JK さくら

「どうした? どうした?

さくらちゃん」


幼馴染のさくらちゃんとあたしは

毎朝一緒に通学している。


「また

よく寝られなかったの?」


今朝も随分と顔色が悪い。


いつものことなのだけれど、

心配になってしまう。


「……ううん、大丈夫

心配かけて、ごめんね」


「何、また、出て来たの?

……お化け?」


「……お化けじゃあないかなぁ


……ここ最近、毎晩

霊が出るんだよね」


「見える体質の人って、

ホント大変だよね」


「最近、特に

霊感強くなって来てるみたいで……」


さくらちゃんとの朝の会話はだいたい

いつもこんな感じではじまる。



さくらちゃんは小さい頃から

霊感が強かったようで、


昔から、二人で遊んでいる時なんかに

『誰か居る』とか『何か居る』とか、

よく口走っていた。


あたしには全く霊感が無いらしく、

さくらちゃんにだけ

何が見えているんだろうと、

不思議で仕方がなかったのを覚えている。



「私、何かに

取り憑かれているのかも……


あまり私と一緒に

いない方がいいかもよ?」


最近ではさくらちゃん本人が、

自分自身を気味悪いと思いはじめている。


「何言ってるのっ!? さくらちゃんっ!


あたし達は幼馴染みじゃないっ!?

お婆ちゃんになるまでズッ友だよっ!」


目に涙を溜めて、

さくらちゃんは言葉を詰まらせた。


「……でも、でも、

あたしの側にいると、

死んじゃうかもよ?」



さくらちゃんは

身近な人々を失って来た。


それも、一人や二人ではない。


さくらちゃんはそれを

自分のせいだと思い込んで、

ずっと自分を責め続けていた。


聞いた話によれば、

さくらちゃんが暴漢に襲われて、

みんなそれを庇うようにして

死んでいるらしい。


襲って来た暴漢も、

庇った人が息耐えるとほぼ同時に

死んでしまうと言う。


確かに

そんなことが本当にあったのなら、

自分自身が気味悪くなっても

仕方がないのかもしれない。



「そんなことないよっ!


あたしは絶対死なないからっ!


さくらちゃんに

そんな悲しい思いとか

絶対にさせないからっ!」


怖いという気持ちよりも、

さくらちゃんの悲しむ顔を見たくない、

その気持ちの方が遥かに強い。



あたしはレズとかではないが、

正直さくらちゃんのことを

愛していると思う。


小さい頃からずっと、いつも

さくらちゃんのことばかり考えていた。


ずっとさくらちゃんと一緒に居たい、

さくらちゃんに笑顔でいて欲しい、

そんなことばかりを……。



学校からの帰り道。


その日は朝からずっと

雨が降っていて、

なんだか憂鬱な気分だった。


雨の匂いがあたしには

どうも好きになれない。


あたしはさくらちゃんと二人で、

屋根が付いたバス停の下、

バスが来るのをずっと待っている。


「バス、遅いね」


「うん、雨で遅れてるんだろうね」



雨の中を傘をさして歩いている

中年のおじさん。


あたしには直感で分かった。


体が勝手に動いて、気づくと、

あたしは覆い被さるようにして

さくらちゃんを庇っていた。


あたしの背中は

刃物でばっさりと切り裂かれ、

血飛沫を上げている。


「いっ、いやぁっ!!」


さくらちゃんの悲鳴。



「さくらちゃん、逃げてっ!!」


あたしは振り返って、

目を赤く光らせる中年おじさんに

立ち向かって行く。


背中は激痛に包まれ、

まるで燃えているかのように熱い。


それでも何故か、体は動き続ける。


何か強靭な意思が

あたしを突き動かしているかのようだ。


あたしはおじさんと揉み合いの末、

刃物を奪うとおじさんを刺した。


なんの躊躇いも無く、

さも当然であるかのように。



さくらちゃんの泣き叫ぶ声が

遠くで聞こえる。


うつ伏せになって倒れ、

雨に打たれながら、

血を流し続けているあたし。


横には、動かなくなった

中年のおじさんが倒れている。



さくらちゃん、ごめんね……

約束、守れそうにないや……


あたしが何をやるべきか、

思い出してしまったから……


自分が何者で、

何故ここに居たのかを。


…………


この、死ぬ直前に

やっと魂の記憶を取り戻すシステムは

なんとかならねえのか?


しかも今度はまさかの、

性転換転生だったとはな……

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