第5話 仕事を引き受けたんだけどなんかややこしくなった 前編
「おかえり。生きてたのね」
宿屋に帰ったら、真っ先にそんな言葉を掛けられた。
「あぁ、問題ない。俺のせいですまなかった」
「気にしちゃいないよ。それにあの後大銀貨一枚分全員で飲んだからねぇ……。気にしてないんじゃないの?」
グリチネさんは煙草の煙を吐くと、灰皿に半分以上残っている煙草を押し付け、ランプの灯を消していった。
よく見ると灰皿にも結構吸い殻が溜まっている。俺が帰ってくるまで待っていてくれたんだろうか? ありがたい事だ。
◇
翌日の夜、俺は屋上から窓に突入するための、丈夫な
連れて行かれた家の近くで、全身黒の服装とスカルマスクにタクティカルベストや、一応暗視ゴーグルを選択する。
メインは室内だから小さい銃を選ぶ。短機関銃のMP7A2にサプレッサーとホロサイトを付け、ロングマガジンを選択。
右太ももにいつもの自動拳銃。サプレッサー付きmk23。そして多めにスタングレネードを持ち、ドアを指定されたリズムでノックする。
そうするとドアが開くが、ドアを開けた奴が声を殺しながら後ろに吹っ飛んだ。見た目が全身黒で、口元のドクロが浮いている様に見えたから驚いたんだろう。
「入るぞ」
俺は開いた扉から中に入り、昨日の夜に案内された部屋まで行くが、部屋に入った瞬間に、全員が立ち上がり臨戦態勢になった。こんな格好だから仕方ないか。
「俺だ、心配しねぇで座ってろ」
取りあえず座るのもなんなので壁に寄りかかる事にした。
「で、案内はどいつだ?」
「あ、あぁ。俺がやる」
「ほう、トップが案内とは……。嬉しい限りだねぇ。もう一度言うが、邪魔するんじゃねぇぞ?」
「わかってるよ! ついてこい、案内する」
俺はトップの男に付いて行くが、なるべく足音を立てないように歩くのに気を遣う。
そしてしばらく歩くと、目的の場所に付いたのか、顎で少し大きめの集合住宅を指した
□
「了解。拠点の制圧を開始する」
俺は四つ目のナイトビジョンゴーグルを装着して、ゆっくりとドアに近づく。ストーリーモードで使用する謎のピッキングツールを鍵穴に突っ込み、ボタンを押して、ランプが赤から青になったらドアノブを捻る。
中に入ったら、なるべくゆっくりと歩き、笑い声がする方に向かい、左手を少し出して、鏡越しに中の様子を覗くと、十人が酒を飲んで騒いでいた。ここはキッチンだったか。光点が固まりすぎてて何人かわからなかったわ。
俺は顔を半分だけ出して
そして入り口の側のドアからピッキングツールを使って開け、寝ている奴はそのまま撃ち殺して、永遠に眠っていてもらう。
一階の制圧が終わり、階段を上って二階に行くが、二階の奴が異変に気が付いたのか、光点が動いている。
俺は階段の陰に隠れ、太ももの銃を抜いて光点を見ながら飛び出す機会をうかがう。
そして階段まで来た奴の胸倉をつかみ寄せ、抜いていた自動拳銃で首に二発撃ちこみ、ゆっくりと床に寝かせる。
俺はゆっくりと廊下を歩くが、いきなり二階の一部屋目のドアが勢い良く開き、剣を持った奴が大声を上げて襲い掛かってきた。
冷静に腰溜めに構えていた短機関銃の引き金を引いて弾を撃ちこみ、淡々と処理をする。
だが大声を上げられた。しかも持っていた剣を落とし、音を立てて盛大に転がったので、殺したのが多分バレただろう。俺はもう一度フラッシュバンの位置を確認し、いつでも投げられるようにする。けど、いるってわかってても少し驚くな。まだ心臓がバクバクいってるぞ。
深呼吸を一回してからゆっくりと廊下を進むが、ドアの前に来ても敵が出て来ない。けど光点はどう見ても真正面。なのでドア越しに一マガジン分を数発残して撃ち込むと、ドアの向こうで大きな音が聞こえ、光点が消えたので多分死んで倒れたんだろう。
光点は残り四つ。急いでマガジンを取り換え、一番奥の部屋に進むと、身長が高く、鎧を着こんだ男が現れたので、試しに一発胸に打ち込んでみたが簡単に穴が開いた。鋼鉄ではなくただの鉄だったか。
まぁ、弾が抜けないなら抜けないで考えたが、この世界の一般的な鎧でも通じる事だけは確かだ。ファンタジーな金属とか、防御系の魔法とかがあったなら本当に困る。
苦しませるのも悪いからな。さっさととどめを刺して奥に行こう。一番奥と一番高い所には偉い奴がいるって相場は決まってる。
