第4話 どうしてこうなるんだ? 前編
町から町へ移動し、金がなくなったら討伐を繰り返しつつ、ついに国境と隣接する町についた。
そして、国境を越えられるかを試そうと思う。こんな国からさっさと逃げ出したいからな。
PMC風装備に、ローブである程度偽装は出来てる。情報もある。金もある。
国境は、ある程度の金と身分を証明できる物があれば越えられるらしい。簡単だな。
普通の一般人にも、冒険者のギルドカードとは別にカードがあるらしく、問題行為を起こして兵士に捕まったら犯罪歴が付くらしい。
俺は荷物も奪われ金が欲しいって理由で、冒険者ギルドで一般人のカードの提示を求められなかったらしい。
まぁ、特例っぽかったけどね。
そして乗り合い馬車で、俺は国境の関所に向かう。
関所に着いたら馬車から降ろされ、一列に並ばされる。
広野に小さい砦があり、遠くには
「次ぃ!」
俺の番が来た。小部屋みたいな場所に通され、冒険者ギルドのカードを提示し、国境を越える為の金をテーブルに置く、すると簡単な質問をされた。
「冒険者みたいだが、まだランクが1なんだな」
冒険者カードを確認し、裏に書いてある持ち主の特徴みたいな物も確認している。
「あぁ。依頼をするより町周辺の魔物を狩って、小銭を稼いだら次の町に次の町にってのを繰り返してる」
「のわりには、アラバスター発行なんだが?」
「故郷が寒村で、それが嫌で逃げ出した。アラバスターまではどうにかしてたどりついた。そこで発行してもらったからな。金もない、腹も減っている。だから手早く稼げる冒険者だ」
小さな村では、一般人にはカードがない事は途中の町の酒場で確認済みだ。ってか偽の情報何個作ったんだっけ? そろそろ二桁に届きそうな気がする。
「なるほど、武器は……肩のナイフと……。腰の短い刺突剣か」
「あぁ、良いのはまだ手が出せない」
装備覧にあった古いタイプの銃剣だけを選択し、事前に装備してるからその辺の偽装も問題ない。
「そうか。犯罪歴もないし問題はないな」
兵士はそういうと、ギルドカードの右上に鉄の棒みたいな物を当てて、ハンマーで軽く叩いてへこませた。
このちょっと変わったマークが、国境を正式に越えた証拠になるのか。夜に越えると、このマークが刻印されないんだな。なら櫓は隣国への警戒か。兵士をよく見ると鎧が違うな。いままで帝国って事で、鎧がバラバラでも気にしなかったが、ここは二つの国の兵士がいるな。
そしてどっちかの国が侵略を始めると、さっきまで和気あいあいと話してた奴と殺し合いが始まる。大変だな。
そんな事を思い、乗り合い馬車全員が無事国境を越えて近くの町で停車した。
帝国から逃げ出す事は出来たが、全くのノープランだ。しばらくは似たような事をして、金を稼ぐしかない。
◇
一ヶ月後。
俺は国境から一番近い街にいる。名前はルチルだ。とりあえずここを拠点にしている。
装備は相変わらずPMC風装備だが、依頼を受けてなくても、弱い魔物の討伐数だけでギルドランクは3に上がり、初心者用の安い宿は使えなくなった。
仕方がないのでスラムに近い、下級区の一階が酒場になってる宿に長期滞在予定で寝泊まりをしている。
なぜここに決めたかというと、情報収集の為に街の中を色々回って、風呂が近いのと、名前が気に入ったから入った。
死者の軍隊ってなんだよ。厨二かよ!
それと一番の理由は、カウンターに立ってたのが好みの女性だったからだ。
見た目は二十五歳程度で、髪は薄い紫色の藤色に近い活発な印象を受けるショートカットだけど、左目だけを隠すように前髪を長くして、飾り気のないヘアピンで右目だけを出している。
そして身長は俺の目線くらいでスレンダーだ。スレンダーはいい。あの緩やかな胸のカーブは見てて目を奪われる。
それと服にこだわりはないみたいで、白の半そでのシャツに厚手のズボンや茶色のロングスカートが多い。正直地味だが、街で見かける女性と比べても、さほど変わらない服装だ。
目も髪と同じ藤色で三白眼、そして目付きが悪い。振り向いた時に見えた左目には大きな傷があった。過去に何かあったんだろう。聞くようなヤボな事はしないけど。
ただ、右耳にはピアスが目立つくらい多く付いていた。多分左目の傷が目立たないように視線誘導でもしているんだろか?
