7 スライムゼリーと創薬ギルド

 無職ノービスレベル3になったジンは更にスライム討伐を繰り返し、日が傾いてきた段階で切り上げた。


 結果、討伐総数はスライム45匹。ランダムドロップはレベルアップ時の1個だけだったがジンは落胆していない。もともと簡単に出るものではないと分かっているからだ。



 ハクタの町に戻ると露店はすっかり片付いており、軒先にはちらほらとかがり火がついている。かがり火の燃料には上質な木を使っているのか、煙や不快なにおいは少ない。


 ジンは意外な技術レベルの高さに感心しながら、冒険者ギルドの扉を開ける。受付には待っていたかのようにマゼンタがこちらを見つめていた。


 なんだかこっぱずかしい気持ちになりながらもジンは受付に向かう。


「ああよかった……夕方になってもジンさんが帰ってこないんですもん。凶暴な魔物にでも襲われたんじゃないかって本当に心配したんですからね」


 カウンターに着くなりマゼンタからはこう声をかけられた。心底安堵しているようだった。


「心配させて申し訳ない。今日のお金を稼ごうと戦っていたら思いのほか魔物が多くて、レベルも上がって楽しくなってつい……」


「私はこの先のジンさんが心配です。戦いすぎてそのまま帰ってこない方もいらっしゃるんですから、慎重にお願いします」


「わ、分かった、気を付ける」


 ジンとしてはまだ回復手段が残っているのだから問題はない、という考えなのだが現実はそうではないのだろう。


「ただ、一文無しの俺には宵越しの銭が必要だったからな……こいつらの買取を頼む」


 そう言ってジンは、背負った麻袋をカウンターの上におろした。中に入った45個のスライムの核がごろごろ転がる音を立てる。


「素材の買取カウンターは隣なのでそっちにお願いします……それにしても、これ全部スライムの核ですか?」


「ああそうだが、何か問題でもあったか?」


「……ジンさんって本当に無職ノービスなんです?」


 ジト目でこちらを見られた。確かに初日で頑張りすぎたかもしれないがそこまで問題だろうか。


「も、もちろんだ。わざわざ嘘を言う必要はないだろう」


「そうなんですけど……無職ノービスの方でここまで沢山の魔物素材を持ってきた方は初めてで、正直信じられなくて」


「失敬な。早く武器が欲しいだけだよ」


 ジンはそうマゼンタに笑いかけながら右横の買取カウンターに素材を持っていく。幸いにも待ちは無かったようですぐに対応をしてくれることになった。


「初めまして、買取カウンター担当のシアンです。よろしくお願いします」


 なんとなく素材買取は男性、みたいなイメージがあったのだがこちらも受付は女性だ。名前通りの青色の服を身につけている。


「横で話は聞いていましたが、無職ノービスの方なんですね。袋の中の音を聞く限りかなりの数のスライムの核があると思いますが、数は覚えていらっしゃいますか?」


「45個だ。全て買取はできるんだよな?」


「それぞれの質の把握はさせていただきますが、全て買取になるかと思います。それにしても本当に無職ノービスの方とは思えない討伐数ですね……最近はスライムの核も需要が高まっていますからありがたいのですが」


「……ところでなんだが、スライムの核って何に使うんだ?」


 おや、とシアンは少し驚いた後、納得したように2度うなずいた。


「やっぱりマゼンタちゃんの言った通り、知識に関してはかなり足りない、と言ったところですか……質問にお答えしますと、スライムの核には主に2種類の使い道があります。状態の悪いものは松明やかがり火を長持ちさせるための燃料、状態の良いものは浄水です」


 なるほど、とジンは思った。


 確かにスライムの身体は色こそついているものの透明な水でできている。魔物がどうやって産まれるのかはわからないが、そのような性質はありそうだ。


 加えて燃料というのも納得がいく。スライムたちは知能が低いとはいえ、敵のいる方向はハッキリとわかるし、最初の群れの戦闘時に見せた隙潰しの連携も行ってくることから低すぎるわけではない。

 それ相応のエネルギーが溜まっているのだろう。


「あ、そうそう」


 と、ジンは瓶詰めのスライムゼリーを取り出してシアンに差し出した。


「こいつはいくらになる?」


 かなり期待はできるが果たして。


「これはスライムゼリーですか。ラッキーですね、おめでとうございます。……ですがこの手のアイテムに関しては冒険者ギルドではなく、創薬ギルドに買取をお願いした方が良いでしょう」


「創薬ギルド?」


「はい。回復薬や毒消しをはじめとした各種回復アイテムの研究を行っている組織です。そこでしたらスライムゼリーなどの魔物が落とす回復アイテムを高く買取ってくださいます。冒険者ギルドでも買取はしておりますが、世界中で価格が統一されていますので決して高くはないですから」


(創薬ギルド、か。EWOには存在しなかったが、薬の合成レシピ、あるいは錬金レシピの研究機関といったところか?)


 ジンはそう考察を立てる。


 EWOにおいては魔物が落とすアイテムは各種素材にはなったものの、魔物素材を合成・錬金で作り出すことは不可能だった。もし可能になればEWOゲーム以上に可能性が広がっていることになる。


 極端な例だが、ボスが稀に落とすような超レアドロップでも作り出すことができるかもしれない。


「回復アイテムの研究か、それは夢があるな。じゃあその創薬ギルドはどこにあるんだ?」


「冒険者ギルドを出た通りを左に行った突き当りにあります。ギルド章は中身のない回復薬の瓶で、建物も大きいため間違えることはないと思います。買取担当としては、スライムの核の鑑定に時間を頂きたいので、先に創薬ギルドに行って頂けると助かります」


「わかった、じゃあ先に創薬ギルドに行ってこよう」


 ありがとうございます、とシアンはジンにお礼を言い麻袋を受け取った。

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