第6話 なんか恨みを向けられてる 前編
二日後の朝、俺は適当に準備しつつ、東門に向かう事にした。
今日からポーターの仕事を十日ほど入れている。なんか色々出るらしいので、持って行く物は嗜好品だけだ。かといってこの世界での嗜好品はドライフルーツか干し肉、酒くらいしかない。
雇ってもらった仕事なのに、一日の終わりに酒を飲むのは気が引けるので、持ったのは干し肉とドライフルーツ、なぜか売っていたエナジーバーだけだ。
「んじゃ十日ほど出てきます」
「はいよ。せいぜい気を付けて来て。ポーターを囮に逃げる奴もいるって噂だから、その時はギルドに報告を忘れずに」
「へぇ、そんなのがあるんっすか。気を付けますよ……」
囮は専業だったが、PMC風装備じゃ色々と問題があるからな。
今回の装備は、右太ももに何時ものサプレッサー付き
契約以外の事をやる気もないし、出しゃばる事もしない。最悪水は隠れて飲めばいいか。水を分けてやる義理はないし、当てにされても困るからな。頼まれた仕事だけを黙々とやってれば問題はないはずだ。
□
東門に着くが、ドミニオンズさんが出迎えてくれた。板金鎧を腕や太ももといった、主要箇所にしか装備をしていない。まぁ、これで大丈夫なんだろうな。武器はショートソードと盾か。
ってか胴体は剣と盾で守るのか?
「おはようございますスピナさん。まずは自己紹介からしましょうか」
眩しい笑顔で、仲間への自己紹介を促した。
「ダイダロスだ、一応斥候や偵察、遊撃をやらせてもらってる」
この人も金髪碧眼だが、髪が短く袖のない皮鎧しか来ていなかった。動きやすさ重視って感じなんだろうな。武器は短剣とショートボウ、それに投げナイフか。
「キウィです、攻撃系魔法使いをやらせてもらってます」
ショートカットで活発なイメージだし、基本動きやすそうな装備で、ゲームなんかで見かけたローブを着た魔法使いとはまったく違う。しかもこの人も金髪碧眼だ。この世界の人って金髪碧眼が多いよなぁ。
「ベリィよ。よろしく……」
あ。なんかこの女性が、自分よりランク下だと認めない人っぽい。
ちなみに金髪碧眼で、サラサラのロングストレートだ。パンツが乗馬ズボンみたいで、上着が神官服風って言った方が近い布装備だ。コスプレみたいだし、全員がキラキラネームっぽいな。この世界じゃ普通なのか?
「あ、ベリィは回復魔法担当です」
直ぐにドミニオンズさんがフォローを入れてくれた。まぁ、正直助かる。けどこのベリィって女の良い所は、パイスラッシュが見れる肩掛けバックってところだけだな。
「聞いてると思うがスピナだ。こっちは余計なトラブルを避ける為に、契約外の事はするつもりはない、安心してくれ。まぁ多少は仲良くなる努力はするがな。十日ほどよろしく頼む。あー、一応聞くが……討伐部位の剥ぎ取りはこっちの仕事なのか?」
「あたりまえじゃない、貴方はポーターなのよ?」
俺の記憶だと、運搬とか運搬人って意味だと記憶してるし、討伐部位の運搬だけだった気がするけど。
「おーけーおーけー。説明されてないし、掲示板の紙に書いてなかったが、そのくらいはやっておこう。ついでに討伐部位を教えてくれると嬉しいね。こっちはポーターも初心者でね」
少しだけ気に入らないので挑発をしてみた。
「あ、その辺は討伐してから説明しますので」
ドミニオンズさんがまたフォローを入れた。苦労人みたいだな。
「ではスピナさん、この荷物をよろしくお願いします」
そう言って足元にある、サンドバックっぽい縦置きのダッフルバックを指した。重そうだな。まぁ、予備の水と食料なんだろうな。
「了解。詳しい事はその都度聞く。俺はこれで準備は出来てるが?」
「おい、スピナさんよぉ。あんたの装備はその太もものナイフだけか?」
ダイダロスさんが一応心配してるのか、そんな事を聞いてきた。
「あぁ、一応な。他にもあるが、荷物が重いと思ったから置いて来た。自分の身を守れる程度の戦力だけでいいんだろ? 気にすんな。帰りの仕事ができない怪我はしないつもりだ。迷惑もかけない。そういう契約だ」
両手を広げ、渋い顔で首を振ってみる。俺に期待するなって意思表示のつもりだ。
「先輩には余計な口は出さないし、迷惑をかけない。俺はある程度言う事を聞く。魔物を倒して、日銭を稼いでる初心者にはちょうどいい仕事だ」
俺はダッフルバックを背負い、準備を終了させた。そして、そのままで自動拳銃とマガジンに手が届くかも確かめ、手榴弾にも手が届く事を確認した。