俺は一番奥のドアノブに手をかけ、軽く回すが鍵がかかっていたので、ピッキングで開けて、フラッシュバンのピンを抜き、ドアを少し開けた瞬間に投げ入れた。
ドアの隙間から激しい光が漏れ、爆発音が聞こえたら突入するが、剣を持った全裸の男一人と、ベッドに女が二人。事情は何となく察した。
けど契約では
仕事をする時は、人間を殺すと考えない事だ。事を処理すると考えればいい。これも東郷さんの言葉だ。俺はゲームのようにマガジンに残っていた弾を数発残して胴体に撃ちこみ、マガジンを取り換えてから共同住宅内のドアを全て開けて、確認した風の偽装を済ませる。
全ての部屋をまわり、特に異常がなかったので、一応自動で明度を調節してくれる機能はあるが、ナイトビジョンゴーグルを外し外に出る。
「終わったぞ」
「は、早かったじゃねぇか」
「迅速かつ的確に……。遅いと状況は悪化する、実際鎧を着こんだ男が現れた。一人だとこういう事もあるからなおさらだ。それと……わかってるな?」
俺はトップを睨む。
「あ、あぁ……お前の事は誰にも言わねぇ。これは俺達がやった」
「あぁ、上出来だ」
俺はそのまま夜の闇に紛れ、部屋に戻って寝た。
◇
一つの零細組織を潰してから半月。
奴等は味を占めたのか、俺はあれから頻繁に依頼され、似たような組織を五組殲滅させた。もちろん普通の討伐依頼もこなしているが、一向にランクは上がる様子はない。モンスターの強さで、ランク分けでもされているんだろうか?
俺はグリチネさんに軽く挨拶をし、何時もと変わらない朝食を貰い、冒険者ギルドに仕事を探しに行く。
いつも通り混んでいるので、隅のイスに座って空くのを待つが、あまり見かけた事のない奴が隣に座った。
一見ひょろひょろとした印象を受けるが、無駄な脂肪が一切ない男だ。
「こっちを向かずに話を聞いてくれ」
朝のギルド内の喧騒の中、隣に座った男がそんな事を言ってきた。
「とある筋の情報なんだが。お前、とある奴等に金で雇われてるらしいな」
どこで情報が漏れたんだ? まぁ、あいつ等だろうな……。
「あぁ、毎回金を貰って仕事をさせてもらってる。それだけの関係だ」
「専属って訳じゃない……と?」
「そう思ってくれて結構だ。言いたい事はなんだ?」
「単刀直入に言うなら、そいつらを殺してくれ」
「別に俺がやらなくても、お前一人でどうにかできる雰囲気がプンプンしてるんだが?」
「お前が、あいつ等を殺せるかどうかも確かめろって事だ」
きな臭くなってきたな。ここで殺さないと、俺は敵認定なんだろうな。それに話しぶりからしたら、こいつはお使いか。
「別に構わないが、前金で金貨一枚だ」
そう言うと、事前に準備してあったのか、組んでいた足の上に乗せて来た。
「あいつらの頭には、ちょっと痛い目を見てもらいたい。苦しませて派手に殺せ」
「俺はそういうのをやらねぇ。他は殲滅で、そいつだけ歩けなくしておくから、そういうのはお前がやれ」
「依頼主の依頼の全てを受け入れるのが、金で動く奴だろうに。理由を話せ」
しつこいな。拷問なんかやりたくないって。ってか、拷問の心得がない。
「迅速に処理をして撤退し、自身の安全を確保する。そんな事をしてたら、最悪囲まれることになる。俺は死にたくない。一人だからそのくらいのことはするし、おまえ達が裏切らない保証はない。だからソレはそっちでしろ。じゃなきゃこの金は返して聞かなかった事にする」
「……それでいいだろう。契約は成立だ。今夜にでも行動に移してもらいたい。お前が乗り込んで、出てきたら俺達が入る。数名が見張ってるから、お前の好きな時間に動け」
「……了解」
話が終わると男は立ち上がって、冒険者ギルドから出て行った。はぁ、今日は仕事を休もう。遠出しても、狩りに時間が割けないし、街付近の魔物退治も金にならないからな。
今日は休むか……。あープレイスタイルに合わないって理由であまり使ってなかった、
俺は掲示板に貼ってある紙を見ずに門の外に出て、何時ものデジタル迷彩装備にG28という物を装備する。hk417という銃を高精度にして、自動小銃よりは少し遠くを正確に狙える銃として作られ、狙撃銃とは少し違うマークスマンライフルと言うらしいが、何故かゲーム内では、狙撃銃のカテゴリーに入っているので、一応俺の中では全部狙撃銃扱いだ。