個人的にはもう少し体のラインが出てる服装にしてくれればいいんだけどね。今より少し小さいシャツとか。
あとテーブルを拭いてる時に、ボタンとボタンの隙間が開き、下着が見えるのもいい。健気なおっぱいがいい。ズボンも下着のラインが見える時があるのもいい。インナーシャツのキャミソールタイプもいいね。おっと、色々明後日の方向に思考が行ってた。
「今日の朝食はなんですか? グリチネさん」
「いつもと同じよ」
いつも通り少しだけ不愛想なのも慣れてきた。そしてこの麦だけのオートミールと干し肉とザワークラウトにも……。
安宿だからってこれはねぇわ。素泊まりで近くの食堂に行った方がましかもしれない。
押し麦のシリアルなら、粉っぽくて好きだったんだけどな。
栄養的には問題ないけどさ……。
「ごちそうさん」
「お粗末様……」
俺は出された朝食を食べ終わらせ、冒険者ギルドに行く事にするが、俺が食べ終わったのを見計らって、煙草に火をつけて洗い物をしている。一応食べてる時には吸わないんだな。
今日の依頼だけど、朝一で掲示板に群がってるのを見に行くのが面倒だから、余り物を選ぶ。別にゲームをやってた頃は、ランクなんかは気にしないで遊んでたから、ある程度のお金が手に入れば問題ない。
ふむ、北の方の森にオークの群れが現れたから討伐か。最低討伐数は決まっていないで、討伐部位持ち込みだけ、ランクは3か……。余ってる物で良い感じのはこれくらいか。けど少し遠いなぁ、まぁいいか。
ちなみにだが、時間の概念が殆どなく、太陽一個分傾くと三分から五分程度っぽい事がこの世界に来て、二週間程度でわかった。
距離の概念もなく、徒歩で太陽一個傾くくらいとか、馬車や馬で一日って表現が多い。
乗り物もMAPに初期配置してある奴なら乗れるけど……。この世界じゃまだ馬しか見た事ねぇ!
いや、ゲーム内に馬とラクダあったけどさ。なんかゲームと違って繊細そうだし……死なれたらって思うと、可哀相だしなぁ。
ってな訳で片道三時間の歩行開始。
□
国境を越えたが、強化アーマーは噂とかが怖いのでほとんど装備せず、マルチカム迷彩に盾を装備して、相変わらず自動拳銃のmk23にサプレッサーを装備した物を、魔物の目撃情報のある付近で装備を変える。
個人的な考えだが、オークって人やエルフを性的に襲うイメージしかないが、豚の睾丸とか見ても大きいし、精液の量が動物の中でも多かったりして、そういうイメージが付いたんだと俺は思ってる。
まぁ、魔物と動物を比べても仕方ないけどね。
それとこの世界には、人族と魔族が分かれてて、それとは別に魔物がいるらしい。
魔物っていうのは理性がなく、凶暴な動物と同じで集団で行動してたりすると聞いた。
魔族だが知性と理性があり、会話も可能で人族と繁殖も可能らしい。現に人に見た目が近い魔族は結構人気があって、子供とか作ってるみたいだ。
確かに街で猫耳っぽいのを見た気がする。ここは人族の大陸だから、圧倒的に魔族が少ないらしいけど。
さてさて、未開拓の森っぽい所についたが、固まってる光点がちまちまある。一番近い単独してる物から行ってみるか。
んー。人がけっこう多いな。人気の狩り場なんだろうか? ってかオークが大きいな。ランク3なのは納得だ。だって五人から六人で囲んでるし。
前衛、後衛、回復、遊撃。こう見ると、結構しっかりしてるな。一人の俺が浮く……。
早速単独行動しているオークの脇に出るが、肩が大きいし、脂肪も付いてるので首が狙いにくい。頭を狙っても良いけど頭蓋骨で弾が滑らないか心配だ。
まぁ、とりあえず撃つけどな。
盾を構えたまま、盾の縁に銃を乗せ、片手で狙いを付けて引き金を引き、六発ほど打ち込む。
頭に当たった弾で滑ったのは一発で、それは皮膚の表面が削れ、大抵の弾は頭蓋骨を破壊できた。良い感じだ。このまま続けよう。
ちなみに討伐部位は鼻だ。そぎ落とすと、特徴的な鼻の形と向こう側が見える穴。なんかゴブリンより嫌だな。
次は肩や腕を狙うが、移動速度や攻撃動作が遅くなるだけで、ダメージが通ってるように思えない。胴体を狙っても同じだ。
熊の胴体に、警察が威力の弱い銃で撃ってるのとあまり変わらない感覚だろう。残りの弾を全て胸に打ち込み、二匹目も倒して鼻を削ぐ。
火力不足を感じる……。動きも直線的だし盾はしまうか。
そう思い、左手前腕のタブレットで装備を変更する。
メイン装備は、某アメリカ社の
ショットガンは大抵の物は上下二本の筒で、下が弾を入れる場所、上が弾を射出する場所になっている。だから弾を込める時は、下の部分から押し込むようにして入れていく。
ってか、好きな銃メーカーから散弾銃が出てないからこれを選んだ、だから散弾銃にはこだわりがあまりない。
強いて言うなら、普通でメジャーな物だからこれくらいしか使ってない。残りは変な散弾銃を愛用している。
弾もなんだかんだでメジャーな
物凄く大きな一発の弾を飛ばしたり、小さな矢を何本も飛ばしたりもできる。むしろ現実世界だと、シェルと言われる弾が入ってる筒に入れられればなんでも飛ばせるっぽい。弾を飛ばす筒の中が傷つくかもしれないけど。
動画サイトで見てたのでは岩塩とかゼラチン、水とかゴムとか鉛筆を飛ばしてたし。本当銃社会の動画って怖いわー。
ってかゴム弾とかは物凄く痛くて、死んだ方が気分は楽だったかもしれない、とか言われてるくらい痛いらしい。ゲームでは数秒間昏倒する設定だったけど。
まぁ、散弾銃自体は威力はあると思うよ。条件がそろえば熊の顔半分吹き飛ばせるらしいし。
そう思いつつ、討伐部位を無視して走って来たオークを、十五メートル程度までひきつけてから頭を撃ってみたが、一発目で顔が
大型の魔物なら、散弾銃でも問題ないな。
俺はベルトにあるシェルキャディーと言われている、弾を入れておく場所から弾を取り、銃の弾倉にあたる下の筒に弾を込めていく。
ポンプアクションの散弾銃は、これがネックだよなぁ。けどカチャカチャ入れるのは浪漫だよね。
マガジンタイプのセミオートの散弾銃でもいいけど、急に違う弾を撃ちたい時に、
理由? かっこいいからって理由だけだけどね。
エジェクションポートって言うのは、撃った後にフォアエンド……弾を排莢する時に手前に引く奴だ。それを引くと撃った後の空になったシェルがそこから飛び出す。
それを引いたままで、弾をそこから入れて、フォアエンドを戻せば直ぐに撃てる。
つまり急に弾を変えたい場合は、そこに一発だけ入れれば別な弾が直ぐに撃てる事になっている。
まぁ、M1216とかベネリM4とか言われてる物でもいいんだけど、ポンプアクションの散弾銃を今は使いたいので、M870を持っている。
リロードとか装弾数、瞬発火力が必要になったら他のを持つけどね。
普段? RMB-93っていう、構造が上下逆になってる散弾銃を、今持ってる銃と同じくらい使っていた。
蓋を開けて上から弾を入れて、下の筒で撃つ。理由は変わってるから……。
FPSのゲームで、
□
ある程度オークの胸元に穴を開け終わらせるたびに、散弾銃のリロードを済ませ、今は水を飲みながら、手ごろな倒木の上で休憩を入れていた。
そしたら光点が大量にこちらに向かって来た。こいつはヤバそうだ……。
「たのむ! 逃げてくれそこの人!」
森の入り口近くで見かけた五人組がこちらに向かって走ってきた。後ろにはオークが三匹。対処しきれなくて逃げて来たらしい。
これが
俺は立ち上がり、そのまま散弾銃を構え、オークの膝を狙って撃つ。膝を撃たれたオークは、豚に似た叫び声を上げながら地面に倒れ、そのままの勢いで地面を少し滑っていた。
俺はフォアエンドを引いて、散弾銃独特のガッシャンという音と共に、撃ち終わったシェルを排莢し、別のオークの膝を狙って引き金を引いて、残り二匹も同じように処理した。
そして倒れているオークの首辺りを狙い、全てのオークの息の根を止め、辺り一面血だらけにした。
そしてそのまま、流れるような動きで六発分の弾を込めていく。あと一匹いたら弾がギリギリだったな。
チューブには七発、そして弾を撃つチェンバーに一発で合計八発。最悪太ももの自動拳銃も必要だった。
