第27話:孤児院の日々三・ミュン視点
「最初に言っておくが、この製法は俺の秘伝のやり方だ。
誰かに漏らしたり、逃げてどこかで作ろうとしたりしたら、殺すからな。
エクセター侯爵領の連中がどんな末路を辿ったか、お前達が一番よく知っているよな、絶対に裏切るんじゃないぞ」
「「「「「はい」」」」」
最初から真剣だったクランメンバーの冒険者達の顔が、更に厳しくなりました。
私もきっと同じ表情をしているのだと思います。
今からドッペルゲンガーのブルーノさんが解毒薬の製法を教えてくれます。
この世界の解毒薬は、必ず効くとは限らないのです。
特に安い解毒薬は、製法や保存が悪いモノがあるのです。
高価な解毒薬でも、毒を受けてからの時間によっては効き目がないモノもありますが、ブルーノさんの解毒薬は死の直前からでも生還が可能なほど効き目があります。
「最初に言っておくが、保管が悪ければ当然効果も悪くなる。
作り方が雑でも効果が悪くなる。
一度失った信頼は決して取り戻せないから、買い手に嘘を言ってはいけない。
質の悪い解毒薬は、ちゃんと入れる容器を変えてわかるようにしておくんだ。
それが信用を維持する事につながり、効果のある解毒薬を高く売り続けることができて、危険な冒険をせずに金を稼げることになる」
「「「「「はい」」」」」
今からブルーノさんが教えてくださるのは、どこにでもあるありふれた薬草と毒草を組み合わせる事で、驚くほど効果的な解毒薬にする方法です。
孤児院の子供達をお昼寝させている時間に、ドッペルゲンガーのブルーノさんが手取り足取り懇切丁寧に教えてくれるのです。
普通なら絶対にあり得ない事です。
技術は、特にお金になる技術は、一族で門外不出にするものです。
徒弟制で伝わっているようなありふれた技術でも、長年奴隷のように師匠に仕えて、ようやく盗み覚えることが許されるのが普通なのです。
「最初に福寿草を使うが、これは早春に芽を出した新芽だけを使う。
他の部分を使ったら意味がないどころか薬効を損なう。
だから福寿草を絶対に根からとるんじゃない。
毎年新芽がとれるように大切に扱う事、分かったな」
「「「「「はい、分かりました」」」」」
「季節以外にも使いたいのが普通だから、酒精の強い酒に着けて保存しておく。
時間停止付きの魔法袋があればいいが、そんなモノを持ってるやつはいない。
だから酒精の強い酒が手に入らない場合は、酒造りもしなければいけない。
手間も時間もかかるが、だからこそ値の張る解毒薬が作れるのだ」
「「「「「はい」」」」」
「福寿草の新芽をこのように丁寧に潰したら、次に鈴蘭の根を使う。
これも季節が決まっていて、夏の盛りの時期の根を使う。
こいつは根が必要だから、毒草だが薬草園を作っておかないと手に入らなくなる。
根だから土や砂が混じる事があるが、絶対に見落として混ぜるな、分かったな」
「「「「「はい、分かりました」」」」」
全員真剣ですが、私も同じように真剣です。
この解毒薬を孤児院で大々的に作れたら、それだけで孤児院の運営資金が手に入るだけでなく、孤児達を危険な冒険者にする事なく、薬剤師として雇えるのです。
ブルーノさんが教えていいと判断された薬の製法は、全部覚えなければ、孤児院を任された意味がありません。
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