第193話 おっさん、移住を手伝う
「えー、移住するにあたって試験を受けてもらう」
俺は声を張り上げた。
一回目の移住には付き合う事にしたのだ。
マグネシウム、アルミ、チタン、マンガン、クロム、コバルト、タングステンの金属とヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトンの気体を試す。
「やらないと駄目なのかい」
「ああ、村はモンスターが襲って来るんでな。戦力がいないと立ち行かない。柵のごついのを作るのなら別だがな」
「ダイヤモンド魔導士達に呪いを掛けたいよ」
「そうだな。俺も掛けたいが、現状では無理だな」
「よし、みんな。痛い訳でもないし、損する訳でもない。試験を受けようじゃないか」
「そうだな」
「そうしよう」
めんどくさいがやってやるという方向に流れたようだ。
こっちがめんどくさい。
「試験終わったよ」
試験を終えてスラムの人達が出て来る。
「ご苦労様。魔石に魔力を入れてくれ。そうすれば食料を渡す」
「本当かい。騙したら承知しないよ」
魔石の充填された魔力で魔力通販を使い一人あたり菓子パン1個を出してやる。
朝飯は菓子パン1個で我慢してもらうとして、昼飯をどうやって確保しよう。
「うめぇ、こんなうめぇパン食った事がない」
みんな口々に美味いと言うが、これから食事の世話をする俺の身にもなって欲しい。
まあ、魔力はスキル原理主義者が今までに持って来たダンジョンコアから吸い出した魔力がある。
魔力、持ち出しが当分続くな。
試験の結果、気体魔導士が6人と金属魔導士が38人でた。
戦力は十分だ。
暗殺者の本拠地だった村に向かって俺達は行進した。
その数千人を超える。
途中、モンスターが襲い掛かって来た。
魔導士になったばかりのひよっこが、ぎこちなくスキルを発動させスラムの住人を守る。
金属魔導士もいるからゴブリン程度には苦戦しないので良かった。
「足の皮がむけた者が多数出てます」
「分かった。包帯と靴を支給する」
傷薬と包帯とスポーツシューズを出してやった。
これはガンガン魔力が減るな。
しばらくしてまた報告が来る。
「倒れた者が多数」
「脱水症状じゃなければ手の打ちようがないぞ。とりあえずスポーツドリンクだ」
倒れた人間の大多数はスポーツドリンクで回復した。
後は熱があるものが回復しなかった。
風邪だと思いたい。
リヤカーを魔力通販で出して病人を載せる。
元気な男達に交代で引っ張ってもらう事にした。
「もう歩けないと言う者が出ています」
「適当な場所を見つけて野営しよう」
魔力通販でテントと炊事道具と食材を出す。
今日だけで1千万の魔力を使ったよ。
炊事道具とテントは何度も使えるから良いが、食費はな。
また、報告の者が来る。
「今度は何だ」
「虫に刺されて堪らないと」
スラムの近辺に草むらはないから、虫も少ない。
仕方ないな。
虫さされの薬と蚊取り線香を出してやる。
また、報告がくる。
「またかよ」
「筋肉痛で眠れないと言ってます」
しょうがないな。
筋肉痛用の湿布と塗り薬を出してやる。
仕舞いにはこんな報告も来た。
「酒を寄越せと一部の者が騒いでます」
「アル中がスラムには居たからな。やつらは酒が切れると見境ないからな」
安い焼酎でいいだろう。
それを出してやった。
流石にもう来ないよな。
そう思ってたら、来たよ。
環境が変わって眠れないとか、いびきがうるさいとか。
環境なんて知るか。
いびきは横向きに寝かせろ。
とにかく朝まで一睡もできなかった。
しょうがないので地球に帰って寝た。
まったく、移住なんて考えるんじゃなかったよ。
朝になるとほとんどの人間が寝不足だった。
眠気覚ましにコーヒーを飲ませる。
コーヒーパワーで歩いてもらいたいものだ。
歩みは遅々として進まない。
移動手段を考えなかった俺が悪いのだろうな。
こうなりゃやけだ。
病人を除いた一人一台に自転車を出してやる。
1千万魔力がまた飛ぶが知るものか。
行進は一時やめて自転車教室になった。
命がかかっているので乗り方の習得は早い。
一日で皆乗れるようになった。
病人を載せたリヤカーも自転車三台で引っ張る。
俺が考えた訳ではないが、こいつらが工夫した。
ノウハウをある程度つかめばこっちのもの。
それからは順調に進み始めた。
遂に10日で目的地に着いた。
俺はやりとげたぞ。
病人は死にそうになったら、エリクサーを飲ませたので、一人も欠ける事が無かった。
一大プロジェクトを終えた達成感は格別だ。
今夜は高級なウイスキーで乾杯しよう。
移住した子供達にはチョコレートを大人達には安いウイスキーを出してやった。
村の運営まではやりたくない。
気体魔導士の何人かが来て色々と教えてくれる手筈になっている。
彼らに任せよう。
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