第4話「あんがんがー」


(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>



■4話「あんがんがー」


●2

 放課後、第二音楽室。

マキミキ「なんなのあのクソ女!」

 さきほどの教室で侮辱されたことに怒りに震えている。

マキミキ「ひとのことを「オトコ経験多そう」とか聞こえよがしに!」

マキミキ「陰口なら聞こえないように言えっての!」

 とイスを蹴倒す。

(ガン!)

(バタン!)

 倒れたイスにビクッとして、ギターを抱きかかえるまれ。


●3

マキミキ「あ、まれちゃん、ごめん…」

 とハッとする。

インチョー「……」

 ピアノの前に座り、無表情に視線を落としている。

 イライラしていた自分を自己嫌悪しつつイスを起す。

マキミキ「あー、もうやだやだ」

マキミキ「オンナってすぐプリプリ怒るよなぁ~」

マキミキ「ま、アタシの事だけど!」

インチョー「マキミキは我慢強いわよ。教室中に聞こえるようにあんなこと言われたら怒って当たり前だと思う」

 と毅然と言い放つ。内心、インチョーも怒っている。


●4

まれ「そうだよ!」

まれ「怒ったときはね、あんがー! って叫ぶといいよ」

 ぽかんとするマキミキとインチョー。

 はあ? みたいな。

まれ「あんがんがーっ!」

 とクマの威嚇ポーズ的に。

まれ「って」

まれ「我慢しないで声に出すとスッキリするよ」

まれ「子供のときおばあちゃんに教わった」

 と、なぜかとくいげ。

●5

マキミキ「なにそれ」

 と思わず口元が緩んで笑う。

 吹きだすインチョー。

マキミキ「こいつ! かわいいなー!」

 と笑いながらまれと肩を組む。

まれ「え、本当だよ? アングリーだぞって」

 ちょっとテレて。

マキミキ「なに言ってんだ、おらー!」

マキミキ「おまえぱんつ脱がすぞー!」

 とふざけて笑いながら背後から両手をまれのスカートのスソに手を突っ込んでパンツに手をかける。ぱんつは見えない。

まれ「きゃあー! ぬがさないでー!」

まれ「インチョー助けてー!」

 と笑いながら防ごうとする。

(わー)

(がらがら)

チョコ「ちーす」

 と入ってくる。


●6

マキミキ「あんがー!!」

(バキッ)

 といきなりチョコをグーで殴る。

チョコ「いきなりグーとか、あんまりじゃないか…」

 と、尻もちつきながら涙ぐんでマキミキを見上げる。

マキミキ「チョコ…」

 と、力石のようにゆらりと見下ろして。

マキミキ「女子だけで楽しく和んでるとこに、当たり前のように入ってくんじゃないよ!」

チョコ「そろそろ受け入れてもらえませんか?」

 と哀れっぽく自分を指す。

 その後でコクコクとうなずくまれ。汗。マキミキの態度にはチョコに対して同情的なまれ。


●7

マキミキ「ウチらと友好関係築きたいなら、まず努力しろ!」

マキミキ「そして勝ってみろ!」

 バックに友情、努力、勝利、の文字。

インチョー「まだマキミキ機嫌悪い?」

まれ「ぶりかえした」

 と後で顔を見合わせている。

インチョー{でも良いストレス発散相手ってことか……}

 とクールに微笑。

チョコ「勝つって何の勝負だよ?」

マキミキ「そうねー」

マキミキ「あんたがブルーズ弾いてウチらに「すごい」って言わせたら」

マキミキ「っていうのはどう?」

 と座るためにイスを引く。

チョコ「ブルーズを……」

 と腕組みして目をつぶって考え込む。

マキミキ「てか、チョコはブルーズ全然知らないだろ?」

チョコ「クラプトンとかストーンズくらいは知ってるよ!」

チョコ{持ってないけど}

マキミキ「まあ、確かにそれもブルーズだけど」


●8

インチョー「そもそもブルーズって、アメリカ南部の黒人労働歌(フィールド・ハラー)やゴスペルみたいな、集団の掛け合いの音楽から生まれて」

インチョー「ギターの伴奏で、歌と楽器の掛け合いになったのね」

インチョー「歌の内容は、他愛もないことで」

インチョー「「今日の出来事で、ちょっと良かったこと」とか」

インチョー「「お金が欲しい」とか、「寂しい」とか」

 聞きながらイスに座るチョコ。

インチョー「「片思いの恋」とか」

 ちょっと意地悪にフッと笑う。

 ギクッとするチョコ。

マキミキ「「セックスのこと」とか」

チョコ「…セっ、セセセセセック!」

 真っ赤になって焦ってイスからずり落ちるチョコ。

マキミキ「童貞のお前にはまだ早いな」

 歯を見せてニーっと意地悪に笑う。

 しかしインチョー赤くなっている。まれはなぜか聞こえてないように平然。

インチョー(ごほん)


