第220話 おっさん、ゴーストを討伐する

「ムニさん、指名依頼入ってます」


 何だろう。

 特殊な採取かな。


「昼間の依頼でない限り受ける」

「アンデッドの討伐です。かなり厄介な相手で、今まで3パーティが失敗しています」

「勿体ぶらずに早く言え」

「ゴーストの討伐です。資料は揃えておきました」


 資料を読む。

 主に夜に出て来るモンスターのようだ。

 他のアンデッドと同じでコアがある。

 ただし体が魔力だ。

 物をすり抜ける。


 魔力が金属だと分かっているが、どういう物なんだろうな。

 素粒子と金属の合いの子だったりしてな。


 体には攻撃できないが、とにかくコアを潰せば解決だ。


 ゴーストの出現現場は街道の分かれ道近くだった。


「なかなか出て来ないな。なあ、ポチ」


 ポチからの返事はない。

 一瞬、ヴァンパイヤに作り替えようかとも考えたが。

 渇きに負けて人の血を吸わないとも限らない。

 辞めておこう。


 ほら、お出でなすったぞ。

 ぼーっと燐光を放つ物体がやってくる。

 俺は鉄アレイをぶん投げた。


「外したか。コアの場所が分かりづらいんだよ」


 ゴーストは俺に接近すると衝撃波を放った。

 ヴァンパイヤの体を吹き飛ばすほどの威力ではないな。


 ゴーストは俺に密接した。

 むっ、何だ。

 何かされたような気がしたが、どこも変わりが無い。

 ああ、資料にあったドレインタッチという奴か。


 触られると体調不良を起こすのだったな。

 生気を吸い取られると書いてあったが、アンデッドに生気なんて物はない。

 じゃ、コアを潰しますか。

 両手でゴーストを抱きしめて、コアを潰す。

 ゴーストのコアが潰れ魔石を残した。

 ゴーストの体の中に魔石なんて物は見えなかったぞ。

 こんなのどこに隠してた。


 それと気づいた事がある。

 指に霜がついている。

 何だこりゃ。


 ええと生気を吸い取られたら氷点下になるのか。

 そんな馬鹿な。

 きっとゴーストの能力は体温を下げるだな。

 触られた奴は低体温症になる。

 そして、酷くなると凍死する。


 きっと生気を吸い取られたように見えたのだろうな。

 どうやって冷やしているのかな。

 魔力を使って分子の振動を止めてたりするのかな。

 やってみるか。

 衝撃波を出す要領で魔力を出す。

 その魔力で分子の振動を止めるように動かす。


 かざした手の先にあった草がキラキラとした霜をまとう。

 成功したな。

 そういえば、マジシャンスケルトンがどうやって火を点けたのか考えてなかったが、これの反対だな。


 次は魔石の謎だ。

 魔石がゴーストから出て来たということは、魔石は魔力の塊なのか。

 魔石を金属操作しようとしてみた。

 できない。


 魔力が不活性化状態になると魔石になるのかもしれない。

 今の段階では分からない。

 謎を解いたところで、どうという事はないしな。


「依頼終わったよ。これ、ゴーストの魔石」

「お疲れ様です」


 ギルドでの依頼報告だ。


「いくつか新発見がある。ゴーストの攻撃だが、ドレインタッチは低温による攻撃だった」

「なるほど、報告ありがとうございます。厚着すれば、防げるのでしょうか」

「ゴーストの体は魔力だ。魔力は着ている物を突き抜ける。その魔力による攻撃だから、厚着しても無駄だな」

「ではどうすれば」

「焚火を燃やしておいて。触られたら、火に当たって回復する。これ以外は考えつかないな」

「なるほど、次の討伐の参考にさせてもらいます。本当に夜の戦闘に強いですね。まるで……」

「俺の取柄だからな」


 そろそろ、俺がヴァンパイヤだと疑う奴が出て来るかもしれない。


「握手して下さい」

「ああ、いいよ。そろそろ俺の強さに憧れる奴も出て来る頃だと思ったよ」


 俺は受付嬢と握手した。

 当然のことながら魔力を使って疑似体温を作り出している。


「温かいという事は、ムニさんは心が冷たい人ですね」


 受付嬢は顔が笑っているのに目が笑っていない。

 こいつ、俺がヴァンパイヤだと疑ったな。


「そうだな。だから惚れるなよ」

「ええ、惚れません」


 なんとか誤魔化せた。

 誤魔化せたよな。

 ブラックリストなんかに載ってないだろうな。

 ヴァンパイヤだけでなくギルドからも刺客が来るなんて冗談じゃないぞ。

 さっきの握手で疑いが晴れたと思いたい。


 しかし、次も厄介な指名依頼が来るような予感がする。

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