第30話 非日常から日常へ 3/4

 二日後。防衛陣地から警戒しつつ十分ほど進んだら、ついに城の城壁が薄っすらと見えてきたが、なんか兵士が通りにぎっちり詰まってる。綺麗に向こうまで。


「スパルタだな……」


「あぁ、まんまアレだな」


「救いは、ただの兵士って事ですね。どうします? 大口径で吹き飛ばします? なんか後ろの兵士達が、自分達が吹き飛ばしてくれるって鼓舞してますが?」


「勝手だよなぁ……。他の国とか苦戦してるだろうに。あー、ルチルが攻め込んでる場所に行きたい」


「これって城の周りに掘りがあんのか? 長さ十メートルくらいの橋が既に落とされてるんだが?」


 覗き込んでないから、深さはまだわからない。どのくらいだろうか?


「偵察した時は、城、城壁、城下町っぽい上級区、ここの堀り、一般市民の住む場所、防壁ってな感じでしたね」


 攻め込まれても防御は堅いままか。しっかり作られてんなー。ってかそこまでして正門から城までの距離を測ってないのか……。うっかりさん?


「山ってか、炭坑側にも堀はあるのか?」


「全周囲ですね。どこから水を引き込んでるかは不明ですが」


「どこかで湧いてるのかな? 岩だ! 待避!」


 少し話しあってたら、敵兵士の奥の方から岩が飛んできて、ヘイが叫んだので崩した家屋の方にとっさに逃げるが、着弾してからも勢いが残っているのでそのまま転がり、数人の味方兵士をひき殺した。


「投石機まであるのかよ!」


 俺は左手の端末を操作して、ドローンとC4爆弾を選択した。


「丁度橋のこちら側に来る場所を測って、設置場所も決めているんでしょうね。本当守りが堅いですね」


「待避! 待避だ! お前ら防衛拠点まで下がれ!」


 ヘイは叫びながら空中をずっと警戒しており、手を押すようにしながら叫んでいた。



「一分経った。ちょっと破壊してくる」


 俺はドローンを組み立てて、上にC4を乗せて飛ばし、大げさに高度を上げて敵兵士の頭上を移動させる。


「小道にもみっちりいるぞ。本当ににらみ合いで兵站勝負に持ち込む系の、防衛作戦だな。お、結構奥の方に設置してあるんだな。道幅に一機、まっすぐ飛ばすなら一番良さそうな置き方だな」


「このタイプだと有効射程は百キロくらいの石で、最大三百メートルですね。それまで兵士がみっちり」


「一メートル一人として、横幅十人と仮定しても被害を出さないために二百五十メートル、この通りにいる敵は、二千五百人としておこうか」


 二人は俺の端末を見て、簡単な計算している。ってか投石機の有効射程なんか知らないよ……。なんで知ってるの?


「破壊するのに一番有効な場所は?」


「岩を飛ばす棒の部分か、ここの重り部分ですね。数人で巻いてる部分も修理に時間がかかりますよ」


 大飯は俺の端末を覗き込み、画面に指を触れないように説明してくれた。


「ならこの辺かな。爆破範囲的に両方巻き込める」


 俺はカメラをズームして、投石機の棒と重りを支えてる場所を指でトントンとやる。


 そしてドローンを操作して、投石機にぶつけて自爆させ、上に乗せたC4にも誘爆させて破壊する。


「次が回復するまで待っててくれ。ってか敵を薙払わないのか?」


 俺がそう言うと、大飯はヘイを見て指示を待っているみたいだ。やって良いかどうか一応聞いた方がいいって判断なんだろうな。


「大飯、堀は四角でいいのか?」


「四角ですね。城を中心にして十字、そして堀に架かってる橋はほぼ中央に」


「スピナ。大飯とツーマンセルで残りの三ヶ所の破壊を頼む。俺はここでにらみ合いだ。防衛の為に正常な兵士だけ残してるなら、多分突っ込んでこないだろうと仮定する」


「まぁ、橋が落ちてるしな。こっち側に攻めてくる可能性は低いだろう」


「ですね。簡易的な橋を架ける工兵は?」


「今夜の会議かな? まぁ、堀沿いを凶暴化した奴を殺しながら進んでくれ」


 つまりわからないって事か。



「こっちの兵糧は十分なのか? 随分と時間をかけてるっぽいけどよ?」


「誰かがちょろまかしてなければ、計算上はあと六十日は持つ。最悪帝都の倉庫から取る事になるな。そうすれば数万人分の春までの備蓄が手に入る」


「帝都は兵士に十分な食事を与える為に、街の一般人を凶暴化させて口減らし。とりあえず皇帝の腕か、作戦を考えた奴の頭を盛大に吹き飛ばしたくなりますね」


 大飯は珍しく静かに怒っている。ってか、口調は同じだけど、雰囲気がね?


