第195話 おっさん、ロックワームを退治する

 夜間こっそりと暗視スコープを被って宿舎に近づく。

 窓にはガラスは嵌っておらず、板がつっかえ棒をしてあるだけだ。

 隙間から手紙を入れる。

 程なくして、窓から合図の小石が投げられた。

 俺はそっとトランシーバーを窓の隙間から入れて、急いで離れ森の中で通話を開始した。


「もしもし」

「遠距離で話せる魔道具は初めて見た」

「最近開発されたのさ」


 トランシーバーは魔道具という事にしてある。

 説明が面倒だからな。


「俺達は坑道から転移の魔法陣で連れ去られた」


 当たりを引いたらしい。


「すぐに助け出してやりたいが。ダイヤモンド魔導士の数はどれくらいだ」

「30人はいるだろう」

「さらわれた水晶魔導士の数は何人だ」

「60人はいる」

「分かった。また明日連絡を取り合おう」

「助けに来てくれてありがとな」


 俺はトランシーバーを切った。

 救出作戦を練らないといけないな。


 作戦は出来た。

 さらわれた奴らは穴掘りのプロだ。

 抜け穴を掘ってもらう事にした。


 こうなると俺がやる事は殆どない。

 昼間は双眼鏡で坑道の入口を見張るだけだ。


 坑道の入口が騒がしい。

 這う這うの体で鉱夫やダイヤモンド魔導士が逃げ出してくる。

 何かあったのか。

 ここからでは声は聞こえないので説明が欲しい。


 トランシーバーに呼び出しのランプがともる。


「もしもし」

「大変だ。ロックワームの大群が出やがった」

「でかいミミズか」

「ああ、そうだ。肉食で狂暴の奴だ」


 仕方ない。

 予定と違うが、坑道に突入しよう。


「助けに行く」

「助かったよ。ロックワームは足音に敏感だ。だから仲間は坑道で身動きできない」


 なるほど、状況は分かった。


「アニータ、お留守番だ」

「はい、パパ」

「よし、良い子だ。帰ったら、チョコレートをやろう」


 俺は道を駆けあがり見張りを瞬殺した。

 2級市民かも知れないが恨むなよ。

 緊急事態なんだ。


 流石に坑道の近くに行ったら、ダイヤモンド魔導士に呼び止められた。

 加速の魔導を使い坑道に飛び込む。


 ふぃー、ここからは現代製品の出番だ。

 ラジコンを魔力通販で買い、俺が行く先を走らせる。

 俺は念のため浮遊の靴を履いた。


 突如、地面が割れラジコンが飲み込まれた。

 ふむ、ラジコンに反応するのか。

 俺は浮遊しながら空中を歩いた。

 やっぱり、割れる地面。

 浮遊の靴と言っても力場で浮いているのだから歩くと振動が下に伝わる。

 おっと、地割れから獲物が落ちてこないのを不思議に思ったロックワームが顔を出しやがった。


 チャンスだ。

 メイスでロックワームを滅多打ちにする。

 一匹駆除できた。

 今回は運が良かった。

 俺の真下に顔を出さなかったからな。


 次もラッキーは期待できない。

 ラジコンを餌に釣りだすしかないな。


 しばらく行くとまたラジコンが地割れに飲まれる。

 俺はラジコンを飲んだ場所に小石を何度も投げた。

 やはり不思議に思ったロックワームが顔を出した。

 俺はメイスで滅多打ちにして駆除。

 時間は掛かるがこれしかないようだ。

 まだ、坑道は掘り始めて日が経っていないらしく、枝分かれもせず一本道だ。


 迷路みたいになっていたら難儀した所だ。

 10匹ほどロックワームを退治して、8人のさらわれた水晶魔導士の元に辿り着けた。


 彼らにも浮遊の靴を履かせる。


「足音を立てないようにすり足で歩くんだ。浮遊の靴も万能ではない。歩く振動は僅かに伝わるらしい」

「分かった。すり足だな」


 ラジコンを先頭にすり足で一列になって歩く。

 また、ラジコンが飲まれた。

 小石でロックワームを釣りだし、顔を出したところをメイスで滅多打ちにした。


「あんた、強いねぇ。その剛腕でハンマーを振るってみないか。きっと良い鉱夫になれるぜ」

「穴倉は性に合わない。悪いが他をあたってくれ」

「惜しいな」


「そんな事より、先を急ごう」


 ロックワームを退治しながら進み出口が見えた。

 ほっとしたのも束の間。

 外にダイヤモンド魔導士が大集合していた。

 その数30人余り。

 分かっていたよ。

 たぶん、こうなるってな。


 こっちの戦力は水晶魔導士が8人と俺。

 分が悪いなんてものじゃない。

 作戦を立てないと、普通にやったら勝てないだろう。

 唯一の有利な点はダイヤモンド魔導士は坑道を崩すつもりがないって事だ。

 採掘の予定が狂うのが嫌なんだろう。

 穴から攻撃を一方的にできる。

 ただし、あちらが坑道が埋まるのもやむなしと考えるまでだ。

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