忘れる。
「みのり、痛いよ」
「梨乃1人だけ幸せになるなんてずるいー」
「みのりは彼氏作らないの?」
「作らないよ。面倒いもん」
アイドルファンでもある私はこれまで《自分は大丈夫》《多分バレない》って考えで自滅していくアイドルを散々見てきた。
トップアイドルでも写真を撮られたり、彼バレしたらおしまいだ。人気は積み上げて得るものだけど、落ちるのは一瞬なのだ。
それほどまでアイドルの恋愛事情は厳しい。メジャーデビューしてないアイドルだったらバレても問題ないって思うかもしれない。
変わらないよ、ファンにバレたらおしまい。逆にもっとシビアで奈落の底に落ちていく。
それに、地下アイドルだから簡単に付き合えるって思っている馬鹿な人もいるし、だからこそ恋愛には慎重にならないといけない。
地下はコアなファンは多いからこそ、失ったら二度と戻って来ない。消滅するだけだ。
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