「んじゃ行ってくる。吹き飛ばすのはとりあえず投石機だけで良いんだな?」


「あぁ、とりあえず矢と石が当たらない場所まで兵を下げて陣地を構築しておく。十分に注意してくれ」


「えぇ、そちらもお気をつけて」


 そして俺達は別れ時計回りに堀を進む事にした。



「はぁ。首都を戦場にするって気分は最悪だな。なんで一般人を相手に、殺し合いしねぇといけねぇんだよ」


「そんなもんですよ。どこかの冬将軍が猛威を振るってる戦場とか、一般市民を逃がさずに戦争してましたし。そこと戦った国の兵士とかの士気も下がりますからね。しかも襲ってくる一般人か、襲わない一般人かわからないので緊張しっぱなし。本当酷いですよ」


 ヘイは堀の方を見ながら喋り、俺も屋根や通路を警戒しながら進んでいく。


「でもよ、薬で凶暴化ってどうよ?」


「外道以下ですね。本来なら即射殺がふさわしいですし、自分の国の周りが敵になり、同時に襲ってきて、街を落としながら包囲網を狭めてきてる時点で、国民を思うなら投降ですよ。情報は入ってきてるんでしょうし、知らないって事はないでしょう?」


「一人で死ぬのが嫌ってか寂しかったんだろ。歴史だか小学生の社会でやったが、古墳とか作ってた時代、王が死んだら生き埋め的な? そしてハニワだかが人の代わりになったとか。まぁ骨が見つかってねぇから嘘っぽいけど」


「人骨ってあまり風化しませんからね。いまだに綺麗なまま出土したりしますし」


 そんな事を話しながら、たまに出てくる凶暴化してる奴を撃ち殺し、堀を一周して残り三ヶ所の投石機の破壊をして、正門から進んだ堀に戻ってきた。



「駄目だ、橋は四ヶ所全部落ちてた。何か考えないと兵糧を無駄に消費するぞ?」


 俺はヘイを見かけると、顔の前で手と首を横に振って駄目だった事を伝えた。


「今夜の会議で案が出るだろ。なんにせよ助かった。ありがとう」


「いえいえ、他の国の消耗具合も見れましたし、最前線にいた人のお話も聞けましたよ。やっぱりどこも士気の低下が酷いですね。心的外傷後ストレス傷害が出てます。凶暴化してるとはいえ、一般人を殺す事が大きいみたいです」


「だろうな。俺達も結構キてるし、スピナなんか吐いたし」


「子供が爆弾抱えて突っ込んでくる時点で、脳裏に焼き付いてトラウマもんだろ? よく冷静に撃てたよな」


「心の中で素数数えたり、狙った瞬間に視線そらしたりしてたんだぜ? あんなのピーピーが好きって言ってる奴に任せたいくらいだ。それかピーをしてる連中」


 ヘイがなんかやばい単語を三つほど出したが、最後のは性癖じゃなくて食欲だろ? 目の前で自爆されるのとは別物だ。


「んじゃ警戒しながら待機。正門前でくそダルい会議してくる」


「おつかれ……」「お疲れさまです」


 二人でヘイを労い、大飯と目があったら一緒のタイミングでため息を漏らした。


「今後、どうなると思います?」


「俺達の火力に任せてのごり押し。橋が落ちてて二千五百人が詰まってるなら、この時代のじゃ持久戦だ。ピアニストの映画を見たが、食事がないと本当に酷い。本当はもっと酷いんだろうけどな」


 俺は堀の向こうで隊列を組みながら、こっちを睨んでいる兵士を見て呟く。


「人肉か土か、革靴革鎧……。なめし剤は多分タンニンでしょうから、食べられなくはないでしょうね。噛めば噛むほど、野球グローブ的な香りが口いっぱいに広がるらしいですよ。どう調理しても」


「土粥の文化はないだろうな。畳もないだろうし」


「食べられる素材を畳の裏に使ってたんでしたっけ? かんぴょうだったような?」


 そんな雑談をしながら陣地を構築している味方を見るが、やっぱり疲労とは別な疲労がある感じだ。



「明日の作戦が決まった」


 夜中、防衛陣地近くのテントに、ヘイが入って着た瞬間そんな事を言った。


「どのような感じで?」


「正面、向かって左右から、大口径を使ってある程度の敵を薙払う。工兵が長い梯子を倒して堀の向こうに行き、廃材で簡易的な橋を奥と手前側から構築。ソレまで必死に防衛だ」


 ヘイはゆっくりと毛布の上に腰を下ろし、俺が注いだお茶を受け取って一口飲んだ。


「城の真後ろはどうするんだ? にらみ合いか?」


「各国の後方にいる予備戦力を回し、矢で地味に抵抗。多分俺達が薙払った兵士とは別の予備戦力がどう使われるかは不明だが、橋作りの妨害をしてくるって意見が多かった」


「一人で二千五百を倒し、堀向こうでどれだけ来るかわからない、兵士達からの防衛ですか……」


「お前達もジャガノ装備して、抵抗するか?」


 俺はニヤニヤしながら二人に聞いてみる。


「ソレが安全だな。スピナほどじゃないが、多少足を殺して簡易的なアーマーの装備を推奨したい。堀を渡った場所で百八十度を警戒、装備は各自慣れた物を使え」


「「了解」」


 そしてヘイの雰囲気はいつも通りになり、ここに来る途中に軍に着いてきて、出稼ぎに来てる娼婦から声をかけられたけど、がんばって断ってから戻って来たとか言っていた。



「畜生、なんで俺が正面なんだよ……。どう考えても抵抗が一番激しい場所じゃねぇかよ」


 翌朝。朝食を食べながらヘイが三発の散弾銃の弾を用意し、一発だけ違う色の物が混ざっていた。そしてコレが当たりねとか言いいながら袋に纏めて入れた。


 ってかなんで三分の一を引き当てるんだろうか? やっぱり一番最後にして残り物を狙うべきだったか?


 少しだけグチりながら、ウォールブレイカーにAGOCを付け、防衛陣地の少し前の地面に杭を踏んで押し込み、寝転がって準備を始める。




『教会の鐘が鳴らないが九時だ。各自発砲!』


『『了解!』』


 ヘイから攻撃の合図が出て、俺と大飯が返事をして一秒に五発とかなり遅い射撃音が辺りに響き、堀の向こうにいる兵士達を挽き肉に変えていく。


『各自異変があったら報告を忘れるな』


『『了解』』


 無線越しに撃ちまくっている音が聞こえ、各自仕事はしているという事はわかるが、三十メートルくらい先に落ちる矢の恐怖は何ともいえない。




「わりぃ! テーブルをその辺の家から持ってきてくれ!」


 一マガジン五十発を打ち切り、リロードしている合間に俺は後ろにいる兵士に叫んだ。


 少し前進して四十五度とかで射られたら多分背中に刺さる。それだけは避けたい。そして五十発撃ち終わる頃には、テーブルが運ばれてきたので俺の上に置くように言う。




 どのくらい撃っただろうか? 朝飯を食べながら弾を貯めて、もう千発は撃った気がする。下着だけの装備以外には着いてる、双眼鏡を使って死体の山の奥を見るが、鎧をあまり付けていない弓兵が倒れているのが見える。なのに増援のぞの字もない。


『千発は撃ったが増援がない。ドローンで見た時は脇の路地にも兵士が詰まっていたはずだが』


『こちらもです』


『山側に戦力が集中してるから、敵はそっちに行ったんじゃないの? 取り合えず建物を破壊して、視野の確保もしつつ、そっちの判断で工兵を作業させて』


『『了解』』



「行くぞ工兵! 気合い入れてけ!」


「「「「おう!」」」」


 とりあえず動く物がなくなってから、しばらく双眼鏡で見ていたが大丈夫と判断し、ウォールブレイカーで建物をある程度破壊し、工兵と一緒に堀りの向こう側へ行く事にするが、コレがもう不安で仕方がない。


 十メートルもある川幅を渡るのに、気分はクレバスの上をアルミの梯子を架けて渡っている感じだ。強度的な意味で。すげぇ反ってるし。


 そして渡りきったら、オープンドットサイトとサプレッサー、グレネードランチャーを付けたG36kと銃剣を付けたM870。C4とスタングレネードを選びジャガノ装備になる。


 一分間は撃てなくてもどかしいし、弾数が不安だがどうしようもない。


 俺は左右の少し離れた場所の家の角にC4を置き、爆発して道を軽く塞ぎつつ三方向に気を配り、背後では工兵が廃材を利用してどんどん簡易的な橋を架けていくが、正面から敵兵士が増援に来たので、自動小銃G36kに着いてる三倍スコープを覗いてセミオートで撃っていくが、どんどん増えていく。


 橋の完成度は三割。長い木材を何本も渡し、板を打ち付けているだけの本当に簡易的な物だ、がんばれば一人分の幅はあるので、一列になれば渡れそうだが工兵の邪魔になる。


「急がなくて良い。確実に丁寧に仕上げろ! 左右に敵影があれば叫べ」


 俺は一発ずつ丁寧に狙って撃ち、左右の見張りは工兵に任せて正面だけを撃ち続けるが、もうセミオートじゃどうにもならなくなってきたので、フルオートで横に薙ぐ様に道幅に弾をばらまき、グレネードランチャーを撃って敵を足止めする。


 そして奥の方から、メイスやフレイルを持った重装備兵がこちらに走ってきてるのが見えたので、散弾銃に持ち替えて弾を足に撃ち込み、一発で足や腕を吹き飛ばして痛みでもがいているのを、他の兵士に見せつける。


 死ねないし、痛みでのたうち回る仲間を見て怯えろ。一歩踏み出すのを躊躇ちゅうちょしろ。前に出れば出るほど的になるぞ。


「悪夢の噂は聞いてるだろう! その中の一人が俺だ! 死にてぇ奴から前に出ろ!」


 そしてまたグレネードランチャーを敵の中に撃ち込み、排莢だけ済ませておく。爆発系だから本当に回復が遅くて心臓に悪い。


「弓兵、悪夢の援護をしろ!」


 そんな声が後ろから聞こえ、少しだけ振り向くと弓兵が掘り沿いに並んでおり、正面の通りに向かって矢が飛んでいき、立っている兵士が少しだけ減った。


 牽制って本当重要だな。そう思いながらスイッチを二回握り、正面の通りの家屋をC4で爆破して崩し、道を少しだけ塞いで敵を狙いやすくしつつC4の回復をしておく。


『正面だから増援がかなり多い。けどグレネードランチャーと、死ねない兵士を作って多少の足止めに成功。各自の状況を知らせろ』


 俺は他の二人が気になったので無線で聞いてみた。


『いつものAKで射程内に入ったら狙撃。一発で頭をぶち抜き、恐怖を与えてる。今のところ敵の動きは鈍いね』


『P130で下半身、主に膝下を撃って死なない奴を量産。生きてる奴が引きずって後方に運んでいるのが見えます。VP70の弾が増えまくって仕方ないですね』


 他の二人も上手くやっているようだ。ってか殺す派と殺さない派で分かれてるのも珍しい。


「工兵、橋が崩れちゃ仕方ねぇから焦らずにやってくれ!」


「うっす! 主桁が足りねぇから家から床板引き剥がして持ってこい! 屋根でも良いぞ」


「誰か堀に数人降りてこい! 橋台の補強手伝え!」


 橋台と言っても、落ちた橋の瓦礫の上に少し太い角材みたいなの立ててるだけだけど、数十人一気に乗る訳じゃないだろうし平気だろう。少し水が不衛生だけど仕事だから仕方がないな。



「橋、完成しました」


「了解! さらに補強して崩れない様にするか、もう一本かけて移動手段を増やして保険をかけるか上官と相談してくれ。俺は仲間に確認をとる。『正面、簡易的な橋をかけ終わった』」


 襲いかかってくる数が減った兵士を撃ちつつ、そんな報告を受けたので一応皆に報告をしておく。


『早くない? そっちの工兵優秀過ぎ! こっちは敵の増援は減ったけど、残り三割って感じだよ?』


『今八割くらいですね。ちなみに救出を諦めて、地面で唸ってる奴で溢れてます。橋が完成して、ある程度兵士が渡ったら処理します』


 どうもこっちの工兵は色々と優秀っぽい。正面だから急いだ可能性もあるが……。


 本当、数分で橋をかけられる架橋戦車って戦術的にすげぇんだろうなぁ……。距離もあるだろうけど。


 ってか戦車チャリオットってこの時代には馬が大きいとかでもうないんだっけ? どこかの温泉好きな奴が、リヤカーと馬でやってた漫画があったけど、凄く笑った記憶がある。パーツ的には問題ないから、可能だろうけど。


『炭坑側っていうか、城の後ろ側の援護はどうすんだ? 距離や防衛面から俺じゃ無理だろ』


『自分が裏とって殲滅してきます。こっちの兵士は練度や士気が高いのでです、橋が完成したら問題はないでしょう』


『なら任せる。俺は堀のこっち側の上級区の様子を探って報告する』


 大飯は遊撃。ヘイは偵察。新しい橋と防衛拠点を造ってるから俺は援護か……。正面は激化しそうだから仕方ないよな。


 そう思いつつ五十歩ほど前に出て、防衛拠点を作るのに邪魔にならないようにしつつ、未だに十人単位で襲ってくる兵士を処理する。



『城の後ろ側の殲滅終了しました。橋を架け始めたのでこのまま護衛します』


 視界内のMAPを見ながら、敵を警戒してると、どんどん橋を守る為の半円状の防衛陣地ができあがってきた。


「慣れてきてんなー」


 一言だけ呟き、再び警戒してると左前方の家のある方角から、なんか違和感のある陰が視界の端に映ったので、そっちの方を見ると石が飛んできた。


「左前方、石だ!」


 俺は飛んでくる石を撃ち落とす事はできないので大声で叫び、野球経験は体育程度だったので、落下地点を予測して強化アーマーの耐久値で防ごうとしたが、見事俺の手前に落ちて、ハンドボールくらいの大きさの石が石畳を割って、見事にトンネルをしてしまった。


「被害は!?」


「特になし!」「こちらも特になし!」


『ヘイ、今マーカーを立てた辺りからハンドボールくらいの石が飛んできた。どこにいる』


 トンネルした事を誤魔化すように被害状況を聞き、ヘイに連絡を取ってみる。


『スピナから見て二時の方角。そこまで行くのには十分以上かかる』


『了解。俺が見に行くからそのまま偵察を頼む』


「俺は石の飛んできた方へ行き、様子を見てくる。すまないが防衛を頼んだ」


 ヘイからの通信を切り、後方にいる味方に声を掛けてからM870に持ち替え、路地の方に入っていく。


『小型の物なら百メートル飛べばいい方です。三軒から五軒目の道路を目安に探って下さい』


『了解』


 小型の物なら百メートルくらいって大ざっぱ過ぎだ。最初の路地に入って一軒目の家の隣の通路に入り、十字路に来たら左右の確認をしてから全力で見通しの良い場所を抜ける。


そして四本目の十字路の左側を見たら、Aを二個用意して、繋げて大きなスプーンをくっつけた感じの奴が数台あった。


 俺は一個前の十字路に戻り、投石機があった方に走り、後ろに出るようにしてまた曲がった。



「貴様! だ――」


 俺は十字路を曲がった先に二人ほど見張りがいたので、散弾銃の先端に付いている銃剣を胸に刺し、蹴りながら抜いて、もう一人の方を音とかを気にしないでお腹辺りにぶっ放した。


 辺りに大きな音が響き、急いでフォアエンドを引いて側面のエジェクションポートから弾を込めて一発補充してフォアエンドを戻していつでも撃てるようにする。


「サプレッサーが付いてるG36kの方が良かったか?」


 通路の先を見ながら言い、散弾銃の弾を指に挟みつつ構えたまま歩いて進み、通路に入ってきた奴だけを狙って撃ち、先ほどと同じように弾を込めて進んでいく。



「まだこんなにあるのかよ」


 十字路から顔を出すと、先ほど見えた投石機の他に十数個見えた。小さいから持ち運びとかし易いんだろうか? そしてハンドルみたいな物を回して石を乗せるスプーンみたいな物を引いていた。


 俺は直線距離で一番近い投石機にC4を投げて起爆させ、もう一個は全力で奥の方に投げて近づいてきた奴から吹き飛ばし、六発ほど散弾銃を撃ったら近づいてこなくなったので、C4を起爆し、撃った分の弾を素早く込めてG36kに持ち替え、グレネードランチャーで大まかに投石機を狙い撃ち、排莢して二発目も撃って吹き飛ばし排莢だけ済ませて、スプーンみたいな部分を絞るハンドル部分を撃って壊していく。


 俺は急ぐことなく、いつも通り冷静にリロードを済ませて背中を一番近い奴から、フルオートで三発前後の弾を撃って殺していく。


「き、貴様は!? 一回前の春頃に炭こ――」


「うるせぇよ。俺も馬鹿な事したと思ってんだから黙ってろ。俺より馬鹿なくせしやがって。尻の穴を増やされたくなかったら俺の方を向いて逃げるか、切りかかってこいよ。畜生にも劣るゲスが……」


 それだけを言うと引き金を引きっぱなしで、マガジンの弾がなくなるまで撃ちまくり、リロードを済ませてチャージングレバーを引いて、もう一度弾を撃ち切る。


「クソが! 子供に薬を飲ませて爆弾持たせやがって」


 俺はリロードを済ませてから散弾銃に持ち替え、まだ息のある奴に銃剣を刺してとどめを刺し、背中や腹を踏みつけながら引き抜く。


「屠殺場で産まれた豚みてぇに死にやがれ。『こちらスピナ。とりあえず投石機と兵士の処理は終わった。同じ半径内にもある可能性を考慮し、中央通りを挟んだ向かい側も見てくる』」


『はいはい。馬鹿な事しておいて、俺より馬鹿ってのにはニヤッてしたよ。マイク切り忘れてたよー』


『子供に爆弾持たせるのは最低ですが、スピナさんの口って結構最低ですね。けど良い表現です。マザーピーに置き換えられそうな感じで』


『聞かなかった事にして下さい……』


 俺は少しだけ勢いを落としながら言い、同じ通りを反対側に向かって走っていく。




 中央通りを抜け、しばらく進むと先ほどと同じタイプの投石機が見えたので、自動小銃を構え、排莢だけしておいたグレネードランチャーに弾を入れて撃ち出し、一番手前から盛大に壊し、慌てている兵士を三倍スコープで覗きながらセミオートで撃ち殺していく。


 そして投石機に一マガジン分の弾を撃ち込んだり、回復したC4を置いて爆破して壊す。


『十字路を挟んだ反対側も破壊した。兵士に言い、十人一組で巡回させるぞ』


『二十人一組でもいいよー』


『城の後ろ側の兵士が橋を建造してますが、数が多いので早いですね。シミュレーションゲームなら残り一ターンってところでしょうか』


 大飯は橋を架けるのを守っているらしいが、一ターンで橋は早いな。規模が違うけど。



「おい、そこのあんた。投石機が設置されない様に、二十人一組であそこの通り辺りまで、円を描くように見回りや見張りをするように言ってくれ。五組くらいいれば結構カバーできると思う。残骸が残ってるから、わからないって事はないはずだ」


「了解しました!」


 俺は指を指しながら近くにいた偉そうな人に言い、防衛陣地前でしんがりをしながら二人を待つ事にした。



「ただいまー。ちょっと偵察もしてきたけど、城の周りの堀に兵士がワラワラ。防衛に徹してるけど。この間橋の上で話した奴が指揮してた、皇帝の直属の練度とか忠誠心がクソ高い連中だと思う」


「数は? あの時二万くらいいただろ?」


「不明。高そうな家の敷地内に重装備兵とか、窓や屋根に弓とかマスケット銃。その辺の家がそのまま城を囲う防衛の砦っぽくなってる。正直首都攻撃とかこんな面倒だとは思わなかった」


 二万くらいが城の周りの貴族の屋敷にみっちり詰まってると思うと、少し見てみたい気もするが、実際に見たら泣きたくなるんだろうなぁ……。数日以内に絶対目にするだろうけど。



「いやー、冷え込んできましたね。幸いにも木材は豊富にあるので良いですが。凶暴化して、家屋に人がいないからってのが皮肉ですけどね」


 地味な破壊活動いやがらせから大飯が戻ってきて、両手を篝火の近くに持って行き指先を暖めている。そして先ほどの話をもう一度する。


「面倒ですねぇ。冬じゃなければ兵糧責め確定ですよこれ」


「仕方ない、敵の本拠地だし。兵站も伸びきってるし、道中の街とかからは一定量しかとれないんだから」


「まぁ、そりゃそうですけど。って事は、本当にどうでも良い富裕層も凶暴化で殺してたって事ですね。一部の貴族だけが城の中ですか。国自体が末期ですねぇ。もう機能しないでしょうに。処刑されないと思ってるんですかね?」


 大飯は残念そうに言っているが、表情は特に変わっていなかった。


「ここまで来たらもう降伏しろって感じですが、向こうも意地になってるんでしょう。日本の武将みたいに自爆してくれないですかね? 誰とは言いませんが。まぁ、話が大きくなった作り話ですけどね」


「「ギリワンか……」」


 俺とヘイの声が被った。あのゲームをやってる人にとっては、ある意味当たり前っぽいんだな。


「でー会議はどうなったんだ? お互い戦線を押し上げてるから、ご近所で会えるだろ?」


 街の防壁と、中の堀の外周じゃ全然距離が違うからな。比較的連携はとりやすいだろう。


「一言で言うなら、兵糧があるからじっくり減らしましょう」


「あれ、自分が色々爆破しに行く前から会議でしたよね? なのに結果はそれだけですか?」


「あぁ。突撃派がいたけど、無駄に兵を減らすよりじっくりって事の説得に時間がかかってたし、俺達を先頭にして、城まで強行して無理矢理道を造るとか。各所に配置して悪夢の再来とかあったけど、立派な家は再利用したいらしい。まぁ、残ってたら同盟国の大使館的な物になりそうだ。ちなみにだが僕は今回は口を出してない」