この重さ、四十キロ程度か? 一日に一人最低水が二リットル必要として五人で十リットル。食料や諸々を入れても最低で予備の水だけで二十リットルくらいか。計算上は往路分の水はある。
「少し疑問があるんだが、現地に水はあるのか?」
「あぁ、湧き水があるぞ。向こうではそれを使い、帰りにも汲んで帰る」
今度はダイダロスさんが答えてくれた。
「軽くなるのは食料分だが、討伐部位も増えるって事か。どのみち復路も変わらねぇって事だな」
「あぁ、その体なら問題ねぇだろ?」
「険しい山を越えなきゃ問題ねぇよ」
イギリスの特殊部隊の試験とか訓練みたいじゃなければだけど。それに眠さは感じるが、アバターのせいか、体力もあるし重さには少しだけ強いからな。
四人のバッグもパンパンだし、食料や水筒が入ってるんだろうな。
「んじゃ行きましょうか」
ドミニオンズさんがそう言うと皆が移動を始めた。
□
その日の夜、特に問題なく野営準備に入る。ただ、ここに来るまでに世間では雑魚に部類される魔物は出てきたが、ドミニオンズさんが叩き切ってた。フィルマとは大違いだな、あいつはゴブリンの首を切り落とせてなかったし。
ちなみにゴブリンの鼻の回収はなかった。
「換金してもあまりお金にならない奴は無視してください。重くなるので」
そんな事を言われたので無視した。まぁ今日取っても腐るだろうからな。
ってか一発も撃たないから、一時間で三千六百発弾が増える。表示がそろそろ三万発を超える……。
「飯出できたぜ」
ダイダロスさんがそんな事を言い、夕食が始まる。
塩辛いベーコンの塩分とコショウ、そして火の通りを良くするために薄く切られたジャガイモに玉ねぎのみじん切りのスープ。瓶詰にされてるザワークラウトに日持ちする硬いパンだ。
そして食事が始まるが、やっぱり俺の身の上話が気になるみたいで、結果的に話す事になってしまった。
「まぁ、あれだ。隣の国の帝都で、俺は極悪人にそっくりだったらしく、殺されそうになったからこっちに逃げて来ただけだ。別に上昇志向がないからな。その辺にいるゴブリンやら野犬やら適当に狩って、一日の飯が食えてベッドで寝られれば十分だと思っている。だからいつまでたっても、ランクが上がらないんだ」
その後は冒険者になった理由や、普段はどうしているのかを話した。
「そうなんですか。それは災難でしたね」
「そんな事よりよ。あんたの強さがわからないと、俺達は本当に危険な時がわからねぇぜ? そうしたら助けるのが遅れる」
んー。ここで誤魔化してもいいが、こいつらは帰りのポーターの心配をしているからな。なんといえばいいんだろうか……。
「あ、あー……。試しにどれくらい行けるか試すのに、オークを見に行って一人で倒したし。オークを引き連れた五人組が、逃げて来た時に一度に三匹相手にした程度だな」
「え、オークを一人で倒すのってドミニオンズでも難しいですよ? それなのにそのナイフだけなんですか?」
キウィさんが驚いたように言うので、適当に誤魔化す。オークってそんなに強かったのか……。
「今回はポーターだ。そんな装備してねぇよ」
「武道家みたいな、近接特化かと思ってました。そんな身長と筋肉ですし」
「格闘家ねぇ……。ある意味格闘も出来るが、ろくな格闘じゃねぇな。まぁ気にしねぇで手前の仕事をしててくれ、俺は俺の仕事をする。で、夜の見張りはどうなってるんだ? 俺もやらなきゃいけねぇのか?」
「いえ、スピナさんは休んでて下さい、それはこちらがやるので」
「そうか。ついでに聞くが、俺達の他に数人でこっち方面に向かうって言ってた奴はいるか?」
ドミニオンズさんとダイダロスさんが顔を合わせ、二人で首を振っている。
「そうか。俺が手を伸ばしてる方向に、三匹ほど何かが固まってこっちに向かって来てるぞ」
「各自戦闘態勢! ダイダロスは斥候に! キウィとベリィは俺の後ろだ!」
「おーおー、大変だねぇ……」
俺はスープ皿を丸太の上に置き、座ったままいつもの自動拳銃を抜いてスライドを半分ずらし、弾が装填されている事を確認し、ポーチからマガジンを三本抜いて地面に立てて置く。弾は装填されてるし、まだ撃っていないのでマガジンの中には十一発……。
「ワーウルフだ!」
斥候をしているダイダロスさんの声が聞こえ、急いで戻って来た。
そして光点を見ると近くにいるので、横を見ると、二足歩行の頭と下半身が犬っぽいマッチョマンが現れた。狼男?
