第3話 夜目が効くって素晴らしいな 前編
翌日。俺は非常食を多めに買い、アクセサリーで付けられるタクティカルバックパックに無理矢理突っ込んだ。これは、昨日宿屋で試しに装備変更をしてみたら、背中から下ろせてファスナーも開けられたので、物が入るのを確認済だ。
試しに枕を入れて装備変更をしてみたが、リュックだけ残った。異物があると戻らないし変わらないみたいだ。
試しに強化アーマー装備で、バックパックが似合いそうな物を探したが無かったので、アクセサリーで付けられる一番デカいバックパックを選び、普段からそれを背負い、強化アーマーの時はなぜか脱着式になっている。不思議だ。
それに不便だ……。普通はインベントリー的な物とかがあるだろうに……。まぁ、元のゲームが戦争系FPSだから仕方ないし、なぜか増え続ける弾丸に重さを感じないので、それはチートと呼んでもいいだろう。ならこれくらいなら我慢するべきだな。
こんな世界観で銃が使える時点でチートだけどな。
それと、敵の場所を探る
つまり衛星や、友軍の支援全般は駄目だと言う事がわかった。本当に俺だけがこの世界に来たみたいな感じだ。
無人航空機や、空爆できる戦闘機を飛ばす施設がなければ無理だよな。しかも衛星を経由して情報が届く詮索系も無理。当たり前か。
四枚羽タイプなら衛星がなければ、GPSがないからただのラジコンヘリになる、中にジャイロも付いてるから、ある程度の水平は保てる。カメラを使えば偵察にも使えるだろう。
銃もつけられるし最大積載量は四十キロだが、バッテリーの稼働時間とかを考えれば、二十キロまでが妥当だな。
俺は緑と茶色のマルチカム迷彩に、食料を詰め込んだバックパックを背負う。そして武器は森林なので、自動小銃より短くて取り回しの良い短機関銃を選ぶ。
昨日のMP5A4から同じ短機関銃のUMPという銃にサプレッサーとホロサイトを付けた物に変え、早速ゴブリンだと思われる光点を見つけ、試射しに行く。
武器を変えたのは少し威力不足を感じたからだ。だから今回は弾が少し大きな物を選んだ。
口径の小さい銃とは違い、昨日の武器より少しだけ大きな音が射撃時に出るが、自動拳銃のmk23と同じ口径なので反動が少し強い。
今度は落ち着いて肘や膝を狙ったが、昨日とは違い部位破損も確認できる。もしかしたらモンスター相手ならこのくらいがちょうどいいのかもしれないが、見た目の大きさや状況で決めて行こうと思う。
□
朝から狩り続け、そろそろ日の入りの時刻。二日連続で明るいうちに町に帰ったが、今日は違う。堅いパンと塩辛い干し肉を水で無理矢理胃に流し込み、夕食を手短に終わらせ、ヘルメットに四ツ目の暗視ゴーグルをつけているので、それを目の辺りまで下ろし、そのまま狩りを続行する。
これもゲームと同じで、多少視界が狭くなるが、景色が緑色になって、薄暗くても良く見える。バッテリー? ゲームの世界じゃバッテリーの概念がなかったから、今日の夜から明け方まで使い続け、どうなるかテストをするつもりだ。
最悪城壁の方まで逃げるか、赤外線スコープの装備に切り替えて逃げるので問題はない。
視界に見える時計は午前二時を過ぎた。薄暗くなり始めた頃から使ってるから、六時間以上は連続使用している。
装備、MAPに特に問題はないが、眠気と疲労が出てくる。
俺はあくびをしながらMAPに表示された光点に向かって歩く、この時間帯は魔物も寝ているのか、岩の陰で寝ているゴブリンの胸か頭に一発打ち込むだけで済む。
しばらく歩いていたが、光点が十数個一気に現れ移動している。夜行性の動物だろうか?
光点の方向を向いて様子を伺っていたが、狼のような生き物が歩いている。大型犬よりかなり大きいけどな。
俺は左手で、ポーチから手榴弾を取り出し、ピンを抜いて思い切り狼の方に向かって投げる。銃はスリングという紐が付いているので、手放しても地面に落ちることはない。
空中で安全レバーがはずれ、地面に付くと同時くらいに爆発し、狼の群の先頭が一匹だけ倒れたのでそのまま
慌ててたので短機関銃は撃ち切って弾切れになっている。リロードしてる時間が惜しいのでさっさと手放し、紐が少しだけ邪魔だが、胸から
どうしても一匹だけ弾が足りないので、左手に自動拳銃を持ち、マガジンを捨てながら、右手で左肩のナイフを抜いて顔面に切りかかる。
狼は少しだけ怯んだので、ナイフを放し、胸のマガジンポーチからマガジンを取り出して自動拳銃に差し込み、スライドが戻ったら五発ほど連射し、全ての狼を殺した。
「ふう、手榴弾を使わないで、遠距離で撃っとけばもっと安全だっかな」
ため息をもらし、自動拳銃のマガジンをもう一度交換してから元に戻し、短機関銃のスリングをたぐり寄せ、こっちもマガジンを交換し、水を飲んで一息つく。
「おー怖い怖い。一度に十数匹は怖いな」
独り言を漏らし、事前に教えてもらっていた討伐部位の尻尾を切る。皮とかよくわからないからな、そのままだ。むしろ穴だらけで使えるのか?
