第3話

 宙舟は驚くスピードで空を進行していた。


「トモル、ちょっと速いよ」

「ごめん、急いでいるんだ」

 

 つかまってと腰に手を当てさせて、トモルは麻のシャツを掴ませた。


「ふふ、良い匂い」


 それはトモルの生まれ故郷の香りがした。


「クリセンマムまであとどのくらい?」

「ああ、もう少し」


 トモルはロープを操って帆の向きを変えた。舟は一気に傾いた。


「落ちる、落ちるってば」

「大丈夫、僕につかまってれば」


 ミチルはトモルの腰をぎゅっと抱いた。閉じた目をうっすら開けると宙船が星のように点々と堤防に留まっているのが見えた。みるみると広がる広大な砂漠。高くそびえる砂の塔。これはかってミチルが夢見た砂の国。宙舟の舟乗り達が生活する古代から伝わる大国。


「あれがクリセンマム!」

「ああ、そうだよミチル。ミチルのことは昔からみんなに伝えている」

「えーなんかくすぐったい」


 トモルは急に真剣な顔になった。


「ミチル、約束は覚えているかい、大きくなったらクリセンマムの后妃にさせるって。あれ嘘じゃないからな」

「・・・・・・うん」


 舟はクリセンマムに滑るように着陸した。


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