なんだ、結構毛の部分が思ったより少ないな……。狼男ってなんか、格闘ゲームのガ〇ンってイメージしかないけど、ここは異世界だからなぁ。色々出てもおかしくはないか。
「なんでこんな所に出るんだ! 街から一日だぞ! ダイダロスは弓で圧力をかけてくれ! キウィは何でもいいから攻撃魔法の準備! ベリィはいつでも回復できるように待機しててくれ!」
リーダーとしては優秀だな。それと、魔物がどうやって湧くのかわからない。
なんか魔力溜まりとかで沸くらしいし、教会っぽいのが退魔っぽい祈りしてるから、街の近くには強いのが現れないって聞いたけど……。
まぁ、森とかは溜まりやすいのかな? 街から三時間の場所にオークが沸いてたし。
その光景をボヘーと眺めていたら、女性陣の目線が痛い。仕事の内容以外は、本当は関わりたくないんだけどなぁ。
そんな事を考えてたら、ワーウルフが二足歩行から四足歩行になってこちらに走って来た。そこをダイダロスさんがショートボウで一本だけ矢を放ち背中に当てるが、次をつがえる前に距離を詰められて、飛び掛かられそうになっていたところを、ドミニオンズさんが剣で切りかかりそれを阻止した。残りの二匹は女性陣と俺に向かって来た。
キウィさんは、なにか聞いてて恥ずかしくなるような詠唱を唱え、ファイヤボールと叫んでバランスボールくらいの火の玉を飛ばしていた。
俺は焚火の前で座ってて、戦意がなく無害をそれとなく主張してるのに襲ってくるのは、さすが魔物ってところだろう。
ダイダロスさんが何かを叫びながら、俺に向かってくるワーウルフに矢を放つが、俺は気にせずに顔と片手を真横に向けて、ワーウルフの顔に六発ほど弾を撃ちこみ、勢いよく顔を地面にこすり付けながら滑って来たので胴体に四発撃ち込む。
弾切れになる前にマガジンを交換し、キウィさんのファイアボールで毛だけが焦げて、膝をついてうなだれているワーウルフに、今度は両手で銃を持って十発顔や胴体に打ち込み、ドミニオンズさんが切った奴の頭にも二発撃ち、マガジンを交換してホルスターに銃を戻した。
コレで弾は十二発プラス一発だ。マガジン二個で足りたなぁ。
ドミニオンズさんが切りつけたワーウルフは、内臓がドロリと飛び出していたので、死んでいると思うが、一応保険の為に頭を撃っておいた。
「あぁ、すまん。切った奴と丸コゲになってた奴にとどめ差しちまったな。余計なお世話だったかな?」
座っていた丸太から立たずに二匹のワーウルフを処理し終え、残っていたスープを何事もなかったかのように飲み干した。
「討伐部位の回収は、飯食い終わってからでいいかい?」
「え、えぇ。お願いします」
なんか気まずい空気が流れてるが、馬鹿にされるのもなんだから、ついやりすぎた感じがする。
「あんた何者なのよ! ランク3のくせして強いのにポーター? ふざけないでよ!」
何食わぬ顔で残りのパンを食べていたら、ベリィが目の前まで来て突っかかって来た。
「強さとランクを一緒にしないで欲しいな。そんなにヒステリックに叫んで一体何が気に食わないんだ?」
俺は可哀相な人を見る目で、べリィに問いかける。対応的には最悪だけど。
「そんな強いなら普通の討伐の依頼受ければいいでしょ! なんでポーターなのよ!」
「冒険者になったのは最近だ。これは本当だ。だからランクは3。さっきも身の上話でしただろう。それに日銭を稼いでその日暮らしが出来れば、普通より少し下の生活を続けても良いって考えがある。それは無理をするような歳じゃないからだ。無理するつもりもないが、一応冒険者としての経験も多少詰もうと思ったから、このポーターの仕事を選んだ」
俺は溜息をつき、諭すように言う。
「私は強いのに、それを隠して生きてるような奴が嫌いだし、弱い奴も嫌いなのよ。あんたはなんなのよ! 武器だか魔法だかわからない物を使って簡単に魔物を倒すし、私達全員が束になってもかなわなそうな事ができるのに、ポーターなんかしてんじゃないわよ!」
「何があったか推測や憶測しても口に出す事はしないが、口ぶりからして何かあったような言い方だな。悪いが君の過去にも、これからの事にも興味がないし、君の理念を気にするような事はしない。強ければ弱い奴を守って、悪い奴をやっつける。世界はそんな簡単じゃないと俺は思うんだよ。まぁ今回は想定外の出来事かつ、夜中の襲撃だったから口と手を出したが、なるべく俺は俺の仕事をするからな。んじゃ俺は討伐部位を回収して寝るぞ」
俺は四人の顔を見て、返事を待たずに三匹の犬歯を合計十二本手に入れ、毛布にくるまって寝た。
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