第85話:六つ子かよ

 とてつもなく嫌な予感がしたが、憶病者にはよくあることだった。

 だが今回はその予感が的中してしまった。

 急いで古竜の群れの向かわせた一体目が発見したのは、コボルト族とオーク族のとても大きな群れだった。


 理由は全く分からないが、コボルト族とオーク族が力を合わせていた。

 最強の戦士達が後方を護って時間稼ぎをしようとしていた。

 若い戦士達が命を捨てて先方を受け持ち、撤退路を確保しようとしていた。

 この状況を見ては駆け引きなどできない。

 自分で駆けつける事はできないが、それ以外の事でやれることは全部やる。


 俺は二体目と三体目を転移させた。

 二体目にはコボルト族オーク族連合の撤退路に立ちふさがる、有象無象の亜竜や魔獣を皆殺しにさせた。

 三体目にはコボルト族オーク族連合に範囲完全回復魔術をかけさせた。

 一体目は古竜の群れ突っ込ませた。


 一瞬の出来事だったので、二体目と三体目の姿形をいじるのを忘れていた。

 俺と全く同じ姿形の人間が一度に三人も現れて、信じられない力を発揮してコボルト族オーク族連合を助けたのだ。

 だが流石に一体目だけで古竜の群れを瞬殺する事はできない。

 範囲完全回復魔術を放った三体目は、即座に一体目に協力をさせた。


「貴男はジェイコブ殿なのか、その姿はいったいどういう事だ。

 まさか分身の魔術でも使っているのか。

 それとも神や悪魔の手先なのか」


 コボルト族の大族長ブラウンロから厳しい質問が飛ぶ。

 とっさに愚にもつかない嘘を一体目に言わせてしまった。

 十分準備した事なら何とかなるが、意表を突かれると失敗してしまう。

 そんな失敗をここ最近よくやってしまう。

 ミュンに惹かれてからの俺は、ボロボロと仮面が剥がれてしまっている。


「俺はジェイコブの兄アルファだ。

 ジェイコブに頼まれてコボルト族とオーク族の安否を確かめに来た。

 よくぞ無事でいてくれた。

 そこにいるのは弟のベータとガンマだ」


「兄弟というのか、だが兄弟にしてもあまりに似すぎているのではないか」


 不味い、完全に疑われている。


「俺達は六つ子なんだ、服装に隠れている場所に多少の違いはあるが、顔は瓜六つに生まれついている。

 それに兄弟でなければ同じようにこれだけ強いわけがないだろう。

 何が似ているかと言われれば、顔形よりも魔力が似ているのだ」


「六つ子だと、我々コボルト族やオーク族なら六つ子というのもあるだろう。

 だが人族で六つ子など聞いた事がないぞ」


 困ったな、俺がいい加減な事を言ったせいではあるが、完全に疑われている。


「両親の魔力実験の所為だ。

 両親が魔力の実権を繰りかえしたせいで、魔力の強い六つ子が生まれたんだ」


 ああ、ああ、ああ、もう支離滅裂だ。

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