燃費最悪の外れスキル【時空剣】のせいで追放された俺、燃費問題を解決して最強となる。戻って来ていいと言われるがもう遅い。

ファンタスティック小説家

幻想の親友



「伝説に唄われるユニークスキル、さあ、そのチカラを、ここに見せてください」


 ざわめきたつ神殿がピタッと静寂に落ちる。


 聞き入る聴衆のなかには、この国で一番強く、美しい『英雄の家系』の″レイ″がいる。


 俺と同い年なのにすでにこの国で1番の剣技を会得しており、その圧倒的な強さと可憐さは、俺の代の男子すべての憧れだ。


 俺は彼女に憧れている。

 彼女と仲良くなりたいんだ。


 懇意になるには『英雄の家系』の掟に従って、彼女より強くあらねばならない。


 しかし、これぞ高嶺の花というやつだ。

 あまりにも立場も実力も違いすぎる。


 田舎の村の、ハナタレ小僧の俺には、まるっきり希望などありはしない。


 本来なら──。


「さあ、ユニークスキルに秘められた力を見せてください」


 女神は言う。


 俺はレイを見据える。

 向こうもパチパチと瞬きを繰り返して、こちらを見つめかえしてくれている。


 チャンスを掴んだんだ。


 俺は張り裂けそうなほどにバクバクと高鳴る鼓動に従い、自らの内へと語りかけた。


 我がスキル【時空剣】よ。

 時間と空間を紡ぎ、幻想の刃を顕現させよ──。




 次の瞬間、俺は治癒院のベッドで目が覚めた。


 丸一日眠っていたようだった。

 人伝に昨日、何があったかを知る。


 俺は魔力欠乏症でぶっ倒れたらしい。

 スキルは不発に終わり、レイには「倒れた子」として、少し顔を覚えられたとか。


 控えめに言って死にたい気分になった。


 ──1ヶ月後


「落ち込むなよ、アイガ。俺たちは親友だろ」


 そう言って俺の肩に手を置くのはスミヌスだ。

 スミヌスは共に有名な冒険者になることを志して、大都会モーリアへ出てきた仲間だ。


「でも、俺、結局、あれから一度もスキル使えてないんだ……こんなんじゃ、レイを倒して、お嫁にもらうなんて出来るわけない!」

「大丈夫だって、いつかは使えるさ。ユニークスキルってS級スキルより珍しいんだろ? 規格外すぎてイメージ湧かねえけど、たぶん他のスキルとは仕様が違うんだろう」


 スミヌスは指を弾いて、手のなかに炎を作り出す。


「お前がレイ姫様と仲良くなるまで、このA級スキルホルダーのスミヌス様と、マリンで面倒見てやっから、いっしょに頑張ろうぜ!」

「スミヌス……」


 スミヌスはエリート志向が強く、少しでも良い経歴を積み重ねようとしている。


 初っ端から出遅れてしまったのに、スミヌスは俺を見捨てないでくれると言う。


 なんてありがたいのだろう。


「この最強のスキルを使いこなせる日までは、スミヌスの世話になるよ。約束だからな?」

「冒険者になっても、大人になっても、俺たちは一緒だ。男に二言はねえって!」


 指切りをして、固く誓い合う俺たちのもとへ、ちょうどマリンがやってくる。手には見習い冒険者申請承諾書をもっている。


 ギルドの規約では、冒険見習いが最低10歳、正式な冒険者が最低14歳。


 本格的なスタートまで、まだ4年はある。

 

 俺はただ今出来ることを、ひとつずう積みあげていこうと思った。


 ──4年後


 あの誓いの日から時間が経った。


 ジュニアクエストを終え、呼び出された俺は、スミヌスに「少し歩いて、お前と話がしたい」と言われ、夜のモーリアを歩きながら、昔話に花を咲かせていた。


 故郷の事。

 マリンが最近美人になってきたこと。


 いろいろ話した。

 されど、結局、話は″例のこと″へと移っていく。


「それで、どうなんだ、アイガ。スキルの調子は」

「……あと少し時間がかかる」


 星空のよく見えるモーリア郊外の崖の上。

 俺たちが4年間よく来た場所だ。


 気まずい空気が流れる。


「あと少し、あと少し……なあ、アイガ、もう1週間後には俺たち冒険者になるんだぜ?」

「わかってる。だけど、本当にあと少しなはずなんだ」

「何がだ? 何があと少しなんだ? お前が【時空剣】を使えるまでか? その保証がどこにあんだよ」

「スミヌスに保証する事はできない、俺の″サポーター″との契約なんだ……っ。でも、スキルが使えなくても、誰よりも剣術を鍛えてきた。同年代だったら、俺より優れた剣士はいない」

「だからなんだよ?」

「だから、俺はスキルが使えなくたって活躍──」

「馬鹿じゃねーんだから、やめてくれよ、マジで」


 スミヌスは小石を蹴って、崖下に落とす。

 突き放すような声音に、俺は二の句を繋げない。


「著名な冒険者、騎士、英雄。彼らの中に無能力者がどれだけいる? ゼロ。ゼロだよ! ユニークスキル使えないじゃ、お前を仲間に入れてる意味ねーじゃねえかよ」

「っ、だから、スキルはあと少しで──」

「はあ……てか、もう新しいパーティメンバーを迎え入れてんだよ」


 なんだその身勝手は?

 勝手にメンバー入れて、俺を除名?


「……相棒だって、言ったじゃねえかよ」


 震える声で、絞りだす。


「あ? 現実的に考えろ。俺はA級スキルホルダー。お前はただの雑魚。てか、スキル使えない時点でD級スキルホルダー以下じゃね」

「スキル無い分、税の申告も、備品管理も、クエストの段取りだって付けてきたろ……」

「それで埋め合わせしたとでも? 何もできないやつは、誰でもできる仕事してればいいんだもんなぁ、あーあ、楽でいいなー」


 スミヌスは薄ら笑いしながらそう言い、話は終わりだとばかりに歩き去る。


 もう我慢できなかった。

 怒りをぶつけてやろと振り返る。


 瞬間、目の前に、紅炎が膨れあがる、

 スミヌスの【紅】の火炎だ。


 崖側にいた俺は、不意打ちを避ける選択肢すらなく、崖ごと爆炎に呑まれてしまう。


「身内切りは俺の株が下がるかもしれん。俺の為に、ここで死んでくれよ──親友」


 バカにして見下すその瞳を、最後まで力一杯に睨みつけながら俺は落ちていった。

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