他にも長距離狙撃に向いてる物とかもあるが、好きな銃会社でボルトアクションの銃が殆どなかった、有名なのは、今持ってるG28とPSG-1という物だ。ただ、このPSG-1という銃は重い。普通の銃に比べとにかく重い。移動速度が結構制限される。
その重さは実銃で十キログラム程度。重りのついてない小さいベンチプレスの棒とほとんど同じ重さ。リアルでもその銃を抱えて戦場を移動する事はほとんどないらしく、警察とかには好評だが、軍隊には不評って事で、そんなバットステータスが付いている。だから俺はこのG28を使っていた。
本当にあまり使ってなかったけど……。
長距離射撃になったらボルトアクション系の狙撃銃か。もしくは対物狙撃銃という、物凄くでかく重い物を使うが、これは殆ど使用経験がない。
有効射程一キロから、二キロメートルとか想像がつかない。
十倍スコープを付けても、一キロ先の人間が百メートルの場所に立ってる大きさに見えるって言うが、的は動いてるしほとんど当てられる気がしない。
対物狙撃銃って言うくらいだから、建物とか遮蔽物を狙うんだけど、本当は人を狙っちゃ駄目らしい。人の持ってる銃を狙ったけど、弾がそれて人に当たっちゃった。テヘペロ。ってな抜け道があるらしい。あまり詳しくないから噂だけど。
けど映画なんかでは結構な頻度で登場して、長距離狙撃をしているので実際は問題ないのかもしれない。
銃社会は何を考えてるかわからないが、あるなら使う。ってコンセプトのゲームだったからな!
それにこんな世界じゃ、そんなルール関係ないし。
□
俺は適当な木を見つけてナイフでバツ印をつけ、五百歩ほど離れて寝転がる。うん、胸元のマガジンポーチが邪魔だ。
左手の端末を操作し、胸元や腹にポーチ類がなく、腰の辺りや太ももに集中してる物を選び、一分ほど待機する。
そして銃の先に付いている
ちなみにだけど、この世界にはメートル法はなく、かなり時間の表現も曖昧だ。
歩数だったり、一時間が太陽が一個ぶん傾いたりとか。ちょっとだけ不便だったりする。
「小さいな……。肉眼で五十メートルのバツ印を狙う感じってこんなんなのか……。駄目だ、可変で二十倍から五十倍のに取り換えるか、ついでに視野角確保に斜めにドットサイトを付けて、近距離対応にしておこう。中距離用だから、あっても問題ない」
十倍スコープを覗いてからそう呟いてもう一度端末をいじり、
「んー俺がスナイパーライフルを使うとはな……」
一分経過したら寝転がり、倍率二十倍で覗いてみる。うん、これなら何とかなるか?
癖でゲーム中のゼロインを百メートルに合わせてるが、あえてスコープの十字の真ん中で狙い、一発撃つ。そして隣に用意したスポッタースコープで木の方を覗くと、バツ印のかなり左下に弾の跡が付いていた。
弾が落ちてるし風の影響か……。胴体狙っても太ももに当たるな。スコープの十字線の四つ下の短い線で狙い、左右にも短い線が付いてるので、それも三つくらい右を狙って撃たないと駄目か。
俺はもう一度寝転がり、バツ印の右上を狙い撃って、もう一度隣のスコープを覗くと、大体バツ印の真ん中だった。
スナイパーってすげぇなぁ。ゲームの中で遠距離から殺された事があるけど、風の影響と重力とか、動いてる速度とか体に覚えこませてるんだろう。なんせ息の長いシリーズだからな。
その息の長いゲームで、俺は盾をずっと使ってた訳だが……。
そして俺はもう一本の狙撃銃、正確には対物狙撃銃のマクミランTAC-50を取り出し、先ほどと同じ可変スコープで覗き、少し右上を撃ってみる。
こいつは、50口径っていうかなり大きな弾を使うし、反動も音も大きい。しかも一キロメートルくらいまで狙える奴だ。まぁ、弾が大きいから、それなりに弾が飛ぶってやつだ。ミリに直すと約12.7mmらしい。かなり大きいよなぁ。
撃つと爆発音のような音が辺りに響き、ボルトアクションという一発撃ったら手動で弾を排莢する銃なので面倒くさいが、撃ったら自動で弾を排出する銃より、精度が上がるらしいのでこれを選んだ。
隣のスコープで当たったか覗こうとしたが、バツ印の部分に少し大きな穴が開いていたし、木屑が裏から零れ落ちてるのが見えた。
これはやばいな、流れ弾で他の冒険者とかが危険だ。今日は切りあげよう。
そう思ったので、さっさと切り上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます