第31話
朝起きると小夏がいなかった。まるで昨日のが幻だったかのようで僕は一つ息を吐き洗面所に向かった。すると洗面所に小夏がいて
「おはよ、秋。昨日はありがとね。」と笑顔で言われたので僕も笑顔で「おはよ、小夏。どういたしまして」と返す。なんだか変なやり取りに二人して小さく笑った。その後二人でリビングに行くとすでにお母さんと冬華が来ており二人にも挨拶をする。
いつものやり取りだが一つ変わったことといえば小夏が自分から冬華に挨拶をしたくらいだ。冬華は一瞬びっくりしていたがすぐに笑顔で返していた。
朝食を食べ、部屋に戻り制服に着替えてから部屋を出ると部屋の前で小夏が待っており、
「今日一緒にいかない?」
と遠慮がちに言われたので僕は「うん。いいよ、一緒に行こ」と返す。すると凄く嬉しそうで見てるこっちがなんだか恥ずかしい。そんな二人のやり取りを階段の下で見ていた冬華は何も言わず家を出ていった。チラッと見えた冬華の表情は少し悲しそうだった。これはあくまで演技。僕はそう自分に言い聞かせ切り替える。
確かに最近の小夏は以前の小夏とはまるで別人のように違い、またにドキッと本気で思ってしまうこともある。だがそんなことで今での事をチャラにはできない。何より僕には愛してる人がいる。だから小夏に対しては反撃に出るまで演技で愛してるだけ。僕はカチッとスイッチを入れてから小夏の方を向き笑顔で
「じゃあいこっか!」とだいぶうまくなった笑顔で小夏の手をひいて家を出た。途中で小夏が恥ずかしそうに
「………手、大丈夫?クラスの人とかにバレちゃわない?」と手を繋げて嬉しいのとバレた時の不安とであわあわしてる小夏に対して
「じゃあ、近くの公園まで手を繋ご。そしたらちゃんと離すから」
若干まだ顔が赤い小夏はこくこくと頷いて握る手に力を込めた。それからしばらく無言で手を繋ぎながら歩き、約束の公園についたので手を離した。名残惜しそうに手を離す小夏の頭をそっと撫でてからまた学校に向けて歩き出す。しばらくまた無言で歩いていると小夏が
「……今日からまた鈴音と同棲始めるんだよね?」と悲しそうに言う小夏に
「これも小夏とのためだから俺は大丈夫。それに学校でも昼休みにはちゃんと二人で会えるし寂しくなったら連絡してくれたらなるべく時間を作るから。ちょっとの間我慢してくれる?」
小夏もそれはよく理解しているので「そうだよね。うん!私も大丈夫。」と納得したあと普通に他愛もない話をしながら学校に着いた。
いきなり二人で教室に入ると何かと怪しまれる。以前まではそこまで話もしなかったし何より記憶喪失になる前は僕をイジメていたんだ。だから僕たちは言葉にせずとも学校に着くなり別々に教室に入り隣の席に座った。
教室に入ってすぐに、あれ?と違和感を感じ、ふと隣を見るといつもは僕たちよりもだいぶ早く学校に着いており僕たちが来ると笑顔で挨拶をしてくる鈴音がいなかった。僕はどうしたのだろう?と思ったのでとりあえずlineで
<おはよ。あれ?今日学校休み?体調でも悪いの?>
その後ホームルームで今日は鈴音が休みとの報告を受けたのだが風邪とかではなく家庭の事情との事だった。なんだか嫌な予感がした。以前もいきなり家族で決めて僕と同棲するようのマンションを借りたりとか休んだ鈴音に呼び出されて言ったら薬を盛られてしまったりと鈴音との思い出は良くない。親が絡むと尚更だ。僕は今後の事を考え気を引き締め直した。
隣で僕を心配している小夏、どうやら小夏も鈴音が何かを企んでいると思っているらしい。僕たちはアイコンタクトを取り、昼休みに話し合うことにした。
それからお昼にイチャイチャ半分今後の対策半分でお昼を終えた。スマホを見て鈴音からの返事があるかと思い見るも既読にすらなってなかった。そして放課後になり結局鈴音からの連絡は一度もなかった。僕は鈴音のマンションには行かず小夏と一緒に自分の家に帰った。
家に帰り、部屋に戻って部屋着に着替えながらそろそろ何か返事があるだろうとスマホを確認すると2件入っていて
<今からいつもの公園で会えないかな?一つ気になることがあるの。>と冬華からのlineと
<今すぐ会いに来て!>と短く一文だけ送ってきた鈴音。僕は冬華に
<ごめん。鈴音に急遽呼び出された。何かあるかもしれないから行ってみる。話は明日聞かせて!ごめんね>と送り鈴音に
<わかった。今から行く> と返信して僕は着替えて家を出た。
僕はこのときの選択を後悔することになる。
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