●9

チョコ「け、けど、俺、まれちゃんにブルーズ教わりたいのに」

チョコ「まず弾けるようになってみろ、っておかしくね?」

マキミキ「じゃあ、いま簡単なフレーズ教わってやってみなよ。それで真似できたらいいよ」

チョコ「あ、でも」

チョコ「まれちゃんが恥ずかしがって後向きじゃないと弾いているところ見せてもらえないから」

チョコ「どうやって弾いているのか見当つかないとこもあるんだよなあ」

チョコ「あの「ちゃらら・ららら・ららら・ららら・らーら」って奴かっこいいよね」

インチョー「3連スライドね」

まれ「ち、ちがうよチョコくん」

 と少しムキになって訂正。

チョコ「え?」


●10

まれ「「みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃーみゃん」だよ」

チョコ「あ、ああ?」

 と、一瞬戸惑い、

チョコ「うん、それそれ」

インチョー「あのブルーム調のリフは簡単だから、すぐ真似できるんじゃない?」

まれ「あと「ちゃんわっぱ みゃみゃん ぱんぱぱららんつぱん」とか「ちゃりこちんぷい」とか、よくやるよ」

チョコ「…え、それなに?」

マキミキ「まれちゃん語だよね…」

まれ「ギターがそう喋ってるように聴こえない?」

チョコ「え、そ、そう…かな?」

まれ「うん、じゃあ、よく聴いてて」

 と後ろ向きになる。

チョコ{やっぱ後ろ向きかよ…}


●11

(みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃーみゃん)

 スライドが滑る。

(っぎゃっくっぎゃっく)

(みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃーみゃん)

(みゃみゃーん)

 まれの集中している顔。デモーニッシュに。わずかに狂気を湛えた目。

■(大:印象深く)

 まれ、部屋の隅に向かってギターを弾いている背中。

 ロバートジョンソンのレコードジャケットのような。

http://www.amazon.co.jp/King-Delta-Blues-Singers-Reis/dp/B0002MHEK0

(ぎゃっくっぎゃっく ぎゃっくっぎゃっく ぎゃっくっぎゃっく ぎゃっくっ)

(みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃみゃみゃ みゃーみゃん)


●12

(ちゃりこちんぷい)

(ぴゅーんぴゅんみょーんみょみょん)

 チョコ、まれの音にしびれてゾクりと興奮している。

(ちゃりこちゃりこちゃりこ… ちゃりこ ちん・ぷいーん)

 弦を爪弾く右手。エンディング。

http://www.youtube.com/watch?v=Gt0Y0iapv-A&feature=related

http://www.youtube.com/watch?v=Cy37B5oHrjs&feature=related

 ↑この曲です。

まれ「ね? 言ってるでしょ?」

まれ「ちゃりこちんぷい って」

 と振り返る。


●13

チョコ「う、うーん…」

 頭に手をやって困り顔。

チョコ{聴き入っちゃったけど、相変わらずどう弾いてんのかは全然わかんない}

まれ「わかった?」

まれ「最初が「みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ・みゃーみゃん」ね」

まれ「それで裏で「ぎゃっくぎゃっくぎゃっくぎゃっく・ぎゃっくぎゃっくぎゃっくぎゃっく・ぎゃっくぎゃっくぎゃっくぎゃっく」ってやるの」

 と、不思議な踊りのようなジェスチャー。

チョコ「ごめん、難しい…」

 その後で同じような顔をしているマキミキとインチョー。

まれ「かんたんだよお!」

まれ「だから、親指で「ぎゃっくぎゃっく」して「みゃみゃみゃ・みゃみゃみゃ」はこっちの指で……」

 と不思議な踊り。


●14

まれ「それでそれで、「ちゃんわっぱ みゃみゃん ぱんぱぱららんつぱん」てゆうのは…」

 と不思議な踊りがどんどん大きくなっていく。

チョコ「長嶋茂雄みたいな感覚的な言葉よりスコアが欲しいかなー…」

 微妙な困り顔。汗。

 わいわいと興奮気味に伝えようとしているまれを見ながら、

インチョー「あの教え方じゃ無理でしょ?」

 とマキミキに。

マキミキ「うん、これはしょうがないわ」

 哀れむようにチョコを見ている。

まれ「もうっ、どうしてわかんないのっ!」

チョコ「あ、いや、ごめん」

 焦るチョコ。

まれ「あんがんがー!」

 とクマの威嚇ポーズ。

 怯むチョコ。

インチョー「あ、怒らせた」

マキミキ「まれちゃんこえー」

 全然怖く無さそう。


(おわり)

↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/61136652

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