第125話 おっさん、調味料を売る

 うーん、武器屋から情報が入ってくる事は期待薄だ。

 ジェリが立ち寄りそうな場所。

 塩関係だな。

 俺が塩問屋に行ったら門前払いだろう。

 なんと言ったら話を聞いてもらえるか。

 塩を売りますは駄目だな。

 ここは塩の産地だ。

 品質には自信があるが。

 2万円弱の魔力では出せる量も高が知れている。


 ダンジョンコアの魔力でなぜ塩を買わなかったかと言うと、大量の塩を持ち込むと塩を作っている職人が大打撃だ。

 かと言って少ない量では影響力がないだろう。

 決めた。

 化学調味料だ。

 ただの塩が超高級な塩になる魔法の粉と言って売り込もう。

 高級路線なら、量が少なくても問題ない。


 20キロの化学調味料で1万円弱。

 いいんじゃないのこれ。


 俺は塩問屋を尋ねた。


「塩に混ぜると劇的に美味くなる魔法の粉があるんだが、商談をしたい」

「ほう、胡散臭いな。原料はなんだ言ってみろ」

「海藻を精製したものだ。食えないものじゃない。麻薬とも違う」


 実際は海藻の成分を化学的に作り出した物だけど。


「なるほど、海藻をね」

「どうですか」

「お前さん馬鹿か。塩に海藻の粉を混ぜる事ぐらい簡単に出来る。わしなら買わんで自分で作る」

「なるほど、参考になりました。秘密を教えた報酬として買ってくれませんか」

「いいだろう。見本として買ってやる。後で海藻の粉を混ぜた奴と比較するが悪く思うなよ」

「ええ、うちは小商いなんで、少し買って頂ければ問題ないです」

「変わった奴だな。悔しがる素振りが少しもない」


「相談なんですがね。この女が塩を大量に買っていきませんでしたか」


 俺は人相書きを見せた。


「見ない顔だな。ははーん、お前さんこれが目的だったんじゃないかね」

「そこのところはご想像にお任せを」

「この女は見ないな。さあ、魔法の粉という奴を出してみろ」


 俺は化学調味料を取り出した。


「おい、料理長を呼べ」


 店員が小僧にそう言った。

 しばらくして、エプロンを着けた料理人と思われる人が現れた。


 化学調味料と塩が混ぜられる。


「食ってみろ」

「はい。これはどこの産の塩ですか。コクと言うかなんと言うか美味い」

「宣伝文句に偽りはないようだ。よし、人探しに協力してやろう。うちと取引のある料理店を紹介してやる。人相書きを持っていくといい」


 紹介状と店のリストを貰った。

 一軒目はここだ。


「邪魔するよ」


 料理人が奥から顔を覗かせた。


「はい、なんですか」

「塩問屋に紹介してもらったんだ。実は人を探していてね」


 料理人は紹介状を読むとため息をついた。


「協力してやりたいのは山々だが、商売が忙しくてね。客の顔なんて確認しちゃいられない」

「そうですか。この街にいる間だけですが、魔法の調味料を提供しますよ」

「ほんとか、香辛料なんて言うんじゃないだろうな。ここは港街だから、香辛料は食い飽きた」

「いいえ、とんかつソースと醤油です。特に醤油はお勧めです。焼いた肉の表面に塗ると、店に行列が出来ること請け合いだ」

「ほう。試して見ていいか」

「どうぞどうぞ」


 厨房にお邪魔する。

 肉を串に刺して焼き始めた。

 焼きあがった所で醤油が塗られた。

 醤油の焼ける香ばしい匂いが厨房いっぱいに広がる。


「こいつはたまらん」

「でしょでしょ」

「人探しに協力してやるよ」

「頼みますよ」

「任せときな」


 こんな感じでどの店も快く協力してくれた。

 最後の一軒は料理店じゃなかった。


「あー、睨まないでもらえます」

「おめぇ、ただでわしらを使おうなんて考えていないよな」


 そう言ったのは露店の元締めだ。


「魔法の調味料を提供します」

「ばか言っちゃいけない。うちで回るのは最後だろう。今までその魔法の調味料をさんざん使っただろう」

「しょうがないな。どこにも出してない取って置きを出すよ。その名もマヨネーズ」

「ほう、この黄色いのがね」


「パンに塗って少し炙ってもいいし、焼いた魚に塗ってもいい。蒸かした芋と一緒に食うのもお勧めだ」

「なるほどな。どれぐらいの量を用意できる?」

「一日もらえればかなりの数を」

「分かった。人探しに協力してやる。もっとも今貰った見本で食ってみてからだな」

「大丈夫、味には自信がある。また明日来るよ」


 マヨネーズの魅力に抗えるものなら抗ってみやがれ。

 明日、納品に来た時に白旗を上げる様子が想像できる。


 さあ、ダンジョンに行って、調味料を仕入れるぞ。

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