第157話 おっさん、炊き出しする
ダンジョンを攻略する前に、当座使う触媒を確保しておきたい。
どうにか魔力通販を駆使して生贄の魔力回路を構築した。
ゴブリンを生贄に捕まえてこよう。
ふと、思った。
俺って酷い事をしているんじゃないだろうか。
モンスターにも家族がいて帰りを待っている。
人間の生贄は悪くてモンスターの生贄は良い。
なんて傲慢な考えなんだ。
いや、動物並みの存在に人間が遠慮してどうする。
やめよう、こんな事を考え始めたら、肉は食えない。
エゴで良いじゃないか。
博愛主義くそくらえだ。
俺は俺のエゴを満たす為に生きる。
あのパンと水の恩を返す。
それで良い。
俺の法律では少女を殺した事に関わった人間は死刑。
そう決めた。
「
ゴブリンを拘束して生贄の魔力回路に乗せる。
ゴブリンの悲鳴が研究所での出来事に重なる。
やめだ。
生贄はやめだ。
なんか胸糞悪い。
さて、困ったぞ。
生贄を使わないで魔力を稼ぐのはスラムで炊き出しして、魔力を寄付してもらうしかない。
「スラムで炊き出ししたいが、ジルコニアは売りたくない」
街に戻って一番、ジャスミンに相談した。
「じゃ代わりの物を売ったら」
「高く売れるのはなんだろう」
「工芸品は駄目ね。魔導士の職人がしのぎを削ってるから」
「100均だとプラスチック製品か」
「それってどんなの」
俺はプラスチック容器を出してやった。
「透明で綺麗なのは良いけど、高くは売れないと思うわ」
「売値が高いのは電卓と時計辺りか」
電卓と時計を見せる。
「この電卓っていうのは良いんじゃない。文官が泣いて喜びそう」
「よし、これを売ろう」
「営業はジャスミンに任せた」
「とうぜんマージンは貰えるわよね」
「売値の一割を渡そう」
「電卓の売値は強気の金貨1枚にしたいから、一つ売る毎に銀貨10枚ね。乗ったわ」
「炊き出しの人員をどうやって確保しよう」
「そこは私がなんとかするわ。これでも魔導士の伝手は持っているつもり」
「悪いな色々と任せて」
「良いのよイチエンダマがある限りモンスター討伐は怖くないわ。今までは触媒のやり繰りが大変だったから」
炊き出しをして魔力を集める。
集めた魔力で電卓を出す。
電卓を売ったお金で炊き出しの食材を買う。
更に余った魔力で触媒を買う。
サイクルが出来た。
チタン板100万円相当が備蓄できた。
これだけあればダンジョン攻略も出来ると思いたい。
それと、スラムの協力者が15人増えた。
属性は判明していないが、炊き出しを手伝ってくれる。
俺にとって魔導士かそうでないかなんて関係ない。
だが、判明させられるのなら判明させてやりたい。
よし、順番に行こう。
元素番号1は水素だから、関係ない。
水魔導士は水素属性だ。
元素番号2はヘリウムだ。
ふふっ、ヘリウムガスはなんと100均で売っているのだ。
アルミ風船も100円、ガスと合わせて200円だ。
200魔力で風船を作る。
俺は露店ほどの試験スペースに風船を持って入った。
スラムの住人は入って来て、チタン片にスキルを使う。
がっくり来る様子もない。
何回もやって慣れているのだろうな。
ジルコニアをギラギラした目で見つめる。
隙あらば盗ってやろうという意思が見え見えだ。
アニータからは住人が盗もうとしてアニータの魔導を食らったと聞いた。
ジルコニアにスキルを使って名残惜しそうにその場を離れ、風船の前に立つ。
「これ何だ。変な物だな。宙に浮いている」
「触媒の一種だ。俺が秘境で探してきた」
「そうかい。
「ご苦労さん。参加賞の紙だ」
「ありがとよ」
それから10人ほどが訪れたがみんな反応はしなかった。
そして。
「
風船が一つ破けて落ちる。
「おめでとう。君はヘリウム属性だ」
「俺って魔導士なの。やった1級市民になれる。母ちゃんも2級市民だ」
「1級市民の試験に受かればな」
「風船ほしい」
アニータからねだられた。
「そうだね。手伝ってもらっているからお駄賃だ。好きなのを持っていって良い」
「ほんと」
「ちなみにこの風船アルミだから、ジャスミンの触媒にも使える」
「飽きたらジャスミンにあげる」
まあ、その前にガスが抜けて、しぼむんだけどな。
「ちなみにこんなのもある。あー、本日は晴天なり」
「へんな声」
変声用のヘリウムガスだ。
吸うと声が甲高くなる。
お遊びはこのくらいにしておこう。
スラムでヘリウム属性は4人出た。
1級市民の試験の為にアルミ風船を何十と持たせてやった。
試験官にする良い訳として、ヘリウムガスは秘境の山中から噴き出していた事にした。
ところでモンスターを気体の触媒でやれるだろうか。
俺の心配する事じゃないか。
怖いなら辞めておけばいい。
自己責任だ。
ちなみにヘリウム属性の4人は無事合格した。
倒した相手はゴブリンだったらしい。
あれっ、俺って嫌われている。
慣例を最初に破る人間に対する風当たりだと思いたい。
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