こいつは
朝日が昇ったので、俺は街に戻り服装をPMC風に変えてからギルドに向かう事にした。
ちなみ暗視ゴーグルのバッテリーは平気だった。
朝一だからな、すげぇ混んでる。俺は部屋の隅のイスに座り、一時間ほど待機して、空いた頃に討伐部位買い取りの受付に座る。
「朝一ですまねぇが、少し多めだ」
「かしこまりました」
夜中に門が閉まって、街に入れない奴だと思われただろうか? それとも夜通し狩りに出かけていたと思われただろうか?
朝一で、討伐部位を大量に持ってきても驚かれないし、後者だと思いたい。
「査定が終わりました。今回の報酬の一割で、ギルドカードの返済は終了です。余剰分は査定額に戻しておきましたのでご確認下さい。ありがとうございました」
「あぁ、こっちこそ朝一ですまなかったな」
お礼を言い、俺は干し肉と堅いパンを十日分買い、ギルドを離れた。
そして日用品と、古着のくたびれたボロいローブを買い、香辛料やドライフルーツも多めに買う。そして門の入り口にある、人混みに向かう。
多分だが乗り合い馬車的な物だと思う。
「すまねぇが、この金で行けるところまでいける馬車を探してる、同業者か商人でいないか?」
馬の近くにいた、多分御者ぎょしゃと思われる人に話しかける。文字が読めないし、地理がわからないからこの手しかない。さっさとこんな場所から抜け出すに限る。
「……あぁ知り合いにいるぞ、付いてきてくれ、口を利いてやる」
「助かる」
俺は大人しく後を付いていき、紹介された商人に大銅貨五枚ほど残し全額渡した。
残りは現地に着いてからの宿代だ。一泊して、何か狩ればまた泊まれるだろう。
そして俺は帝都を抜け出した。
「そういやよー、あんたはなんで旅をしてんだ?」
帝都を出て、幌付き馬車の裏に座っていたが、出発して五分で護衛の男に話しかけられた。
円滑な対人関係はものすごく大切だ。なので俺もそれに答える事にする。
「あぁ、故郷の村に嫌気がさして、各地を放浪してるだけだ。ある程度魔物を狩って、金が貯まったら次の街。簡単だ。さっきみたいに適当に乗せてくれる馬車を探せば行き先は、商人か乗り合い任せ。町や村の名前が知らなくても遠くに行ける。今回はなんか犯罪者に間違われて、嫌気がさしたから路銀を稼ぐのに徹夜で狩りをしてた」
「あー、炭坑暴動の事件か、そりゃ災難だったな」
「あぁ、背格好が似てるってだけで、首切ってる隣まで連れて行かれた。あれには驚いたな」
「そんなそっくりなのか?」
「らしいな。炭坑から逃げ出した奴が、堂々と綺麗な服着て歩いてるかって言ったら釈放された。少しは考えてほしいぜ」
まぁ本人なんだけどね。
「確かにそうだな。ボロい汚れた服で逃げた奴が、普通の服装で堂々と歩いてるはずがねぇな。いやーおもしろい話が聞けたぜ」
「あぁ、おもしろいと思ってくれたなら助かる。さっきも言ったが、さっさと街を出たくて徹夜で狩りをしてた。すまないが寝かせてもらうぞ」
「おう、ほぼ無一文なのはわかってるから荷物は安心しろ」
「そいつは素敵だ。安心して寝られる。何かあったら起こしてくれ、護衛込みであの値段らしいからな」
お互いに少しだけ鼻で笑い、俺は寝る事にした。
□
夜になったが、昼過ぎまで寝ていた俺が夜の見張りになった。まぁそれに文句はない。
何かあれば大声で起こせば良いだけだからね。
周りにはほぼ何もない整備された街道。よく見れば、道の回りに野営の後が多いから、この辺は野営場になっているんだと思う。
よく見なくても、遠くで火が見えるので、向こうの方でも野営をしているんだろう。
光点をみる限り全部で六人、離れたところに二人いる。多分位置的にこの二人が見張りだろう。
そして俺はさりげなく頭にサーマルゴーグルを付け、確認の為に適当にその辺を見回したりする事にした。
しばらくして、視界内の光点の数が増えたので、今夜はサーマルゴーグルを試しに装着し、増えた方角を見る。
んー、白い人影が見える。手に何かを持ってるような動きだし、たまに黒い棒みたいなのが白い人影を横切る。解像度が多少荒いからまだ武器かどうかはわからないが、熱を持ってない何かを振り回してる証拠だな。
