第218話 おっさん、天文観測に出かける

 あの職員の護衛で天文観測に出かける事になった。

 目的地の丘陵までスクーターを飛ばす。


「ここからは歩きです。草原なので大物のモンスターは、隠れる所がありません」

「そりゃ楽で良い」

「その代わり蛇に気を付けて下さい。ここで死ぬ人の大半が蛇に噛まれています」


 草むらだから蛇は見えない。

 だが、ヴァンパイヤの目には、生き物がはっきりと分かる。

 そらそこの茂みにホーンラビットだ。

 俺はダーツを投げた。


 声を上げる間もなくホーンラビットは息絶えた。


「夜目は利く方だ。蛇ぐらい分かる」

「それは頼もしい」

「俺が先導するから、その杖はしまっておけ。杖でいちいち確認しながら歩いたら、夜が明けちまう」

「これがないと不安で。蛇が出て来たらこれで首を押さえるのです」

「まあいいか。離れるなよ」


 夜の草原を月明かりに照らされて歩く。

 一応、ポチも出しておいた。


「ここまで来れば充分です」

「見たところ観測の道具を持ってないが」

「目測以外に方法があるのですか」

「定規みたいのを使ったりしないのか。俺も詳しくはないが」

「趣味ですからね」


「望遠鏡を売ってやろう」

「何ですかそれは」

「遠くの物が良く見える道具だ」


 俺は魔力通販で安い望遠鏡を買って出した。


「凄い。月があんなに大きく見える」

「太陽は絶対みるなよ。目が焼けて見えなくなるぞ」

「それは恐ろしいですね。光が焼くなんて、ヴァンパイヤみたいです」

「そうだな」


 俺はヴァンパイヤという単語が出たのでギクッとした。

 夜でなければその表情が職員にはっきりと分かっただろう。


「おや、今、一瞬でしたが、望遠鏡に空飛ぶ人が見えました」

「俺にも見えたよ。コウモリの翼を背中から生やした奴がな」


 やばい感じがする。

 俺のヴァンプニウムが同族の気配を感じ取った。


 飛んでいるのはヴァンパイヤに違いない。

 ヴァンパイヤは一直線にこちらに向かってくる。

 俺は職員にスタンガンを押し付けた。

 気絶する職員。


 これで俺がスケルトンになったり、ヴァンパイヤの回復力を使っても大丈夫だ。


「おやおや、面白い存在がいますね。気配はレッサーヴァンパイヤなのに知性がありそうだ。おまけにスケルトンドッグまで飼っている」


 ヴァンパイヤは俺のそばに着地した。

 茶髪の執事服を着た神経質そうな男だ。


「なんの用だ」


「逃げ出したレッサーヴァンパイヤを追っていたのです。匂いを辿ったらあなたに行き着きました」

「金髪のレッサーヴァンパイヤか」

「そうです。もしかしてあたなはあれに血を吸われて、レッサーヴァンパイヤになったのですか。おかしいですね。レッサーからはレッサーは生まれない。ヴァンパイヤからでないとレッサーは生まれない」


 こいつが敵だという事ははっきりと分かった。


「レッサーは俺が倒した」

「手間が省けたようで、結構です。そこに転がっている男を差し出せば、見逃してあげましょう」

「お断りだ」


「レッサー風情が舐めるなよ」


 歯をむき出して威嚇するヴァンパイヤ。


「同じモンスターなのに格付けか。おかしすぎるぜ。掛かってこい」


 ヴァンパイヤは目に見えない速さで俺に殴り掛かってきた。

 俺のヘルメットが陥没する。

 ポチがヴァンパイヤの足に噛みつく。

 一瞬だが、ヴァンパイヤが視線をポチにやった。


 俺はヴァンパイヤの腕を掴んだ。

 ヴァンパイヤがポチを蹴り剥がす。


 俺は空いた片手で紫外線ライトを出すとヴァンパイヤの顔に押し付けた。

 ヴァンパイヤの顔が灰になる。

 ヴァンパイヤはウギャーと悲鳴を上げた。


 紫外線で焼き尽くしてやるよ。

 紫外線ライトは俺も焼いていく。

 我慢比べだ。


 直撃はしていないので俺の方が有利だが。

 まずは、足を貰おう。


 足を紫外線ライトでぶった切る。

 足は再生していくが、その速度は遅い。


「ふしゅう、血を寄越せ」


 ヴァンパイヤは俺の腕に噛みついたが血は一滴もでない。

 金属支配しているからな。


 両足を灰にしてやった。

 続いて両腕を灰にして、尋問する事にした。


「きりきりと吐けよ」

「ただのレッサーではないな」

「知るかよ。黒幕はどいつだ。お前か」

「ふっ、知らないという事は幸せな事だ。ヴァンパイヤは真祖様からしか生まれない。真祖様を敵に回したぞ」

「そうか、そいつがボスか。ちょっと肉をもらうよ」


 俺は再生し始めている腕の肉を引き千切って、金属支配する。

 そして容器に保管して、アイテムボックスに入れた。


「真祖はどこにいる」

「さっさと殺せ」


 聞きたいことはもう聞いた。

 こいつに用はない。

 胸に紫外線ライトを当ててからコアを潰した。

 ヴァンパイヤは灰になった。

 俺は血を飲んで紫外線のダメージを癒す。

 ぷはぁ、美味い。


 職員を起こさないと。

 気付け薬を飲ます。


「ごほっ、何ですかこの不味いのは」

「ただの気付けだよ。運がよかったな。電撃魔法を食らっていたぞ」

「そうですか。ところでモンスターは」

「俺が討伐しておいた。翼が生えているゴブリンだったよ」

「ゴブリンマジシャンの変異種でしょうか」

「そんなところだろう」


 ボスが真祖だという事が分かった。

 ジェマの貸しを取り立ててやらねば。

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