第47話 夕食どき

「もーっ、2人とも戻ってくるの遅いっす! お腹ペコペコっすよ!」


 荷物だけ自室に置いて、由香里と2人で食堂へと入ると、6人用の座席の一角に座った桜が、フォークとスプーンを両手に持ちながら、文句を言ってきた。


「ごめん、遅くなった」


「ごめんね、桜ちゃん」


 そう言って俺たちが謝罪すると、桜がポリポリと頬をかいた。


「あー……そんなに素直に謝られると、ちょっと反応に困るっす。えっと、待ってるから、2人ともゆっくりメニュー選んでくると良いっすよ」


 照れ臭そうに桜がそう言ったので、詩音と真司の方も確認すると、頷き返された。


「んじゃ、急いで料理とってくるわ」


 そう言って、俺はハンバーグ定食の大盛りを、由香里は同じメニューのご飯少なめを注文し、みんなの元へと戻る。


「それでは、お腹もすきましたし、まずはいただきましょうか?」


 そう詩音が言ったので、皆で手を合わせて「いただきます!」と声を上げると各々の料理を食べ始めた。


 真司はカツ丼大盛り、桜はミートソース、そして詩音は肉野菜炒めの大盛りを食べている。


 真司は基本的に丼ものを食べてることが多く、俺も心惹かれるのだが……あまり偏食ばかりしていると、由香里にお小言を言われるので、1週間の中である程度食事のバランスをとっていた。


 夜遅くになっていたせいもあり、珍しく皆が黙々と食べ進めていた所、ふと真司がご飯をかき込んでいた手を止めて、口を開く。


「坂崎さんって見た目に反して、他の女子よりよくメシ食うよな」


 真司がそう言った瞬間、カキンと空気が凍った気がする。

 

 主に、由香里と桜からの冷たい視線によって。


「浅野君? ちょーっと、今のは私どうかと思うな?」


「はぁ、これだから浅野っちは……マジで無いっす」


 2人から冷たい声でそう言われた真司が、途端にオロオロしだし……助けを求めるように俺の方を向いた。


「い、いやだって……海人だってそう思うよな?」


 ――いや、俺の事を巻き込むなよ!


 思わずそう叫びそうになったところで、真っ赤になって震えながら俯いていた詩音と、視線が合う。


 ――そんな目で見ないでくれ!


「い、いやぁ、俺は元気に食べる女の子も良いと思うな……詩音とか、部活もしてるんだしさ」


「あっ、お前、裏切ったな!」


 そんな事を真司が騒ぎ立て始めるが、悪いがこの件は庇い立て出来ない。


 ギャアギャアと、真司が2人から文句を言われている横で、詩音が真剣な目で横に座る俺の方を向いてきた。


「……その、やっぱり海人さんは、ご飯をたくさん食べる様な女性は嫌ですか?」


 少し上目遣いに……僅かに潤んでいるその瞳に見つめられたせいで、顔が熱くなってくるのを感じ、そっと目を逸らす。


「いや、さっきも言った様に俺は全然良いと思うよ。むしろ、詩音さんは細すぎるから、もう少し食べても良いと思う」


 早口になりながら、そうまくし立てると、俺同様目を逸らした詩音が、蚊の鳴く様な小声で「ありがとうございます」と言った。


「あーっ、岩崎っちが詩音っちをたぶらかしてる!」


「……海人君? 私達が浅野君を教育している間に、何をしてるのかな?」


 俺と詩音がなんとも言えない空気で沈黙していると、それまで真司の方に矛先を向けていた2人が、今度は俺の方へと向けてきた。


「いや、別に何もして無いって。皆早く食わないと、飯冷めちまうぞ!」


「あー、海人君いま絶対話題そらした!」


 そんな風にして、俺達の夕食は騒がしい中で幕を閉じていった。



 夕食を食べ終わった後、就寝時間までの間に桜の調査結果を聞くことになり、俺と真司の2人は桜達が部屋からパソコンを取ってくるまでの間、ロビーに置いてあるソファーでくつろいでいた。


「あー、酷い目にあったわ……」


「いや、アレは自業自得だろ……」


「そうは言うけどさ、俺は別に悪気があったわけじゃねぇっての」


 グデーっとソファーの前にある机に倒れ込んだ真司に、思わず苦笑する。


「いやいや、悪気があるかどうかじゃ無くて、女子にあの言動はどうかと思うぞ……」


「そうか? でも、んなこと言ったって、俺の周りには女なんてアイツ――桜くらいしか居なかったしなぁ……」


 そんなしょうもない会話を男2人でしていると、パソコンを手にした桜と、由香里達がやってくるのが見えたので、3人に向けて手を振った。

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