4-7:幕間-従者-

今朝掃き清めた玄関を土足で踏み荒らしているのは、物々しい甲冑の二人組。片方は徒手に軽装、もう一方は大盾をもつ重装備。尖塔めいた奇妙な騎士兜が、じっとこちらを見据えている。纏う純白の外套は、ライティア様からの返り血で赤黒く染まっていた。


一目で分かる。襲撃者だ。

スカート下のホルスターから二丁のデリンジャーを抜き、そのまま前に躍り出る。

魔力を込める。抜き打ち二発。

しかし放たれた銃弾を軽装はひらりと避け、そのまま私の頭上を飛び越えていく。

───抜かれた。反射的に追い縋ろうとするも、眼前の重装騎士の存在がそれを阻む。

勝てない。一瞬でそう思わせる程に、その重装騎士は強大であった。ライティア様からの傷も相当なものであろうが、それでも私程度では、足止めにもならないだろう。

重装騎士が、両手に携えた盾を振りかぶる。鉄の壁が迫ってくるような威圧感。

並みの刃ならまだしも、格上の一撃。鍛えた体術も空しく、私の身体はエントランスホールの壁に叩きつけられた。

鈍い音と、付随する違和感。口からは鉄錆の異臭。致命傷こそ避けられたが、既に満身創痍だ。構わず、銃弾を撃ち込む。狙うは鎧の隙間。急所。

確かな手応えこそあるが、地力が違いすぎる。重装騎士は確かな足取りのまま、私を壁に縫い付ける。壁と盾とに挟まれ、骨の軋む音がどこか遠くに聞こえる。

本来ならとうに失っている筈の意識を、無理やりに繋ぎ止める。意識を保ち生き長らえる術は、オーウェン様よりご教示頂いた。私の命など、元よりどうでもよいからだ。遅かれ早かれ、なくなるのだから。

死の足音を打ち消すかのように、撃鉄の音を響かせる。重装騎士は未だ、表情のない兜をこちらに向けている。


音が響く。

肉が潰れる音。

骨が砕ける音。

手から銃がこぼれる音。

身体が地面とぶつかる音。

重装騎士が遠ざかる音。


追う。

追う。

追わないと。

ぐぐ、と。首を起こす。

首の骨は、まだ繋がっていたようだった。

しかし。

しかし背骨は、もうどこにあるかすら分からなかった。


―――彼は、逃げられただろうか。

遠のく意識の中、心から、そう思う。

“私”を慮ってくれた彼に、最期のお別れが言えて、本当に良かった。

望まぬ死の淵に、私は。

そんなことを、思ってしまった。

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