第165話 おっさん、秘密結社を作る

「私は採掘の現状に我慢できないのですよ。ダイヤモンド鉱山が一番に優先されて、二番は金属だ。万物魔導士は色々な触媒が使えるから、気にしてないし。宝石魔導士は触媒が高くて、活躍がいまいちなので、発言力が弱い。この不公平をどうにかしたい」

「金属魔導士も触媒によっては不公平があるだろうな」

「ええ、鉄魔導士がとにかく触媒が豊富です。極端な話、川砂からでも大量に抽出できる。貴金属は魔導士としての実力はないですが、宝飾品を作るのに金や白金や銀は欠かせません。採掘は盛んにされてます」


 うーん、となると。

 鉄魔導士ほど優遇されてなくて強力な土魔導士が狙い目かな。


「やっぱり要は土魔導士か」

「そうですね。土魔導士はとにかく触媒の量だけなら世界一です。鉱山の採掘は主に彼らがやっています。要らない土を触媒にしてトンネルを掘り進むのですから、一石二鳥ですね」


 まずは意識改革だな。

 土魔導士の属性は珪素。

 珪素の酸化物は水晶。

 土魔導士より水晶魔導士の方が恰好よさげに聞こえる。


「土魔導士の事は水晶魔導士と呼ぶ事にしないか。その方が彼らも嬉しいだろう」

「ええ、宝石魔導士に含めても良いぐらいです。実際幾つかの宝石は触媒に使えますしね。ただ、最高火力が出るのが水晶なんですよね。宝石魔導士からは馬鹿にされています」


「おだてたら宝石魔導士会に入ってくれないかな」

「待遇は悪くないので引き込むのは難しいでしょう」


 待遇は悪くないのか。

 そりゃ触媒の採掘が滞ったら一大事だからな。

 それと、珪素って結晶だとシリコンなんだよな。

 この事実をどうするかだ。


「触媒を用意するのも問題だな。水晶を構成している珪素って半金属だから、結晶にすると見た目は金属なんだよな。金属魔導士会に入っちゃいそうだな」

「そうなんですか。土から抽出できるんですよね。鉄並みに便利じゃないですか」

「属性魔導で抽出して溶かしてインゴットにすれば、鉄魔導士級の出来上がりだ」

「そうですね。第二の鉄魔導士ですね。金属魔導士会を牛耳る存在になるかも」

「水晶魔導士は珪素の存在に気づいてない。これは秘密にしておいた方がいいな」

「ええ、余計なライバルを増やすのもなんですしね」


 だが、この事実を隠すのは勿体ない。


「信用できる水晶魔導士にはこの秘密を伝えてもいいかもな」

「そうですね。いっその事、秘密結社を作りませんか」


 うん、秘密結社いいね。

 表の顔は宝石魔導士会がやって、裏の顔を秘密結社だ。

 都合いい事この上ない。


「おっ、いいかも。世の中の不公平を無くすという理念でどうだ」

「いいですね」


 最初の活動はあれだな。


「まずは、生贄を辞めさせたい。この事実を公表してくれないか」

「夜中に街の至る所にビラを貼りまくってやりましょう」


「うん、いいね。秘密結社の名前は何にする」

「何か良いのがないですか」

「うーん、そうだ。俺がトップをやりたい。俺が持っているスキルの魔力通販から名前を取ってオーダーにしよう」

「あなた、スキル持ちだったのですか。もしかしてスキル原理主義ですか」


 初めて聞いたぞ。

 原理主義ってどうも地球での印象があって悪いイメージしかない。

 宗教が絡むと大抵良くないからな。


「いいや。ちなみにそれって何だ」

「スキルを信仰している奴らです。属性魔導は人工的に作ったスキルだから、邪道で。自然に覚えたスキルが至高だとか。マイナーで迫害されてます」

「そんな存在は知らなかったな」


「秘密結社のルールはどうします」

「メンバーの顔と本名は紹介者と俺しか知らないようにしたい」

「入会の時にあなたと会うように手配すれば良いですね」


「俺は覆面をして会う事にしよう。秘密結社の名前と同じニックネームのオーダーでいこう」

「では会合は覆面でやりましょう」


「結社の秘密を漏らした者は俺が呪いを掛ける」

「あなたそんな事も出来るんですか」

「まあ、魔法陣の改良した奴だがな。とにかくリオンは秘密結社を作ってくれ」


 秘密結社を作る事にした。

 リオンは政治家志望のように見える。

 あまり変な方向に暴走しないようにしないと。

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