「おい、こいつの討伐部位だけどよ。一匹分貰うぞ」
それだけ言って、つま先で顔を蹴って倒れてる頭を横に向け、鼻を削いで逃げるようにして森の奥に向かった。
「はぁ。ああいうのは呆けてるうちに逃げるに限る……」
地の方で愚痴を言い、俺はそそくさと逃げだす事にした。
□
俺はしばらくしてから街に戻り、門が締まるギリギリには街に入る事が出来た。
ギルドに行こうとしたが、門が締まる一時間前くらいまでしか業務をしていないので、そのまま宿に戻る。
「戻りました」
「……おかえり」
相変わらず愛想がないが、まぁ気にしない。そして俺は風呂の準備をして近くの銭湯に行く。
正直この世界に風呂の文化があって良かったと思ってる。最初に風呂に入れたのは、帝都から逃げ出したあとの最初の街だったからな。
それまでは下着だけになって川か、ペットボトルの水を頭からかぶって体を拭いていただけだ。やっぱり日本人としては風呂に入りたい。
一応夜は酒場にもなってるので、少し賑わってる中を桶を持って外に出る。
風呂に行く時は装備を変更する。愛用の自動拳銃は水に浸かっても撃てるが、やっぱり水に浸かると心配事が多い。なので
回転式拳銃は水に浸かっても素早く全て水が行き渡るし、排水もできる。そして引き金を引けば撃てる。構造が複雑な自動拳銃だと、色々と細部に気泡が残ったり排水できてなかったって事で動作不良が起きやすいらしい。
選んでいる銃はMP-412というちょっと変わった奴だ。大抵の奴は、シリンダーが横に飛び出るが、この銃は中折れ式で、半分にパカパカ折れて撃った弾を交換する。
なんでこれを選んだかと言うと、変わっているからだ。こだわりがなければ、ゲーム中の判断基準は使ってて面白い、変な銃に行く事が多い傾向だった。散弾銃でも変なのが好きだし。
まぁ水に入る場合は、回転式拳銃がなんだかんだで一番問題が少ないって聞いていたから持ってるだけだ。
水中銃とかあるらしいが、ゲーム中にはなかったから選択はできない。
銭湯に付き、お金を払ってPMC風装備を脱ぎ、蓋のないロッカーにぶちこむ。鍵がないのが心配なので、皆余計な物を持って来ていない事が多い。むしろ入浴の文化があまりないのが気になる。
俺なんかほぼ毎日通ってるが、顔見知りになった人は一人もいない。この前見かけたような? って感じの人が多い。
俺は全て脱ぎ終わらせると、拳銃をタオルで巻いて桶に入れ、体を洗ってから風呂に入る。
「あ゛あ゛あ゛~~」
やっぱり風呂に入らないと駄目だな。汗や返り血とかでなんか気分が悪い。装備を変えれば返り血とかは消えるけど、本当に気分の問題だ。
風呂に浸かる時は頭にタオルを巻き、拳銃を風呂に沈め、出る時に素早く桶に戻す。これが今の入浴スタイルになっている。
そして下品な話だけど、アバターの中身……ありました……。
排泄、男性特有の生理現象、性欲処理。えぇ、全て問題なかったです。問題だったのは、リアル世界のより大きかった事ですかねぇ……。
なんか、こう……。違うんだよなぁ……。
□
俺は着替えを終わらせ宿に戻り、タオルを干してから太ももの拳銃を使い慣れた物に戻し、一階に行って食事を貰う。
特に注文がなければ、日替わりでそれっぽい物が出てくる。
今日の夕食は、厚めのベーコンとザワークラウトとパンだった。
「すまん、今日もビールを付けてくれ」
グリチネさんに注文を言うと、短い返事をして目の前にビールが運ばれて来た。俺は厚めのベーコンを嚙みちぎり、ビールを一気に飲み干して魂の叫びをあげる。
なんだかんだで、この世界のビールは香りがいい。外れだと酸っぱいけど。
そしてザワークラウトやパンも食べ、食器をカウンターに戻して部屋に戻る。
俺の中でこの世界でもビールは、一日の終わりに区切りをつけるスイッチみたいな扱いになっている。
まぁ、特にやる事もないからもう寝るんだけどね。
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