第89話:準備と距離感
「ブルーノさん、何かいい事でもあったのですか」
ミュンが嬉しそうに話しかけてきた。
自覚はなかったのだが、俺は嬉しそうにしていたようだ。
俺が嬉しそうにしている事で、ミュンが嬉しそうにしてくれる。
こんなに幸福な事はない。
他者の幸福が自分喜びになるなど普通滅多にない事だ。
たとえそれが理想的な善人ミュンであろうとだ。
それにしても、正直自分でも意外だった。
コボルト族とオーク族を支援する事が俺の喜びになっているなんて。
自分がそんな善人だとは思ってもいなかった。
いや、決して善人ではないな。
コボルト族とオーク族なら率先して助けたいと思っているが、人族に関してはミュンを哀しませないために助けているだけだから。
「熱中できることが見つかったんだよ。
それが嬉しいのかもしれないね」
俺が今熱中している事、それは古代竜級ドッペルゲンガーを創り出すこと。
彼らが十二分に実力が発揮できるように、補充用の圧縮強化魔宝石を創ること。
自分では分かっていなかったが、俺は物造りが好きなようだ。
ベータとガンマが持ち帰って来た、古代竜級ドッペルゲンガー九体分と、補充用の圧縮強化魔宝石十体分を創ることに熱中していた。
だがそれだけではすまなかったのだ。
とりあえず新しい古代竜級ドッペルゲンガーを作るのは後回しにして、ベータとガンマの魔力を完全に満たした。
一体分の補充用圧縮強化魔宝石を創り出して魔力を充填した。
そして直ぐに、補充用の圧縮強化魔宝石を持ったベータに、全ての人族都市を周らせて空になった魔石・魔晶石・魔宝石を集めさせた。
ガンマには孤児院周辺にいる魔獣・魔蟲・竜種を手あたり次第狩らせた。
少しでも多くの魔石・魔晶石・魔宝石を集めたかったからだ。
それから五体目以降の古代竜級ドッペルゲンガー創りに集中した。
いや、したかったが駄目だった。
大魔境にいるアルファとデルタがとんでもなく早いペースで狩りをしてくれた。
コボルト族とオーク族も魔石と魔晶石を狩り集めてくれた。
それを補充用圧縮強化魔宝石にするのが忙しかったのだ。
「それはよかったです。
ブルーノさんが嬉しそうにしてくださっていると孤児院の雰囲気がよくなります。
ただあまり集中されてみんなの前に出られないと、子供達が寂しがります」
ミュンがそう言いながらほんのりと頬を赤めている。
俺と一緒にいたいと遠回しに言ってくれているのなら、これほど嬉しい事はない。
自分の身勝手な思い込みではないと思うのだが、どうなのだろうか。
少なくとも最近雰囲気がよくなっていたのは確かだ。
前世の恋愛小説やドラマのような激しい恋愛ではなく、何気なくいつも側にいて孤児達の世話を焼くと言った感じだった。
それがい世界の神のせいでとても忙しくなってしまった。
本当に迷惑な神だ。
何とか時間をやりくりしてミュンと一緒に孤児達を世話する時間を確保したい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます