第27話 見回りと怒り 後編

「さて、夜の町に繰り出そうか」


「二人だけどな」


「細かい事気にしない気にしない。金持ってる兵士や傭兵が買い物してるんだ、見回りだよ」


 ヘイは質素な食事を終わらせると立ち上がり、俺を引っ張って町の中に連れて行く。



「別にピリピリしてるって訳じゃねぇな……」


「兵士を制圧ってなだけで、民間人には手を出すなって厳命してるし。あ、コレ売ってちょうだい」


 ヘイは果物を手に取り、何回も書き直されて、二倍以上の値段になっている果物を買っていた。


「……俺も柑橘系買っておくか、歩いて移動するのに疲労が溜まるし、あんな食事じゃ栄養偏るし」


 俺も商品を何個か買っておいた。


「ねぇおばちゃん、高い娼館の多い場所ってどっち?」


「兄さん達もお盛んだねぇ……」


 ヘイは銀貨をちらつかせると、おばちゃんはニヤニヤとしながら丁寧に道を教えてくれた。まぁ、そう思われるよな……。


「人を殺した心の傷を癒してくれるのは、若い女性のおっぱいだからね」


 ヘイもニコニコとしながら銀貨をおばちゃんに渡し、なんかもっともらしい事を言っていた。そんなもんなのかねぇ……。



「ここが高そうだね。入ろうか」


 ヘイは覆面を取り出して被ったので、俺もスカルマスクを被って店の中に入った。


「いらっしゃいま……せぇー」


「ビスマス兵が無茶を言ったり迷惑かけたりしてない?」


 受付の女性が一瞬言葉に詰まったが、ヘイが顔を近づけて小声で聞いていた。


「えぇ、お一人ほど……。なんか偉そうな方が、見た目的に気の弱そうな子を指名し、いや、実際に弱いんですけど。部屋からは泣き声や叫び声が……。取り巻きだか仲間がいて、下手に注意しに行けないんですよ」


「部屋に案内して」


 二人はカウンター越しに小声で話し合っていたので、俺は装備欄をいじり、スタンロッドとテーザーガンを装備しておいた。


「おい、もっと酒を注げ。ぎゃははははは!」


 下品な笑いをさせながら、派手な鎧を着たビスマス兵数名が店の奥で酒を飲んでおり、隣には迷惑そうな顔で胸を揉まれてる薄着の女性が、酒を注いでるのが見えた。


「下品な客だ。だがただの迷惑な客だから、正規の値段を払えば問題はないだろう。今は連れ込まれた女性だな」


 ヘイはそう呟くと顔だけを横に向けて、気の大きくなった兵士を見ながら受付の女性に付いて階段を上っていった。


 階段を上ると、部屋のドアの両脇に兵士が立っており、ここからでも女性の叫びと、泣きながら助けてくれと懇願する声が聞こえる。


「気分が悪いな……」


「こういうのは、うちでは一切お断りしてるんですけどね」


「まぁ。処罰は決定だ」


 ヘイは受付の女性を優しく横に押して退かすと、特に急ぐ事なく普通に歩き、道に落ちているゴミを拾うかの様に燭台を手に取り、躊躇ちゅうちょなく手前の兵士の顎を殴り、奥の兵士の脇腹に突き刺した。


 これはヘイの性格変わるスイッチ入っちゃってるわ……。


「お前達も同罪な」


 それだけを言い、ゆっくりとドアを開けると見たくもない中の様子が見えた。小太りで全裸の男は女性に馬乗りになっており、まさに拳を振り下ろす瞬間だった。


「だ、誰だお前達! 見張りはどうした!?」


 俺は無言のままテーザーガンを構えて少しだけ様子を見ると、ヘイがテーブルの高そうな酒瓶を持ち、そのまま左から右に振り、小太りの男のこめかみの辺りを殴ってベッドから叩き落とし、つま先で脇腹に蹴りを入れてから瓶が割れるまで頭を殴っていた。


 大丈夫? ソレ死んでない?


「明日こいつを処刑するから、仕返しがしたいなら朝の門が開く頃に町の中央の大通りに来てくれ。ポーションはこの店に置いてあるかい?」


「は、はい……」


 顔中が腫れ上がった女性は鼻声で返事をし、ヘイが男の服から金の入った袋を取り出し、中身を確認してからサイドテーブルに置いた。


「明日死ぬ奴には必要ないからもらっちゃってよ、廊下の見張りのもね」


 ヘイがそう言ったので、俺はまだ意識のある兵士にスタンロッドを軽く当てて気絶させ、ズボンを漁ってお金が入っている布袋をヘイに投げる。


「こっちの中身はそっちが確認してくれ。俺はこいつ等を外に引きずっていくぞ」


「はいよ。俺もこいつを引きずっていくわ」


 ヘイは小太りの男の髪を大量に掴むと、そのまま引きずり出した。


「ごめんね。ちゃんと全員に命令が行き渡ってなかったらしい。それか、見つからなければ平気だろって馬鹿な考えの奴だったか。んじゃ、明日の朝に来なかったらこっちで処理しちゃうからね」


 ヘイは笑顔で手を振り、髪の毛を掴んで廊下に出し、階段は転がすようにして一階に小太りの男を落とした。



「ごめんねー、気にしないで接客しててー。こいつは命令違反で処刑だから。あ、そこの兵士さん、合意なしで無理矢理したらお前も処刑か刑罰だから。体を触るくらいならいいけどね。お姉さん達も仕事だしね」


 そう言って俺より先に外に出て行った。ってか俺より先を歩かないでくれ、モロに見えるんだよ……。ってか石畳で踵とか摺り下ろし状態だよ。町の皆が見てるよ……。


「あ、気にしないでー、こいつ命令違反だから。明日朝に処刑だから見に来てねー」


 ヘイは明るく言っているが、相当頭に来てると思う。だってやってる事がエグ過ぎるし。



「こいつ命令違反。娼館で――」


 ヘイは門の外のお偉いさんのテントで娼館での事を言い、見せしめに処刑し、お供のこいつ等も同罪って事で処刑すると説明した。


 そしてポーション瓶を勝手に取って口に突っ込み、無理矢理飲ませていた。


 俺も周りもどん引きだよ……。意識ないのに液体口に突っ込むって半分拷問だってそれ……。


「ぶっはぁ! なにがどうなった!? いてぇ、足がいてぇ!」


「やぁ、命令違反をした気分はどうだい? 清々しい目覚めだろ? あと半日しかない命を大切に使うんだね」


「お、おい。嘘だろ。アレは演技だ、女の方も合意してた!」


「見張りを立て、泣きながら助けを求める声を出していたのにか? それにそんな事は聞いてない。明日朝に当人が来るかもしれないから聞いてみようじゃないか。おい、残りは娼館に行って兵士を引き上げさせろ。こんな事があっちゃ連帯責任だ。勝って町を支配したつもりでいる奴が多過ぎる」


 ヘイはテント内にいた奴に言うと、ポーチから連合国に加入した国王全員の署名の入った紙を取り出し、一番偉い将官並の権限を与えると書いてあった。


 国王の名前もあったし、多分そうだと思っただけだけど。


「凄く便利な紙だな」


「あぁ、凄く便利だ。魔法処理してあって、濡れない破けない偽装できない。だ」


「魔法すげぇ。その紙自体が魔法みたいな効果発揮してるけどな」


「特定の奴が見れば一発で本物か偽物かがわかるらしい。本当紙なのにICカード並だな」


 俺とヘイで喋っている間も小太りの男は騒いでたので、無言でテーザーガンを撃ち込んで黙らせておいた。



 翌朝。小太りの男は広場に張り付けにされており、昨日の気の弱そうな娼婦が元の顔でやってきた。ポーションもすげぇなぁ……。どういう原理で治ってるんだろうか?


「やぁ、昨日は怖い思いをさせちゃったね。こいつはさ、合意の上での行為って言ってるけど……。実際はどうなの?」


 ヘイは親指で小太りの男を指し、睨みつけるようにして見ていた。


「いえ、無理矢理でした。帝国の町の住人って事で脅され、この場で斬り殺してもいいんだぞと首に刃物を……」


「それを見てた人は?」


「あぁ、アタイ見てたから付いてきたんだ。酒飲んでる時に言ってたから、あと数人は聞いてるよ」


 一緒に来た、少し派手で露出が多い女性がそう証言している。


「うん、有罪で。来なくても有罪だったけどね。一応聞いておかないとさ……」


 ヘイは今回の戦争のルールだか条約を説明しており、昨日のは確実に駄目な奴って事を説明した。



「さぁショータイムだ。こいつは戦後のルールを無視した重罪人、処刑方法は石打。けどお嬢さん、君には特別に最初に二回か三回フライパンで殴る事を許そう」


 なんか捕まえた役人の中で、処刑執行を取り仕切る奴を解放して連れてきたらノリノリで、広場の皆に聞こえる様に言っていた。


「ビスマス兵をぶっ殺せ!」


「勝ったからっていい気になりやがってよ!」


「いやがる女を殴って楽しむなんて最低な奴だ!」


 町人は攻め込まれた恐怖とか、ビスマス兵がいるのを無視して、なんか言いたい放題言っている。


「なんか半分以上は俺達侵略側への愚痴だな。よくこんな状況であんな事叫べるな」


「民間人への被害は少ないけど、実際攻め込んじゃったしね。けどさ、公開処刑はガス抜きって本当だね」


 離れて昨日の女性の動向をちょっと離れて見守っていたら、一緒について来た派手な女性にフライパンを渡した。


「この子の代わりに私が殴って良いかい? この子見た目通り気が弱くてね」


「どうぞー。思いっきり殴っちゃってくださいよ。正面から鼻を潰す勢いでバーンって」


「いーぞビスマスの悪夢! お前は話が分かる奴だ!」


 ヘイは笑顔で言うと役人が実況しているし、ビスマスの悪夢と知っても熱狂は収まらず、石打用の石を握りしめながら騒いでいる。


「すげぇ熱狂だな……」


「勢いでビスマス兵を殴ったりしたら、無力化しないといけないんだけどね」


 そんな話をしていたら、派手な女性が容赦なく本当に顔面を正面から殴り、鼻血がドバドバと出ていて、最後に縁を使って殴り、ヘイは無表情で口を半分開けていた。


「おーっと縁は反則です! 最初に気絶したら意味ないですよ!」


 役人はノリノリで折れた鼻を摘んで、口を無理矢理開けてポーションをぶち込み、鼻血を止めてから水をぶっかけて起こしていた。


「では、処刑開始!」


 役人が離れて大声で言うと、罵詈雑言と共に拳より小さい石が白線から投げられ、外した石は後ろの壁に当たって落ち、一度休息を挟んでから、生きていた帝国兵が石を拾い集めて町人の方に持って行っていた。


「鬼のヤツの的当て的な? もしくはバッティングセンターの、ボールを投げて数字を光らせる奴」


「拳より小さい石、白線より前に出ちゃ駄目、後ろに即席の壁。完璧に祭りだね……。処刑とか言った俺でもちょっと引くわ。素直に殺してやった方がよかったと思う。昨日の俺はどうかしてた」


「顔面セーフっていうより、死なないように首から下狙ってるし、石を回収してる時にポーション使ってるのもエグいわ。帝国式公開処刑は廃止にした方がいいんじゃね? 制圧終わったら、ある程度土地はその国に戻るんだろ?」


「だねぇ……。まぁ……ここに配属される新しい貴族の仕事だし。多分」


「ストレスで胃がヤバイな……。俺が統治するんだったら逃げるわ」


 俺達は一応暴動が起きないように見張っていたが、正直立ち会いたくなかったわ……。本当びっくりだよ。



「けどさ、ビスマス兵の事云々言ってるけどさ、どう考えても帝国兵ってよりも帝国に対する不満だよね」


「……そうとも取れるな。役人も兵士も、貴族だか親族が捕らえられたら、負けてるのに生き生きしてるし」


 本当に引くほど熱狂している。どんだけ帝国領って酷いんだよ。弾圧とか酷かったのかな?



 処刑が終わり、役人が笑顔のまま抵抗せずに縛られ、石を集めていた兵士も似たような感じだ。


「捕虜になったロシアとかイタリアみてぇだな」


「あー。解放されたら絶望したって奴ね。暖かい食事や寝床が捕虜収容施設に用意されてて、仕事がキツくてもここは天国か! ってね。イタリアは戦争しなくて良いと進んで捕虜になりにいったと」


「もしかしたら、無血開城とか狙えるか?」


「貴族がいるから無理でしょ。それに負けられないって洗脳されてるでしょ」


 ヘイは処刑場の後片付けを見ながらそんな事を言った。二人で潜入して、最低限の殺しで開門とか考えたんだけどな。


「先行して、忍び込んで開門しちゃうか?」


「面白そうだね、こっちの被害も減らせるかもね。やっちゃおーか!」


 駄目元で言ってみたら、以外にノリノリで賛成してくれた。


「んじゃ言ってから、馬を借りて黎明時にって感じで。どうせ民間人として入り込もうとしても無理だろうし」


「だなー。こんな時だから超が付くほどの警戒だろうな。検問で渋滞ができるアレみたいに。車だったら免許証とトランクまで調べられる奴」


「トラックの屋根と下もね」


 そして俺達は理由を話し、先行するので馬を二頭借りて翌朝には旅立った。

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