俺は急いで端末を操作して、軽機関銃ライトマシンガンのMG4を選択し、装備にはサプレッサーと、ACOGの上に小さなオープンドットサイトが付いてる奴を取り付け、サイドアームには、短機関銃のMP7のショートマガジンにサプレッサーを選択する。
個人的なエゴになるが、自動拳銃みたいに握る場所グリップにマガジンを入れるタイプの銃は、サイドアームにする時はマガジンが飛び出てるのが嫌いなので、極力飛び出さないタイプを選ぶ事にしている。
扱い的にはマシンピストル風だな。
メインウエポンにする場合は、ホロサイトみたいなアクセサリーを付けて、ロングマガジンにするけどね。
そしてなんで軽機関銃を選んだかと言うと、人数が多かったから一マガジンで百発撃てる物を選んだ。それに逃亡中なので強化アーマーは着れないし、盾なんかもってのほかだ。
「おい、起きろ」
俺は寝ていた護衛を起こす。
「起きあがらずにそのまま聞け。たき火に影が映ると一気に襲いかかってくる可能性がある。俺が腕を伸ばしてる方向に、約四十人くらい武器を持った奴等がいる。松明たいまつを持ってないから怪しすぎる。多分盗賊の類だろう。馬車の数が少ない時だけねらう奴かもな。距離は百メートル以内。かなりゆっくり歩いてるからまだ時間はある、転がりながら移動して、雇い主を起こし、最悪逃げられる準備しろ」
「お、おう」
俺は二脚バイポットを立て銃を置き、その場にうつ伏せで寝転がる。
視界内の弾数は100/226になっている。軽機関銃も一秒で一発回復だ。
「俺が合図をしたら大声で、進行方向側の馬車の護衛にも聞こえるように叫んでくれ」
「お、おう?」
俺はサーマルゴーグルを装着し、ACOG越しに白い人影をとらえ続けた。
「これが盗賊じゃなかった場合どうなるんだ?」
俺は心配なので護衛の奴に話しかけ、盗賊かどうかを確認する。
「戦わなくてすむな」
「皮肉か?」
「まぁ大声で盗賊だと叫べば、逃げるか襲いかかってくるかすると思うから、それで判断するしかないんじゃねぇか? 夜中だし。で、なんで寝転がってるんだ? それは何だ? お前こそさっさと準備しろよ」
「これは俺の武器だ、変わった弓だと思ってくれ」
距離約五十メートル。月がでているから、もしかしたら見える奴は見えるかもしれない。
「本当だな。武器持ってる奴が多い」
すげぇな。俺なんかサーマルゴーグル越しじゃないと何も見えないぞ。
「今だ」
「盗賊だぁ! 盗賊だぁぁぁ!!!」
「畜生! ばれてやがった! 手はず通りに分かれろ!」
そんな声が聞こえ、視界内の光点を見ると焚き火側の二人が動き、盗賊達の動きは一気に早くなったので、焦点を正面に戻すと、二班に分かれて走り出している。
俺は引き金を引き、サプレッサーで多少減音された射撃音が鳴り、こっちに向かって走ってくる盗賊達をどんどんなぎ倒しいていく。
ついでに撃った時に出る
四十発ほど使い一組目の奴等が全員倒れたので、急いで銃を持って立ち上がり、二組目も狙いを付けてなぎ払っていく。
二組目は進行方向側の馬車を狙っているのか、こちらには来ず、横に向かって走っているので撃ち漏らしが多く、残りの弾を全て打ち切り、銃身が熱で真っ白に見える軽機関銃を置く。
そして太股から
「ふう。終わったぜ」
「なんだよその武器は……。弓じゃねぇだろ!」
「言っただろ、変わった弓だってな」
俺はサーマルゴーグルを外し、リロードをするのにチャージングハンドルを引いて上のカーバーを上げ、空になったマガジンボックスを外し、左腰になぜか付いてる軽機関銃のマガジンボックスを取り出す。
ベルトリンクで繋がってる弾を少し引っ張り、マガジンを銃に引っかけてから、弾をセットし、カバーを閉めて弾を装填した。
軽機関銃は、この作業が地味に面倒だし、慣れないとかなり遅いんだよなぁ。
「さて、何か叫んでたから盗賊だと思うが、俺は奴らの装備や金に興味はない、話し合って取り分を決めてくれ。護衛はしたが、俺は一応金払って乗せてもらってる身だからな」
倒した盗賊の後処理なんか知らないから、それっぽく振る舞い、短機関銃のマガジンも交換して太股に戻して水を飲んだ。
「まぁ。今でも朝でもいいから、俺抜きで話し合ってくれ。俺は朝まで護衛だからな」
そういって、焚き火の前に陣取り、色々丸投げした。
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