 ヘイはお茶を飲みながら、うんざりした顔でつまらなそうに言った。


「で、結局自分達はどうなるんです?」


「前面に出ると警戒されるから狙撃。爆発物禁止。屋根に乗れば立派な家の塀の中は見えるよ。三人別れての行動。まぁ、がんばってくれ。僕は気軽にやらせてもらうけど」


「なら家の窓は狙わないで、庭の兵士を減らすか」


「屋根に伏せて二百くらいなら多分気が付かれないでしょうし、弾的に狙撃銃より自動小銃でも良さそうですね」


「だな、まぁ臨機応変にって事だ」


 俺と大飯は狙撃慣れしてないので、そっちの方向で処理しようと決め、とりあえず寝る事にした。



「んじゃ各自、安全な場所だからって昼寝しないように」


「「了解」」


 翌朝、国同士でどんな話し合いがあったか知らないが、城の正面側に誰も配置せず、両側面と後ろ側で行動してくれとなったらしい。


 俺は炭坑や山がある後ろ側だ。思い出深い場所でしょ? とか言われて、そうなっただけだけどな。


 屋根にテーブルを置き、イスに座りながら自動小銃を撃っていたら、しばらくして下から声がかけられた。


 伏せて撃つ? 現場で確認したら別にしなくても平気だって事がわかったから、シューティングレンジみたいな感じで緩くやらせてもらってる。


「すみませーん。敵にやべぇ奴がいるんでー、処理してもらっていいっすか?」


「んあ? あぁ、いいぞ」


 なんか凄く軽く言われたから変な声が出たが、同盟国の兵士が減るよりはいい。それに持ち場を離れるなって言われてないし。


 そしてその兵士の後に付いていくと、俺のいた場所からは狙撃銃でも弾がちょっと当て難い、通りの角に近い屋敷だった。



「誰か、俺に勝てる奴はいねぇのか!」


 なんか他の兵士より一回りほど大きく、大きな盾とトゲの付いたフレイルを振り回して、取り囲んでいた同盟国の兵士を吹き飛ばしている。


「確かにありゃやべぇ奴だな。ってかああいうのは重要な場所、正面とか城内に配置じゃねぇのかよ」


「ですよね。ちょっとあいつだけでいいんで、やっちゃってもらっていいっすか?」


「あぁ、わかった」


「お前、誰に頼んでんのかわかってんのか! 悪夢だぞ悪夢! 失礼だろうが!」


「でも、アレに勝てるのって悪夢さんくらいしかいねぇじゃねぇっすか」


 なんか軽過ぎて、こいつが本当に兵士なのか疑うが、上官っぽいのに怒られてるから多分兵士なんだろうなぁ。


 あと本人の前で叱るのも失礼じゃね? まぁ俺は気にしないけど気分は悪いよな。


 俺は攻め込まれた時用に持っていた散弾銃を持ち、弾を撃っていないのにホアエンドを引いて排莢をし、一発弾と言われる、筒と同じ大きさの弾が入っている薬莢を横から詰めながら、兵士達をかき分けて前に出た。


「貴様が悪夢の一人か! どうせ噂が一人歩きして大した事ないんだろう? 俺は百人殺しのバ――」


 盾を前面で構え、トゲ付きフレイルを振り回しながらなんか言っていたので、先ほど込めた一発弾を撃ち、盾に穴を開けながら胴体を吹き飛ばし、二発目は普通の散弾で倒れているバ何とかの頭を吹き飛ばして、排莢をして下から弾を詰めて、散弾銃を肩に担ぐ。


「お前の前に誰か殺しておいた方が良かったか? どんな風に死ぬか知っておいた方が馬鹿にされないで済んだかもな。で、やっかいな馬鹿は他にいるか? 殺しておくぞ?」


「貴様。決闘前の名乗り中に攻撃しやがって! 恥知らずが!」


「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! ってか? だからどうした。こっちは噂の中で生きてんだ。姓名、身分、家系なんか関係ねぇんだよ。それにお前達、この戦争で一般人を何人犠牲にした? 他の街は落とされたが人は生きてる。残された帝都は薬を使って抵抗。そんな事させておいて今さら武勲とか関係あるのか? 恥ずかしいだけだろ、このクズが!」


 バ何とかの取り巻きだと思われる奴が、何か文句を言ってきたが正直どうでも良い。こんな状況でも一騎打だか決闘の作法とか言われてもなぁ、勝ち戦くらいしかやってこなかったんだろう。


「帝国の市民は等しく下劣。位の高い貴族さえ生き残り、この戦いに勝って他国から奴隷として――」


「死ねよクズが」


 なんか言ってる事が気にくわないので、取り巻きも頭を撃って殺した。貴族ってのは、誰もがこんな感じなのか? 特権階級ってそこまで人をダメにするのか? メディアスだって最初はこんな感じだったしな。マウンティングでもとりたいんだろう。


「あ、あざーっす。本当助かりました!」


「気にすんな。変に気を使って丁寧に喋られるよりはいい」


「うーっす。悪夢さんが優しい――」


 俺は調子のいい奴を蹴り飛ばしたと同時くらいに、屋敷の窓から射ったと思われる矢が地面に刺さった。


 そしてそのまま散弾銃を構え、多分射ったであろうと思われる窓を狙って撃ち、一人が倒れるのを見てから、全ての弾を撃ちきるまで開いている窓を撃ち続け、自動小銃に持ち替えて、屋敷側にいた敵兵に三十一発の弾を撃ち込んだ。



「こっちも喋ってる時に撃ったんだ。射ってきた奴に文句は言えねぇな」


 俺は蹴り飛ばした調子のいい奴に笑顔で手を出し、それを掴んできたので引っ張って立たせた。


「そうっすね。道理っすね。ちょっとぶっ殺してきますよ。本当ありがとうございました」


 調子のいい男は剣を抜き、左手を上げて戦闘を再開した仲間達の所に走っていった。


 ああいうのには生き残ってて欲しいもんだ。休憩中とか夜に仲間が笑える馬鹿な事とかをする。戦争映画に必ず一人はいて、絶望っぽい雰囲気を吹き飛ばしてくれて、最後に高確率で死んだりするけど。

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