第74話 二人の帰還者
~ マーカスとヴィルフォランド―ル ~
「まさか、またこの大陸に足を下す日がくるなんてな……」
サマワール帝国の西端にある都市ニルフレームは大陸随一の港湾都市だ。フィルモサーナとゴンドワルナ大陸間に航路を有する唯一の都市でもある。
船から降り立った二人の影。一人は人間の男で、ラフに着こなしたシャツの下には屈強な筋肉が見え隠れしており、立ち振る舞いからも一流の戦士であることが分かる。
もう一人は白狼族の亜人だ。少年の銀色の美しい髪の上には獣の耳が乗っている。見るもの全てが物珍しいようで、キョロキョロと周囲に目を奪われ続けていた。
「これがゴンドワルナ大陸かぁ、めっちゃくちゃ大きいんだよな、おっちゃん!」
白狼族の少年が興奮気味に問いかける。
「姉ちゃんを探してるヴィルにとっちゃ、そりゃ大きいだろうな。だが、俺にとっちゃ狭い世界だったよ」
「マーカス・ロイド男爵様とお連れ様、馬車の準備ができました。ホテルまでお送りいたしますので、どうぞこちらへ」
執事服の男性がヴィルとマーカスを馬車へと案内する。
「ヴィル、とりあえず今日はうめぇもんを一杯喰って、この街を見学するとしようぜ! 主に夜の街をな!」
「わかったぜ、おっちゃん! そうやって姉ちゃんの情報を探っていくんだな!」
「おうよ!」
二人は滞在先のホテルで夕食を済ませると、夜の街へと繰り出していった。
――――――
―――
―
「このカワイイ坊やがお姉さんを探しているの? まだこんな子どもなのに……」
娼館通りにある高級な飲み屋では、美女たちに囲まれたマーカスとヴィルは「情報収集」をしていた。
「ハッ! こいつがガキだって!? おめぇ、まだ男を知らないのか? このヴィルはゴブリン共をウサギのように屠る一人前の戦士だし、都条例違反の男なんだよ。向こうじゃ、女を二人を毎日毎日とっかえひっかえやってだなぁ」
「なっ! おっちゃんだってもっと凄いことしてたろ! ところかまわずまぐわうなって兄ちゃんに何度も怒られてたじゃないか!」
二人を取り囲む美女たちが一瞬固まる。
「トジョウレイの男? トジョウレイって凄いの?」
でっかいおっぱい美女がマーカスに腕を絡ませて興味深そうに聞いた。
「あぁ、こいつの兄貴分が言うにはヴィルは都条例違反のとんでもねぇ男だって褒めてたぜ。都条例違反ってのが俺にはよくわからんが、あいつが言うなら間違いねぇ。ヴィルは女相手でもとんでもねぇ男なんだよ」
マーカスが熱く語るのを聞いて、ヴィルの両隣に座っていた美女たちがヴィルにその豊満な胸を押し付ける。
「そうなんだぁ。わたしもトジョウレイしてみたいな」
ヴィルは思わずゴクリと唾を呑み込む。
「お、おっちゃんだって兄ちゃんから都条例違反だって何度も言われてただろ! だから、おっちゃんだって凄いんだよ!」
そうヴィルが主張するのを聞いたマーカスの両隣に座っている美女たちが、マーカスの太ももに指を走らせながら、
「トジョウレイ……して欲しいな」
とマーカスの耳元に囁きかける。
「そ、それじゃヴィル、そろそろ個別に『情報収集』するか」
「そうだね。おっちゃん、また後で……」
マーカスとヴィルは、それぞれ両手に華のような美女を抱え、情報収集のための別室へと消えて行った。
――――――
―――
―
翌朝。
「よう、ヴィル。何かわかったか?」
ホテルのレストランで朝食を取りながら、マーカスがヴィルに尋ねた。
「き、気持ちよかったぁ~。この大陸の女の人ってみんなあんな凄いの?」
ヴィルがまだ寝ぼけた様子で答える。
「そうでもねぇよ。ただ俺たちが大金を持ってるから楽しめたってだけの話だ。というか、そんな話じゃねーよ! おめぇの姉ちゃんのことだろうが! 何か新しい情報は聞けたのかって言ってんだよ!」
「えっ!?」
ヴィルが呆けた顔をマーカスに向ける。
「えっ? じゃねーよ! お前、まさか女とただ遊んでただけだったのかよ!?」
「えっ……えっ?」
マーカスは思わず頭を抱えた。
「お前、姉ちゃんと昨日の女たちを並べたら、女の方を取りそうだな」
「両方取るに決まってるだろ!」
「おっ、おう。そいつは偉い? 偉いのか?」
「だから! それはそれ! これはこれ!」
「いやまて! なら、なんで姉ちゃんの話を聞けてねーんだよ!」
「……今から聞いて来る」
ヴィルはホテルを走って出て行った。
そしてすぐに戻ってきた。
「お店の人が、今晩また改めてお越しください……だって」
「まぁ、そうだろうな」
ヴィルの耳がシュンと垂れる。
「店のやつの言う通り、また今晩出掛けりゃいいじゃねーか。俺の方はちょっとした情報を掴んだぜ」
「ほんと! さすがおっちゃん!」
「おお、もっと褒めろ! この港に運ばれてきた亜人の奴隷の多くがボルヤーグで売り払われるって話だ。あと白狼族の子どもの奴隷ってのは珍しいらしいから、大きな奴隷商会で扱ってたとしたら記録が残ってるかもしれねえってさ」
「おぉ! すげぇ! すげぇよ! おっちゃん!」
ヴィルの顔に涙が溢れる。マーカスと出会った頃のヴィルには姉を探そうにも手掛かりが一切なかった。がむしゃらに旅を続けるうちに奴隷商に売られ、同じく奴隷にされていたマーカスと出会ったのだ。
その後、ヴィルが兄貴と慕う少年が二人を奴隷から解放してくれた、その少年はヴィルとマーカスに大金を持たせて姉を探す旅に送り出してくれたのだ。
そこからはトントン拍子に事が進んでいった。命を危険にさらすようなことが何度もあったけれど、姉に届く手掛かりを今は掴むことができているのだ。
「うぉぉぉん! 兄ちゃん! おっちゃん! ほんどにありがどぉぉ」
ヴィルが大泣きを始めるのを見て、マーカスが呆れ顔で答える。
「泣くのはまだ早ぇだろうが! アホ!……とはいえ」
マーカスが朝食のエールを仰ぐように呑む。
「あの坊主には本当に感謝しなきゃだな……」
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