死体女優 

みつお真

怨1 カクスグリフス

昭和35年、6月1日。

神奈川県北部、生田宿村三峯地区1055・大村高広邸が全焼した。

焼け跡から性別、年齢不祥の2名の焼死体が発見されるが、後の検死解剖により大村高広〔28)と、ホステスの木村美津子〔21)の遺体であることが判明した。

大村と同棲していた児玉詩織は行方不明となっている。

遺体は炭化が激しく、死因は特定出来ないまま一ヶ月が過ぎた。



7月2日。

同地区根本神社の太郎池で、近所に住む鎌田大機くん〔7)妹の鎌田佳子ちゃん〔5)の水死体が発見された。

同日、境内の祠の側でも子供の遺体が発見された。

大機くんと同級生の松井実くん〔7)

死因はいずれも脳挫傷によるもので、死後3日が経過していたと思われる。

この数日前、根本神社の鳥居に佇む若い女の姿が目撃されており、その証言内容から行方不明となっている児玉詩織であると多摩川警察署は断定。

緊急配備と共に児玉詩織を指名手配した。


7月7日。

登戸・多摩川河川敷にて、入水自殺を図ろうとした児玉詩織を、漁師の福地武生が保護し多摩川警察署へ通報。

同日18時32分緊急逮捕となる。


昭和45年。

殺人罪。遺体損壊及び放火の罪に問われ死刑判決。

心神耗弱、精神分裂とする弁護側の主張は認められず、また児玉詩織本人の意志で上告申請は取り下げられた為に死刑が確定。

容姿端麗な詩織が犯した連続殺人事件の内容を、当時のマスコミは挙って取り上げた。

週刊ズームと週刊セブンティーンに、大村高広と木村美津子の遺体の写真が掲載されると、他社もセンセーショナルな情報・主に現場の写真やフィルムに多額の協力金を出した。

捜査資料は簡単に流出したが、責任を問う声は皆無に等しかった。


昭和47年11月。

児玉詩織の死刑が執行される。

遺骨の引き取りには誰一人として名乗り出なかった。

詩織は生前、獄中にて詩を唄っている。


ひとりぼっちで生まれ、ひとりぼっちで死んでいく。

私は蓮の花。

沼の底よりもなお、深くていじらしい。

わたしは蓮の花。

白痴で愚かな蓮の花。

暗闇。あやかし。無垢な心。

どうせなら。

誰一人、虫けらでいて下さい。

世の中が真っ当で。

生糸の先端を、蜘蛛が這いずり回る罪悪感に苛まれることなく。

漂ういのちに鎮魂と尊厳を焚べながら。

いつもと変わり無く。

幽かに。

怨を抱いたまま。

蟲に喰われる私の亡骸を。

どうぞ、笑ってやってくださいな。


ヨガマサノ、キイトキレルヤ、カスラムシ。



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